▼ふぃーばーふぃーばー歌舞伎町


入間さんと会うことがなくなり、2年が経った。 俺もめでたく19歳。 まぁまだ未成年にはかわりないけど、この2年で環境がかなり変わった。
居心地の悪かった高校は卒業し、大学に入学したことで、変に視線に晒されることもなく、なんてことない日常を過ごせるようになったのは大きい。
バイトも居酒屋を続けているが、22時までの制限もなくなり、毎月増えていく残高ににやつきが止まらない。


そんな日々を過ごす今日は、久しぶりに新宿へヘルプだ。 終電に間に合うように上げてもらい、高校生の時はそそくさと通っていた繁華街を、堂々と歩く。
ただ新宿は、入間さんとの思い出が多い。 なんとなくセンチメンタル。 酔っぱらいや、やる気のない客引きを横目に、堂々と歩いていた足が少しずつ、スピードを上げていく。


絡まれることは変わらずあるが、この2年で入間さんに連絡したことはない。 電話番号も登録、してない。
何度かまずいなーって思うこともあったけれど、わざわざ違う地区にいる入間さんに電話するほどでもないだろう、と、11桁を入力しては消し、自分でどうにかした。 大きな怪我をすることもなかったしな。
お陰で入間さんの電話番号は暗記してしまった。 まぁ生徒手帳は、お守りとして持ち歩いているけれど。


足早に通りを抜ける途中、道の端で踞っている人が目についた。 けれど新宿で酔っぱらい、しゃがみこんでいる人はよく見るし、その1人だろう。 なんか派手な女の人も近づいていったし。 と視線をはずそうとしたのだが、様子がおかしい。
その知り合いであろう女の人が近づいた途端、しゃがみこんでいた人の体調が悪化した、ように見えた。


──────


「あの、大丈夫ですか?」


踞っている人に声をかけてしまった。 頭の中で入間さんが怒っているけれど、これは人助けだから。 様子見るだけだから!
意味のない言い訳を重ねて、目線を合わせるように俺もしゃがみこんだ。


「え? あっ、もしかして一二三の知り合い〜? なんか〜、一二三具合悪いみたいで〜」
「ああ、そうなんですね」


この人お酒入ってんな。 間延びした口調と赤らんだ顔の女の人は、パッと見て酔っていると分かる状態だ。 どんだけ飲んだんだか…。


「えっと、ひふみさん? タクシー呼びますか?」
「…っだ、だい、じょう…………ヒッ!………そ、その、ひとを、」


本人が受け答えできるなら、そっちの方が手っ取り早い。 あんまり期待はしていなかったが、思ったより意識ははっきりしていた。
ただこのひふみさん?の声に反応した女の人が手をのばすと、怯えたように縮こまってしまう。
女性恐怖症? いやでも格好はホストっぽいんだよな…ん?
とりあえず女の人には、あとは俺が代わると伝え、帰ってもらうことに成功した。



「あの人帰りましたよ」
「あっ……ありがとう。 見苦しいところを見せてしまったね」
「い、いえ…お気になさらず…」


顔を上げて、ジャケットを直した彼は、体調も直してしまったよう。
丸まるように縮こまっていた背中はピンと伸び、真っ青を通り越して真っ白だった顔色も、だいぶ落ち着いたよう。
キラキラとネオンが反射する金髪も、さっきとは艶感が違って見えるほどだ。


「体調、大丈夫ですか?」
「ああ! キミのお陰で、もうなんともないさ」
「それはよかったです」
「是非ともお礼がしたいんだけれど、これから「それじゃ!俺はこれで!」ちょっ、ちょっと!」



引き留める声は聞こえないフリだ。
途中で気付いたけど、あれって伊弉冉一二三だろ。
未来のシンジュクNo.1ホストで、シンジュク代表 麻天狼のMC.GIGOLOの。
女性恐怖症でホストで、金髪。 スーツのジャケットを直した途端、雰囲気変わったのも説明がつくし、納得がいく。 というか、他に同じような人がいるのなら、だいぶ新宿は闇が深い。 流石病める街…。
池袋じゃ山田兄弟にも会ってないのに、入間さんに続いて伊弉冉一二三って。 新宿の遭遇率どうなってんだろ…。

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