黒い雲がアカデミアを包む。激しい雨と風で窓が休む間もなくガタガタと音を鳴らしていた。雲放電が黒い雲の中で存在を主張しているのを見て最悪の天気だな、と小さく呟いた。カーテンを閉めソファーに座る。テレビを付けても黒い画面が映ったまま。どうやらこの天候の所為で電波が届いていないようだ。
 寝ようにも外が煩く、目を閉じてもすぐに意識を戻される。今日の夜はどうやって過ごそうか、まさか明日もこの天気じゃないだろうな。そう考えながら机の上にカードをばら撒く。やはりデッキ調整が無難だろう。おジャマのカードを手に取る。

「万丈目ええ!」
「っ!?」

 バン! と大きな音を立てて開いたドアに驚き手に持っていたカードを落としてしまう。ドアに目を向けとそこには名前が居た。なんだお前か。そう言って落としたおジャマイエローのカードを拾おうとすると名前が俺とカードの間に割り込んでくる。顔を上げ名前を見て驚く。名前が、泣いていた。
 名前が押し倒す勢いで俺に抱き付く。お、おい! 驚きと、少しの焦りを含んだ声が出る。名前を自分から離そうと肩に手を置く。そして気付いた、名前の肩が、震えていた。否、肩だけではない、全身が小刻みに震えていた。先ほどとは違った意味の驚きで目を見開く。
 まるで小動物のように丸まり俺の胸に顔を埋める名前にどうしたんだ、と声を掛ける。名前が聞こえるか聞こえないかの声量で言う。サンダー。

「は? もう一回言え」
「だ、から……サンダー」
「……俺がどうした」
「万丈目、じゃなくて、サンダー……」
「日本語で話せ」
「だから、……っ!」

 名前が口を開けたと同時に一瞬だけ眩い光がカーテンの隙間から射しこみ、その直後に起きた大きな地響きが俺達を襲う。名前が息を飲みさらに俺に抱き付く。目尻から零れた大粒の涙が俺の黒い服に染みてゆく。
 サンダー――雷、か。今のは、島のどこかに落ちたな。そう思いながら名前の頭に手を乗せる。

「お前、雷が駄目だったのか」
「だって、光って……音も、っ!!」

 もう一度音を立てて光った雷に名前を目を強く閉じる。ぎゅう、と握りしめられた自分の服を見て溜め息を吐く。

「どうして天上院君のところに行かなかったんだ?」
「……十代の部屋で、デュエルしてた」
「十代はどうした」
「…………寝てる」

 雷のことなど気にもせずイビキをかいて寝ているであろう十代を思い描く。やっぱりあいつは馬鹿だな。肩を落とすと外でまた落雷の音がした。ゴロゴロと唸りを上げ何度も光る雷に名前は涙をボロボロと流す。
 サンダー、こわい。そりゃ悪かったな。万丈目の、ことじゃない。
 震える名前の髪を指で梳く様に撫でる。背中を一定のリズムで叩いてやれば掴まれている力が少し弱まった。

「はぁ……まったく、餓鬼だな」
「だって、こわい」
「そうか」
「…………万丈目」
「なんだ」
「今日は、臭くないんだね」
「…………」
「醤油」
「……昨日、洗ったんだ」
「洗剤の、いい匂い、する」

 毎日、ちゃんと洗えばいいのに。名前が顔を上げ涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で控えめに笑顔を作り言った。大きなお世話だ。そう言って涙で濡れている名前の目尻に唇を当てる。

「あり、がと」
「礼はいらん」
「……万丈目」
「今度はなんだ」
「すき、だよ……準」
「……あぁ、俺もだ。名前」



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