▼響け愛のシャンパンコール


エマージェンシー、エマージェンシー
入間さん助けて…いや、自業自得ってお説教増えるだけか…。
名字名前、人生初のホストクラブに居ます。



──────


1つずつを積み重ねる123456こと伊弉冉一二三と思わしきホストを助けた昨日。 まさかのまさかでした、忘れた物を取りに行く今日。
いつまでも置いておいてもらうわけにもいかないし、良い感じの時間に授業が終わるのが今日だったのだ。 2日連続で新宿に来ることになるとは…。


夜中に歩くことが多い繁華街を夕方に歩くのは、結構不思議なもんだ。
既にオープンしているお店から、まだ準備中の札が出ている店や、いつもは逆に閉まっている店が開いていたり。
少し寄り道して行くかと、通りを見渡しながらふらふら歩いていた。 それがいけなかったのか。


「っ見つけた!」
「えっ、あ゛」


くんっと腕を引かれ、振り返る。 そこに居たのは、昨日振り切った金髪ホスト。
どこから走ってきたのか知らないが、少し息が切れてスーツが乱れ気味だが大丈夫だろうか。 また発作的なものを起こされたらやだな…。周り女の人多いし…。
そう現実逃避をしてると、呼吸が戻ったホストがジャケットを直し、良い笑顔でこちらを見てくる。


「お礼、させてくれるかい」
「アッハイ…」


笑顔の圧がすごい。 入間さんとは違う部類でyesしか受け付けない。
昨日逃げたのがいけなかったのか…。 腕はがっしり掴まれ、今日こそは逃がさないという強い意思を感じる。 ホストっょぃ…。
掴まれた腕はそのままに、彼のお店に連れていかれた。 ドナドナ。



──────


「腕を強く掴んでしまってすまない。 痛くはないかい?」
「ダイジョウブデス」


きらびやかな店内。 鏡張りの壁。
そわそわ、キョロキョロしてしまうのは、仕方がないだろう。 男がホストクラブなんて早々来ない。
しかもここは店内の個室のような場所。 謂わばVIP席ってやつ? ただ引っ張られて来た俺が座っていい席じゃないだろ、これ。
緊張している俺を、微笑ましげに見てくるホスト。
そんな目で見るな…。


「飲み物は何がいいかな? ああ、お金のことは気にしないで。 お礼だからね」
「はぁ…。 じゃあコーラで…」
「お酒じゃなくていいのかい?」
「未成年デス」
「おっと、これは失礼」


ホストさんから承ったボーイが、俺と彼の前に飲み物を置いて下がる。 またこの高い部屋で未来のシンジュクNo.1と2人だ。 …これ俺刺されない? 大丈夫?
夜道の心配をしている俺に、彼はスッと頭を下げた。


「昨日は本当にありがとう。 僕は伊弉冉 一二三。ここでホストとして働いているんだ」
「ご丁寧にドウモ…。俺は名字です。 なんともないようで…」
「名字君…。 お陰さまでね。 …それで、昨日のことなんだけれど」


…なるほど。言わんとしていることが、よくわかった。 連れてこられた理由も漸く納得がいった。
伊弉冉一二三というキャラクターとしては、律儀にお礼を言うだけの可能性が捨てきれなかった。 けれど目の前の彼は、キャラクターではなく、生きている人間。 しかもまだ、シンジュクNo.1ではないはず。
だからこそ、彼の隠したいことが漏れてしまう可能性を少しでも減らしておきたいだろう。


「女性恐怖症のことなら言い触らしたりしませんよ」
「っ、やはり、気付いていたんだね…」
「そうなんだろう、という予想に近いですが、なんとなくは」
「そうか…」


女性恐怖症、のところはちゃんと小声だ。 少ないけれど、お店に人がいない訳じゃないし。
伊弉冉さんは、ソファーに脱力して寄りかかる。 表情も固いから、やっぱり広まってほしくないのだろう。 入間さんほど性格悪くないから揺すったりしないのに。 まぁ伊弉冉さんと仲が良い訳じゃないから信用薄いよなぁ。


「…言わないで、いてくれるんだね?」
「はい」
「それなら、キミを信じよう。 僕も、助けてくれた人を疑いたくないからね」


さあ、グラスを持って。
予想外にあっさりと信用してくれることに驚きつつも、促されグラスをもつ。
炭酸だけれどフルートグラスなところからして、シャンパンだろうか。
伊弉冉さんの細いグラスと、俺の角ばったグラスが当たり、小気味良い音が鳴る。


「2人の秘密に、乾杯」


ふっと目元を和らげ微笑む伊弉冉さんは、俺の驚きも見透かすようだ。
そして目を伏せ、1口。 シャンパンを口にする。 見せる技のひとつなのか。 自然と目が奪われる。
口に含んだアルコールを飲み下し、伏せられた金色がこちらを射抜いたときには…
さっきまでの不安がキレイさっぱり吹き飛んだ、完全なるホストの顔だった。

back next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -