▼ ▲ ▼

そして、8月2日。 家でゆっくりしていたら、高島先生からの電話が鳴った。話があるから学校に来れないか?という内容だった。特に用事もなかったので、制服に着替えて髪も整えてから家を出た。もう日は沈みそうだった。
この時間に学校に行くの、なんか新鮮だなあ。

学校に着くと、相変わらず室内練習場からは金属音が聞こえる。その音を聞きながら、スタッフルームへと向かう。

『倉持、ゾノ…』

スタッフルームに入ると、監督と高島先生、それに倉持とゾノがいた。 御幸と合わせてこの3人が次期キャプテン候補と言われている。もしかして、いやもしかしなくてもキャプテン決めるための話し合いなんだろう。

「みょうじさん、遅くにごめんなさいね」
『いえ、大丈夫です高島先生』

そして、これで役者は揃ったのか、監督が静かに口を開いた。

ー 御幸を、キャプテンにしようと思う ー

「え!?御幸がキャプテン…ですか!?」
「どう思う?お前たち3人の意見が聞きたい」

キャプテン候補と言われていたのは3人。その中から監督が選んだのは、御幸だったらしい。
倉持が、監督の問いかけに答える。

「哲さんのようなタイプのキャプテンになれるとは思いませんが…御幸でいいと思います。自分は未だにあの試合を整理できてません。けど…あいつは違った。敗戦を受け入れ前を向いていましたから」

「前園君は…」

「…一年の時からレギュラーだったあいつに…下にいる者の気持ちがわかっているかは少し疑問です。ですが、野球の知識や発言力…あいつ以上に存在感のある男はいません。自分も内心では御幸しかいないの思っていました」

倉持も、ゾノも、それぞれ考えて、考えて出した答え。

「…みょうじさんは?」

『…選手が1番頼りにできる存在が、キャプテンだと思います。なので、今、ここで倉持とゾノが御幸をキャプテンにしたいというのなら、それで、…それが、1番いいと思います』

キャプテンは、みんなの心の拠り所。いざというとき、名前が出てくる存在。
わたしたちの代のキャプテン…そう考えたとき、やっぱりわたしも最初に思い浮かべたのは御幸だった。

『それに、わたし個人としても、御幸ほど、野球に関して頼りになる存在はいないと思います。そのプレーで、きっと引っ張ってくれると思います』

「わかった。御幸にはすぐ伝えよう」

「ただ、不安がないというわけじゃない。当然打線でも主軸を打ってもらうだろうし、キャッチャーとして投手陣をまとめなくてはならない。あいつにかかる負担は今以上に大きくなるんだ」

「「『……』」」

「おまえら三人があいつを支えてやってくれないかー」

御幸にかかる負担は、今以上に大きくなる。
これまでも、キャッチャーとして投手陣をまとめ、打線でも活躍してきた御幸。

さらにキャプテンとして、チーム全体をまとめなければならないとなると、御幸にかかる負担はとてつもない。

支え、きれるだろうか。 わたしに、何ができる?

「みょうじさん、帰りは気をつけてね」
『高島先生…はい』
「マネージャーは藤原さんが引退したから、みょうじさんにまとめていってもらうことになるわ」
『はい』

わたしも、貴子さんのような、マネージャーに、なれるだろうか。

そして次の日、新キャプテンがみんなに発表された。
そこで放った御幸の言葉は、これからわたしたちの代を、突き動かしていくことになる。

「…多分、自分はあの決勝戦を一生忘れることができないでしょう。自分の未熟さを思い知り相手の強さも知った。何より野球が怖いと初めて思った。引退していった先輩たちには申し訳ないけど…自分達にはもう1年リベンジするチャンスがあります……やるからには結果にこだわりたい…」

「勝つことにはとことん貪欲でありたいと思います」

そうか、言い換えれば、先輩たちの敵をうてるのは、わたしたちだけ。その御幸らしい言葉に、少しのキャプテンらしさを感じたところで、

「てことで…言いたいことは全部言うつもりなんで…覚悟しといてください」

…んん?なんか恐ろしい言葉が聞こえた気がする。

「お…おいあいつ今…」
「目がマジだったぞ」

「ゲェーそれあたしたちにも!?」
『…かもね…』

これは、わたしたちマネージャーも、相当頑張らないと。

「それじゃまずはアップから」
「あ゛〜!?聞こえんな〜キャプテン!!そんな声じゃ!!」

普段そんなに声を張り上げない御幸が、いつものトーンで言えば、すかさずゾノが突っ込む。

「…〜っ、まずはアップ!!声出してこーぜ!!」
「しゃあ!!!!」

『御幸の大声…始めて聞いたかも』
「ね、めずらしいね」
「これから嫌でもきくんじゃん?キャプテンだし」

新キャプテンも決まり、ようやく青道野球部は新体制でのスタートを切った。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -