▼ ▲ ▼

うちの学校の野球部は所謂強豪校で、野球留学で他県から来て寮生活をしている人もいる。それなりに有名な選手が揃っているけれど、その中でもキャプテンで正捕手、そして四番を背負う彼は特に目立っている。

御幸一也。

それは、密かにわたしが片思いをしている人の名前。

去年の夏、野球応援に行った時に一年生ながらも正捕手として試合で活躍する彼の姿を見て、あっけなく恋に落ちたのだ。

二年生になって同じクラスになったときは人生の運を全部使い果たしたんじゃないかと思うくらいに嬉しかった。だけど、同じクラスで彼のことをよく見てしまうからこそ、この恋は叶うことがないのだと気付かされてしまった。

「なまえちゃん」

彼はあまり積極的に女子に絡むタイプではないのに、その子にだけは自分から話しかけに行く。

「何?」
「髪はねてるけどいいの?」
「え。どこ?」
「ここ」

そう言ってその子の髪のはねている部分を優しく触った。他の女の子には絶対見せない、穏やかな表情で。

「うわあ、直して来る…」
「いってらっしゃい」

ヒラヒラ〜と手を振ってその子の背中を見送っている。
ずっと見ているわたしじゃなくてもきっと分かる。御幸くんはその子…野球部のマネージャーをしているなまえちゃんが好きなんだって。その目が、言葉が、態度が、なまえちゃんにだけ全然違うから。

『…御幸くん』
「…ん?」
『日本史のノート、まだ出してないよね?』
「あーそうだった…ちょっと待って」

立ち上がってロッカーに向かった御幸くん。180近くある身長と、鍛えられた大きな身体。ああ、なんでこんなにかっこいいんだろう。

「ごめんごめん。よろしく」
『…うん』
「お、なまえちゃん直った?」
「全部直らなかった…」
「はっはっは、ほんとだ」

戻ってきたなまえちゃんの髪は、確かにまだ少しだけ跳ねていた。

「てか御幸まだ出してなかったの?」
「忘れてた」
「…野球以外のことにも頭使いなよ」
「ムリだな」

ほんとに、ほんとに楽しそうに彼女と話す御幸くん。最初はやっぱり嫉妬もしたけど、ここまで来るとわたしの入る隙はないんだなって思い知らされた。

『…御幸くんはなまえちゃんのことは考えてるよ』
「…は、」
「え?」

御幸くんにだけ聞こえるように、そっとつぶやいた。案の定彼の顔は少しだけ赤くなって、ちょっとだけ嬉しくなった。その顔は、わたしがさせたんだ。

「何か言った?」
『んーん、何も!ね、御幸くん』
「…おう」

少しの意地悪くらい、させてよね。
結局はじまりから終わってたのよ

title by すいせい

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -