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「おーい奥村!俺今日シートで投げるんだよ。お前受けるか?」

ゴールデンウィークも間近に迫った練習前のある日。普段なら御幸にお願いしている栄純が、今日はなぜか奥村くんを誘っていた。結局なんだかんだで由井くんが受けることになり、奥村くんは降谷くんと組むことになっていた。

「なんだこのモヤモヤは!」
『栄純どしたの?』
「あ、なまえ先輩!お疲れ様です!」
『うん、お疲れ。で、何事?』
「御幸先輩が一年と組めと言ったので!」

話を聞くと昨日できるだけ一年生とバッテリーを組むように御幸に言われたようだ。何か企んでるな、と思い後ろにいた三年生の中に御幸の姿を見つけて視線を送ると、ニヤっと笑っていた。

『…栄純』
「?どーかしました?」
『ううん、がんばってね』
「もちろんです!!」

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『倉持さっき聞いた?御幸から』
「おーなんか後輩をどうリードしていくのか見ときてーんだと。まあクソ楽しそうにしてたわ」
『…だろうね』

練習後、自主練に向かう倉持と出くわしたので先ほどのことを聞いてみた。御幸のニヤニヤした表情は最早いつものことだ。

「あ、おいなまえ」
『ん?』
「これ着ろ」

そう言って渡されたのは倉持のパーカー。今日はいつもより肌寒くて、ちょっと寒いなあと思っていた。

『…なんで分かるの?』
「お前分かりやすいから」
『えー…マジか』

そうか、わたし分かりやすいのか…。これこら気をつけよ、と思いながら寒いのは確かなのでありがたく着ることにした。少しぶかぶかなのはまあ仕方ない。

『…何その顔』
「…別に」

倉持が目を見開いてこちらを見ていたから、何か変なところでもあったのかと自分の格好を見る。けど、特に変なところは見当たらなかった。

「なあ」
『?』
「こっち」

人目に入らないような物陰まで腕を引っ張られて、わたしはあっという間に倉持の腕の中にいた。

『え、え?』
「…うっせ」
『…何も言ってないのに』
「お前のせい」
『理不尽…』

ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、ぎゅうっと優しく力を込めて抱きしめられる。さっきまで肌寒かったのに、今はドキドキしすぎてじわじわと暑くなってきた。

「…じゃ、自主練行くな」
『うん…』

しばらくそのままでいたあと、ゆっくりと体が離れていく。少しだけさみしいのは、気のせいだ。うん。

「それ着てろよ」
『ありがたく着させてもらいます』

わたしの言葉に満足したのか、「ヒャハ」と笑って自主練に向かっていった。少し大きいパーカーからは、倉持の熱と匂いがして、しばらく落ち着かなかった。
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