▼気づきかけた" "

「全く、君は何をやっているんですか!」
「ごめんなさい…」


はい、どうも。 名字名前です。
只今、交番にて入間さんからお説教中です。 正座で足が痛い。
なんでこうなったのか。 それは数時間前に遡る。


──────


この世界に来てすぐ、学校までダッシュをキメたことから思っていたが、体育の授業を受けることで、この体がかなり運動神経が良いことがきっちり証明された。
運動神経が良いならコレっしょ!っていう軽い気持ちから、ダンスとパルクールを始めたのだ。 なんでその2つかって? かっこいいじゃん! 思いっきりただの趣味です、ハイ。


そんなこんなで前の世界でよく見ていた動画を参考に始め、この世界でも似たようなものを見つけて独学。
だから本当に少しずつ、バイトのない日に練習していたのだが…。 その度にチンピラだとかに絡まれる。 なのでダンスよりも、逃げることの方が得意になってきてしまっている気がする。 解せぬ。



バイトがない今日も、練習をしようと公園に向かった。 だが、しかし。 休日の昼間だったこともあり、小さい子をつれた親子が多かった。 普段は夕方からしか来ないからなあ…まさかこんなに子連れがいたとは…。
そんな場所で練習しようものなら、好奇心旺盛なチビッ子が真似したり、近寄ってきて怪我を負わせてしまう可能性が高い。
仕方ないと公園は諦め、少し広めの裏路地に足を向けた。 それが今日の俺の運の尽き。



見事に不良に絡まれました。 嬉しくないね!
しかも定番も定番といった、いかにも不良です!って風体の3人組。 3人って所も定番だよなぁ…。
ハイハイ、お金ね、大事だよね。 まぁ?あんたらに?やるお金は1銭たりともないけど? 面倒だからどっか行ってくれないかな…って思いながら無視を決め込んでいたのだけれど。
心の底から面倒だなぁっていうのが滲み出てしまっていたようで、不良VS俺の3対1の鬼ごっこの始まりである。


「待てコラァ!」
「いや、待つわけないでしょ」


ダッシュからのジャンプ。 ビル裏口の螺旋階段や、ゴミ箱。 パルクールを嗜んでいる俺とすれば、これ程絶好の練習場所はない。 ぶっつけ本番に近いけどな、この状況。
スルスルと追っ手の不良から逃げ回り、表通りに出た。 ら、バッチリとパトロール中の入間さんと目が合いました。


そこからの展開は速かった。 警察に気づいた不良が逃げようとしたのを、入間さんともう1人の人で確保。 そっちに気をとられてる間に逃げようと目論んだ俺も、ついでに入間さんに捕まった。 ミスディレクションも練習しよ…。


交番についてからは、あれよあれよという間に不良達は学校と親に連絡が行き厳重注意。 あれは停学かな…、知らんけど。
その間俺は、被害者側なのでなるべく気配を消して、成り行きを見守る。



不良や迎えに来た保護者が帰り、人口密度が高かった事務所が一気にがらんとする。


「さっきはありがとうございました! お陰で無事なんで、俺も帰り、ま…せん…。 すみません…」
「判っているなら、よろしい。 そこに直りなさい」
「ハイ…」


そして冒頭に戻るわけだ。



──────


そろそろ30分くらい経つよなぁ、足痺れたなぁ。 入間さんと一緒にパトロールしていた人は、入間さんの後ろで和やかにお茶を飲んでいる。 助けろ。 いや、にこやかに手を振るんでなく。 首も振らんでいいから! 見捨てないで! あ、目を逸らすなコンニャロー!


「聞いてますか、名字くん」
「スミマセン、キイテマス」


なので、その素晴らしく圧のある笑顔をやめてほしい。
居心地が悪く、そわそわと視線を泳がしていると、頭上から大きなため息が降ってくる。 それに申し訳なくなってくる。 忙しい入間さんの手を煩わせてるんだよな、これ…
しょんぼりとした気持ちで俯いていると、今度はため息でなく、うぐっという息の詰まるような…?
不思議に思い、そろっと顔を上げるが、普通の入間さんだな?


「ゴホン…。 とにかく、危ないことはしないように。 体を鍛えるのはいいですが、怪我をしたら大変でしょう?」
「はい…すみませんでした…」
「反省したのなら結構。 君が無事でよかったです」


2、3度、往復するように頭を撫でられる。 顔を窺うように覗き込めば、入間さんは仕方なさそうな顔で笑っていた。 その顔があまりにも柔らかくて、なんだか…
思考の海に落ちかけたところで、目の前に手が差しのべられた。


「立てますか?」
「すみません、ムリデス…」


手は借りたものの、足の痺れに中途半端な位置で止まる。
何か考えかけた気がするけど、それも何処かへ行ってしまった。

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