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夏直前合宿もおわりを迎えた。最終日3校総当たり戦はどれも収穫のある試合だったと思う。それに、成宮がみせたチェンジアップ。私たちが成長しているように、あちらも同じように成長しているということを見せつけられた。
けれど、失うものも多かった。第3試合、修北との試合。バッターボックスに立った丹波さんを襲ったのは、相手ピッチャーのボール球。顔面を直撃し、そのまま病院へ運ばれることとなった。試合は6回で中断、そのまま解散となった。
選手はもちろん、3年生の動揺は計り知れないだろう。やっとエースらしくなってきて、これから最後の夏だというのに。
これから先への不安と、焦りからか、すぐに帰る気分にはならなかった。
丁度プレハブを覗くと、誰もいなかったので電気をつけて今日の試合、そして今回の合宿の内容を自分なりにまとめなおす。毎日ノートに練習内容や気になったことをメモしてはいるが、やはり急いで書くのでごちゃごちゃだ。きれいにまとめ直して、今後の参考になるものにしなければならない。
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「あ、御幸くん。なまえ知らない?」
丹波さんが病院へ行き、合宿の片付けやら自主練やらをしていると、貴子さんに声をかけられた。
「なまえですか?見てないですけど」
「あれー?おかしいな。部屋の片付け終わって、荷物そのままでどっか行っちゃったんだよね」
「探してきます?」
「お願いしていいかな?わたしたちそろそろ帰らないとだから」
時刻はもう9時をまわっている。明日だって普通に朝練があるし、授業だってある。
「いいですよ。お疲れ様です」
「ごめんね。ありがとう。お疲れ様」
さて。あいつどこにいんだ?誰かの自主練に付き合ってる?いや、さっきまで俺も自主練してたけど見当たらなかったしな。だとしたらプレハブか用具室か?
だいたいの目星をつけて、まずプレハブに向かう。あ、電気ついてんな。ここだろ。
「なまえ?」
扉を開け、中を覗く。あ、いた。って、返事ねーな。…顔も机についてるし、寝てんのか?
なまえの顔を覗く。スースーと、小さな寝息を立てながら、気持ちよさそうに眠っている。
そりゃそうか。合宿中ずっと家に帰らず、慣れない寮で生活して、さらには朝から晩まで練習に授業。そういえばこいつ、授業中もほとんど寝てるとこ見たことねーや。あ、音楽のときは寝てたかも。
なまえの顔の下を見れば、合宿についてまとめられたノートがあった。ああ、これをまとめたくて残ってたのかね。
なまえの寝顔は思ったよりも幼くて、普段開いている目も今は閉じられている。こんな気持ち良さそうな顔で寝てて、起こせるかっての。
自分が着ていたジャージを脱ぎ、なまえにかける。さーて、あと10分したら、起こしてあげようか。
「なまえ、起きろ」
『……うん?』
「起きろって」
『………御幸!?』
「はっはっは。おはよう」
『え、わたし寝てた!?』
「そりゃもうぐっすり」
『…寝顔みた!?』
「……さーはやくかえんねぇと心配されるぜ?」
『みーたーなー!わすれて!』
「はっはっは」
『ちょっと御幸!!!』
『…て、これ御幸の』」
「おう」
「ごめんね、ありがとう」
(ただの部員と、マネージャー)