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この日春大決勝の裏で青道グラウンドでは紅白戦が行われ、二、三年生が猛烈にアピールする中、一年生も奮闘したものの、結果15-3と先輩たちの圧勝で幕を閉じた。

「なまえ帰んぞー」
『あれ自主練終わり?』
「今日オフだしな」
『ああ、そういやそうだ』

主力組は今日オフのはずだけど、普段と変わらず練習に顔を出しているし自主練も変わらずやっているからそのことがすっかり頭から抜けていた。

『浅田くんいい球投げてたね』

当たり前のようにわたしの隣に並び最寄駅までの道のりをゆっくり歩く。だんだん日が伸びてきて、あたりはまだうっすらと明るい。

話題は専ら今日の紅白戦と春大決勝のこと。一時期心配していた倉持と同じ部屋の浅田くんは、今日の試合で上級生相手にしっかり投げ抜いていた。そして春大は稲実が優勝し、敗れた市大三高、さらにセンバツベスト4の薬師とともに関東大会出場が決まった。

秋大を優勝し甲子園で戦った二、三年生に新一年生が加わってどういう化学変化が起こるのか、これからの練習、試合が楽しみだ。

「何ニヤニヤしてんだよ」
『そんな顔してた?』
「…ヒャハ」
『にゃにすんの』
「言えてねぇし」

それは倉持がわたしの頬を引っ張るからだ。少しくらい痛いかと思ったけどそんなことはなくて、本当に優しく引っ張られている。

「ぷよぷよしてんな」
『え、喧嘩売ってる?』
「売ってねぇよ物騒なヤツだな」

その間にも倉持はわたしの頬をふにふにと触っている。そんなに太った感じはしないけど、最近お菓子をよく食べているかも…控えようかな…。

「…行くぞ」
『はーい』

ふにふに頬を触っていた手はスルスルと頭に移動して、軽く撫でて離れていった。先に歩き出した倉持の背中を追いかけるように、わたしも歩き出した。

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「それ…5月の試合日程か?」

3年B組の教室内では、御幸が座る席の前に腰掛ける倉持、そして隣の席に座ったわたしが来月のスケジュールについて話していた。
紅白戦の結果数名が一軍や二軍に合流することとなり、もうじきやってくるゴールデンウィークを始め、休日は試合三昧だ。

「ん…ああ」
『結構日程キツキツだよね』
「そうなんだよなー…正直川島が合流してくれて助かったよ」
「翌日のこと考えてローテ組んだり投手陣のやりくりは大変そうだな」
『しかも御幸5月末から東京選抜でしょ?』
「バッテリー間のリズムもあるだろうし大丈夫なのか?」
「離れるって言っても3日だけだよ」
「本当かよ」

東京選抜。

今年から始まる新しい試みで、アメリカのチームと対戦するものらしい。今年はお試しでこの時期になったが、来年からはさすがに秋になるそうだ。集められるのは東京選抜というだけあってチームの要の選手ばかりだろうし、この時期はさすがに厳しいよなあ。

「それにしてもやるべきことが多すぎる…降谷も沢村も自分からいろいろ考え始めているからな…今だから教えられることもあるし。でもやっぱバランスだな。与えすぎて頭ガチガチになられても困るし、この辺の塩梅が一番難しい…」
「…よくしゃべるな…お前…」
「そうか?」

本当にこの人は野球のことで頭がいっぱい。そういえば御幸が野球以外で楽しそうな顔をしているのはあまり見たことがないかもしれない。

「正直いくら時間があっても足りねーよ…」
『…でもなんか楽しそうだね』
「そんなことないよ」
「いーやお前がベラベラしゃべりだしたら怪しい!」
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