遊城十代と外を探索していた名前は、唐突に口を開いた。
「たこ焼き」
それは彼女の当初目的である。そばで彼女の言葉を聞いた十代は、ぎょっとした形相になり、まじまじと名前を見た。実に頭の先から爪先まで。
「いきなりどうしたんだよ、名前」
こいつが唐突なのはデフォルトだけどな。そう思いながら苦笑する。口にはしない。
名前はキラキラと瞬く瞳のまま彼を見据える。その双眸に十代の茶色が反射した。
十代はその瞳に居心地の悪さを感じて視線を泳がせた。
「いきなりではないだろう。最初から言っている。私はたこ焼きを食べに来たのだと」
「あー、はいはい」
宇宙から地球に来た理由がたこ焼きなんて、誰が聞いても脱力すること間違いない響きだろう。
「遊城十代、お前にも話したと思うが」
十代の軽い流しに、名前は表情筋一つ動かさず、抑揚の無い声を吐き出した。 それはまるで、お経か、小さい子供がやる宇宙人の真似をした時の声のようだ。それを悟り、十代は「宇宙人って、やっぱ淡々と話すんだな」と、思考を巡らす。つまり、ワレワレハウチュウジンダー、ということだろう。
「遊城十代?」
フルネームで自分の名を呼ぶ彼女に、十代は溜め息を漏らす。それは慈悲に満ちた、なんとも生暖かい溜め息だった。
名前は少し眉根を眉間に寄せると、探索する足を止め、踵を返す。 唐突なことに十代は思わず抜けた声を上げた。
「確か、ここでもたこ焼きは食べられるのだったな」
そう言って歩き出す名前の後を、十代は追う。
「宛はあんのかよ」。そう問い掛ければ、彼女はフルフルと首を振り、薄く唇を開けた。「全て、闇が誘う」。まったく的外れな電波発言に、十代は肩を落とすことしか出来ない。
「嘘だ」
少しばかり口角を上げた名前がそう言う。十代は暫く間を空けてから素っ頓狂な声を出す。そんな彼にほくそ笑んだ名前は、「宛なら」そう言って十代を指差した。
「宛ならここにある」
途方も脈絡も、そして宛も無い台詞を向けられた十代は、本日一の溜め息を吐いた。