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その後食堂のあたりまで幸子と一緒に(後ろには御幸と倉持)戻ってきたら、栄純と降谷くんが負けた原因が自分だということで言い合っていたらしい。
そしてPM6:00、ミーティング開始。
今日の試合の反省、それが夏の本番へ結びつく。
「夏の本戦まであと3ヶ月」
その間背番号は一旦白紙となり、夏までの成績、日々の態度で選び直すことを監督は宣言した。そして明日、主力メンバーはオフ、残りのメンバーと一年生は8時から練習でミーティングは終了した。
「御幸先輩、あとで部屋いっていいですか?」
「…え?」
「今日の試合のことで質問があります!」
「…質問?」
「じゃあ8時に行くんで!」
栄純がすごい勢いで御幸にそう宣言して去って行った。その勢いに御幸もびっくりしたようで、いつもより反応が鈍かった。
「やっぱ怒ってるか…あいつ」
「かな?何言われるんだろ…俺」
「リードのこともっと知りたいって。さっきそう話してたよ」
ーもっと御幸先輩のリードを汲み取って投げられるようにならないとー…
「負けられねぇな…」
いつだって栄純はわたしたちの想像をはるかに超えてくる。それがどれだけ、他の選手たちの刺激になっていることか。
「負けられねぇよな……俺達も」
そう呟いた御幸の表情に、一瞬そこにいた全員が見入ってしまった。それはわたしも例外ではなく。
「そうやで!!俺達三年ここからが本番なんや負けられへんねん!!」
「近いから」
「もう一回甲子園に立つんや!!」
「いくでぇ!!甲子園!最終的に俺達が勝ぁ〜〜つ!!」
「ゾノ、お前沢村みたいになってんぞ!」
御幸のその横顔が、しばらく頭から離れなかったのはわたしだけの秘密。
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「なまえまだいたの?」
『ひっ…なんだ御幸か』
「相変わらずビビりだなー」
『誰のせい』
「あれ、なんか顔赤くない?」
『…気のせいだよ』
さっきのあの表情が脳裏にこびりついていて、どうしても意識してしまう。それに加えてミーティング前のあの幸子との会話がそれに拍車をかけている。
『…った!』
動揺しすぎて何もないのに躓いてしまい、バランスを崩したもののなんとか転ばずに済んだ。普段ならこんなことないのになあ。
「何してんの?」
『…うるさい』
「ほら」
差し出された手は、ゴツゴツとしていて豆だらけ。やる気たっぷりな投手陣に付き合ったあと、またこっそりバット振っているんだ。そう思ったら、どうしようもなくこの手を握りたくなってしまった。
「今日は俺ね」
『…うん』
どうかこの手が、最後の夏の勝利を掴めますように。