「はあ……」

 購買にドローパンを買いに行った帰り、エドくんが入り口で独りため息をついて立っていた。
二年生になったエドくん。ついに彼も恋患いか……私は笑顔でエドくんの肩に手を置いた。

「なんだその顔は」
「いやあ、エドくんにも春が来たんだなと」
「意味が解らん」

 肩に乗せた手を払いのけられる。なんだ、エドくんのため息は恋の悩みじゃないのか。
こっちがため息をついてしまった。男の子の悩みは女には解りにくいものなのだろうか。

「なんでため息ついてたの? 悩みなら何でも聞くよ?」
「悩みというほどでもない。僕に構うな――」

「あ。世南ちゃんだ」
「!」

 樹野原世南ちゃん。最近よく喋るようになった、過去から来たとかいう凄い女の子。
確か彼女のパートナーは万丈目くんのはず。でも今は世南ちゃん一人だ。
 ところでエドくん。世南ちゃんに異常に反応してなかった?

 私たちに気付いた世南ちゃんが駆け寄ってきた。何か用事かな?
――で、何でエドくん私の後ろに隠れるの?

「香鈴様! 万丈目様を見ませんでしたか?」
「ううん。見てないよ。どうかしたの?」
「大したことじゃないんですけど、にんじんパンを当てたから万丈目様にあげようと思ったら急に姿が見えなくなって」

 にんじんと万丈目くんに何の関係が。理由は何であれ、困ってる世南ちゃんを見捨てるわけにはいかない。
いつもお世話になってることだし、今度は私が役に立ってあげないと……!

「私も一緒に探してあげるよ!」
「本当ですか!?」
「うん。ね、いいよねエドくん」
「あら、エド様もご一緒だったんですね」
「は、はい。こんにちは、世南先輩」

 ひょっこりと背後から顔を出すエドくん。意外なことにエドくんは世南ちゃんのことを知っていた。有名人なんだなぁ。
……ところで、今エドくん、敬語使ってなかった? “世南先輩”って言ってなかった?
彼、先輩に対しても敬語使わないし、先生にも時々敬語じゃないときあるよね。気付けば私は無意識に笑っていた。

「おい。何で笑ってる」
「だって……エドくんが、敬語って……なんか新鮮で」
「香鈴様はエド様とペアを組んでいたんですね」
「先輩と組んでも良かったんですけどね」
「ひっどーいな〜エドくん」

 明らかにいつもと態度が違う。やっぱりエドくん、これは恋だよ。なんていうと怒られるに違いない。
 でもなんだろう。世南ちゃんとエドくんを見てると胸がむずむずする。変な感覚だ。

 すると、ピピピと電子音が鳴り世南ちゃんが懐から携帯を取り出した。

「もしもし、十代様? ……万丈目様が見つかりましたか! 解りました。ちゃんと捕らえておいてくださいね、今行きますから」

 十代くんからの電話で、聞いた所万丈目くんが見つかったらしい。
ようやく見つけたことで、世南ちゃんは嬉しそうに笑みを零していた。その笑みはちょっと黒がかってたけど。

「良かったですね、先輩」
「ええ。それじゃあ私はこれで。邪魔してしまって申し訳ありません」
「いやいや〜」
「今度万丈目様も連れてきますから、その時はデュエルしてくださいね」
「もっちろん!」

 ペコリと礼儀正しく頭を下げてから、万丈目くんの元へ行ってしまった。
 世南ちゃんの姿が見えなくなると、エドくんは表情を緩ませ「はぁ」とまたため息をついた。

「驚いたなぁ。エドくん、世南ちゃんとどんな関係だったの?」
「幼馴染なだけだ」
「好きなの?」
「す……って、冬月には関係ないだろ!」

 顔真っ赤にして否定しても説得力が無い。解りやすい反応だ。
――幼馴染かあ。だからそれなりに親しいんだ……。所詮他人の私じゃ、入り込める余地ないよねえ。
 本当に私なんかがエドくんのパートナーでいいんだろうか。

「エドくん。本当は世南ちゃんと組みたかったんじゃないの?」

 思ったことが口に出てしまった。彼のため息の原因はこのことに関係しているんじゃないかって。

「世南先輩は僕のことを単なる幼馴染としか思っていない。僕が一方的なだけだ」
「じゃあ、私がパートナーでいいの……?」

 恐る恐る答えを待ってみた。これで本音を知れるわけだけど……怖いな。
 エドくんは呆れたような顔をして肩を竦めた。紡がれた答えは――

「僕のパートナーは、冬月だけだ」

 言い終わるとそっぽを向いてしまった。多分その言葉が聞きたかったんだ、私。
良かった。私はエドくんのパートナーでいていいんだ。嬉しくて思わず涙が零れそうになる。

「エドく〜ん」
「お、おい! 止めろ抱きつくな!」

 私、もっともっと強くなってエドくんにもっと相応しいパートナーになる。
 そしたらまずは、世南ちゃんにデュエルを挑みたい。私とエドくんのコンビネーションを見せてあげたいな!

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