▼予期せぬ出会い

中身は違えど不良をやっていたせいなのか、俺の見た目が悪いのか。 警察に目をつけられやすい。
つり気味の目と眉は睨んでるように思われることが多いし、黒髪と言えど某兄者が口癖の薄緑丸のようなアシンメトリーの前髪は、真面目な学生っぽさはない。
そんな奴が、夜の繁華街を、しかも新宿の繁華街を歩いていれば、補導の対象になるのはほぼ必然的で。


「あー…すみません。 バイトの帰りです」
「ああ、なるほど。 親御さんからの許可はもらってますか?」
「ハイ。 えっと、連絡先とか伝えた方がいいですか?」


バイトをはじめた頃は、池袋でも交番警察に声をかけられることが時々あった。 さすがに慣れた。 いや、補導に慣れって。 ははっかなしいかな。


「そうですねえ…。 問題なさそうですが、一応。 すみませんが、こちらにお願いします」
「イエ、全然。 むしろ手間かけちゃって申し訳ないです」


渡されたボードの必要事項を埋めていく。 携帯の普及で、覚える必要のないはずの電話番号も、親と学校のは確認せずとも書ける。 ほんとに悲しい現実。 元の世界ならこんなことはなかったのにな…。


「…名字名前くん。 君、こういうこと慣れてますね?」
「えっ。 ああ…まぁ…。 この見た目なんで…」


さらさらとペンを進めていると、苦笑しながらお巡りさんに話しかけられた。 そりゃ普通ここまで堂々としないか。 声かけられた時点で諦めた様な雰囲気出てただろうし。
見た目のことを伝えたら、苦笑が深まる。 というかこの人普通に笑ってんな? もっと悲しくなるわ。


「それはそれは…。 おや、学校は池袋ですか。 それなら近場でバイトした方がいいのでは?」
「あ、いや。 普段は池袋なんですけど、今回はヘルプで」
「ヘルプ…。 ああ、飲食店ですか。 ご苦労様です」
「はぁ、ドウモ」


連絡先を埋めたボードを確認しながら、話が進む。 ここまで普通に会話する、和やかな感じは初めてだ。 なんだか新鮮。 本来なら補導自体が珍しいんだけどな。 本来なら。


「書類も問題なし。 すみませんね、引き留めてしまって」
「いや、ほんと、全然。 街の治安守るのが貴方方の仕事ですし、気にしないでください」
「…そう言ってもらえると助かります」


一瞬、面食らったような顔をされたけど、変なことを言っただろうか。 至って普通のことしか言ってないはずなんだけど。
…まあ、本当に一瞬だったし見間違えか?


「時間も時間ですし、駅まで送りますよ」
「え、大丈夫ですよ?」
「いいからいいから。 ほら、また補導対象にされたくないでしょう?」
「えっ、ちょっ、歩く!歩きますから!」


自分の言動を振り替えっていると、予想外の申し出で。 しかもこの人押しが強いな!? ぐいぐい背中を押されて、駅に足を進めるしかない。
池袋の警察の人じゃこんなのなかったぞ。 よく声かけられるのが駅の目の前だったからなのか、この人が仕事熱心なのか。



それにしても、この人どっかで見たことあるような…。 なんだったっけ?

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