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※御幸世代三年設定

「ははははは!みなさん!今日は青道のチーターこと!倉持洋一の誕生日です!!さあみなさん!盛大な拍手を!」
「るせぇ!!」
「ぐああぁぁっ!」

朝練後のグラウンド。じりじりと暑さがせまってきた5月も半ばの17日。栄純が大声でおふれを出しているように、今日は倉持の誕生日だ。マネだからみんなの誕生日を覚えているとかそういうのではなくて、単純に2日前の栄純の誕生日のとき、これまた栄純が大声で「2日後はもっち先輩ですよ!」と言っていたのを聞いて思い出したのだ。
そこから何かしらプレゼントをあげた方がいいのか、あげなくてもいいのか…。そんなことをいろいろ考えていたら、あっという間に当日になり、結局わたしは何も用意できなかった。そうなってしまったものはしょうがないので、直接本人に聞いてみようというのがわたしの今朝出した結論だ。

片付けや着替えを終えて教室に向かう道中、御幸と一緒に校舎へ向かう倉持の背中を見つけて追いかける。

『倉持!』
「あー?」
『今日誕生日!』
「…まあ」
『おめでと』
「おう」
「あれ、倉持照れてる?」
「照れてねぇわクソメガネ」
「えぇー…ガチじゃん」

御幸が茶々を入れてきてそれに倉持がしっかり反応してしまうから、なかなか話が進まない。

『…もー御幸はいいから、何か欲しいのある?』
「…なんかくれんの?」
『まあ、用意できるのであれば』
「…考えとく」
「くーらーもーちーくーん?」
「うっせぇな分かってるっつの」
『じゃあ何かあったら言ってね、今日中に!』

そう言ったのが朝。それから昼休みも部活が始まる前も何も倉持からコンタクトはなく、ついに部活まで終わってしまった。
二年生の秋大あたりから、一人で帰るときはほとんど倉持が送ってくれるようになっていたから、そのときにまた確認してみることにした。

『…あ、倉持』
「ワリィ待たせたわ」
『それはいいよ。自主練いいの?』
「おー」

自主練や片付け、着替えを終えてしばらく待っていると、倉持がジャージに着替えてやってくる。これももう見慣れた光景になった。

『とりあえず、これどうぞ』

先ほど買った申し訳程度のプレゼントは、倉持がいつも飲んでいるもの。この人との付き合いはもう三年目になるから、そのくらいは把握している。
少し驚きながらも受け取ってくれて、喉が乾いていたのか蓋を開けてすぐに飲み始めた。

『何か決まった?』
「あー、そうだなあ…」

飲み物を飲みながら歩き始めた倉持の背中を追いかけるようにしてわたしも歩き出す。
最近少しずつ暑くなってはいるけど、まだまだ風は冷たい。

『さすがにまだ冷えるね』
「…いるか?」

飲み物をポケットにしまって差し出してきた手に、ちょっとだけ考えたあと、それに応じるようにして自分の手を重ねた。何度か繋いだことがあるけど、やっぱり慣れない。

「だから手汗かくなよ」
『わたしじゃないって言ってるじゃん』

前にもこんなやりとりしたな、なんて思い出して笑ってしまった。それは倉持も同じようで、その特徴的な笑い方で笑っている。

『あ、忘れてた。誕生日おめでとう』
「それ今朝言ってたぞ」
『いーの、プレゼント渡した時に言わないと』
「あれがプレゼントねぇ」
『…あれとはまた別で!欲しいの決まった?』

わたしがそう言うと、倉持は少し考えてからわたしの方を見て、いつもより幾分か低い声でこう言った。

「欲しいものはあるけど…くれんの?」
『…まだ、分かんない』

倉持が言う"欲しいもの"。それが何を意味するのか、何となく察してしまった。けど、わたしはそれに対する答えをまだ出せていない。

「…ヒャハ、だよなあ」
『でも、』

この人ともっと近くにいたいな、そんな気持ちが強くなってきているのは確かだ。

「え…」

緩く繋がれた手を離して、両腕を広げて目の前の人に抱きつく。最初はびっくりしていたけど、すぐにぎゅうっと抱きしめ返してくれた。まだ答えを出せていないくせに、こんなことするのはどうかと自分でも思う。けど、今日だけは。

「…お前ってたまに予測できねぇことすんな」
『…そうかな』
「はー…しんど…。お前マジで覚悟しとけよ」
『え』

なんだか怖いこと言われた気がしたけどそれはあとにとっておこう。

『あ、そういえばプレゼントどうしよ?』
「…もう十分もらった」
『えー』
「…じゃあ、」

頬に落ちたキスは、前よりも熱がこもっていたような気がした。

『誕生日おめでと』
「…サンキュ」
HAPPY BIRTHDAY!
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