変わった日常





「△△」
『ああ、骸。いらっしゃい』






あれから数日が経ち、骸はよく俺の家に顔を出すことが多くなった
凪達になんて説明しているのかは知らないが、泊まっていくこともある
一緒に夕飯を食べ、それぞれがしたいように寛ぎ、時間を見て風呂に入る
ただ以前と違うことがあるとすればお互いの距離だろう
何かを話すでもなく隣に座ったり、肩や腕など体のどこかが動いた拍子に触れる
そんなちょっと前じゃ考えられなかった距離に想い人がいるというのは、くすぐったくも落ち着く






「考え事ですか?」
『え?』
「本を読む手が止まってますよ。なにか困り事でも?」





今の距離感に嬉しく思っていると不思議に思った骸が覗き込んでくる
いつの間にか考えすぎて手が止まっていたようだ
確かに本の内容があまり頭に入っていない
どこまでしっかり読めてたかページを戻りつつ、骸に言われた考え事について返す





『困り事、と言えばそうなのかもしれない』
「ほう?」
『今が幸せすぎてどうすればいいのかわからない』





困った顔を作っては見たけれどきっと骸には困ってなどいないことがバレバレだろう
実際に骸の顔にも笑みが浮かんでいる





「クフフ、それは随分と贅沢な困り事ですね。△△らしいと言えばらしいですが」
『仕方ないだろ。今でもお前の幻術じゃないかって思うくらいなんだから』





骸の束ねてある後ろ髪を掬いいじる
枝毛知らずのその髪はさらさらと指をすり抜けていく
何度か繰り返しているとその手を骸にとられる
顔を上げれば思いのほか近く、一瞬身を引こうとするが骸によって掴まれている手に阻まれる






「これは現実だと、判らさせてあげましょうか?」
『え、むく………っ?!』




言うが早いか、呼ぼうとした名前は骸の唇に遮られる
ソファーの背凭れに押し付けるように体重をかけられればいくら細い骸相手でも押し返すことは難しい





『っ、ん……骸…!』
「…これで現実だとわかったでしょう?」
『他にも方法あっただろ』
「おや、僕からの口付けでは不満だと」
『不満はないけど…』
「けど?」





明らかに気に食わないと言うように眉間にしわを寄せ、睨み付ける
が、効果は少ないようで骸の余裕顔が崩れることはない
一つ息を吐き圧し掛かっている骸を押し倒す
この展開は読んでいなかったのか、押し倒された骸は目を丸くしている
その様子に自然と口角が上がる






『やられっぱなしは気に食わない』






俺の言葉にこの後のことが分かったのか、ぶわっと骸の顔が赤く染まる
そして思い切り顔を逸らされた
髪から覗く耳はわかりやすいほどに真っ赤で、悪戯心に従い軽く噛めばびくりと肩が跳ねる
反応の良さにくつくつ喉で笑えば睨むような視線がこちらに向く





「僕はそんなことしてません」
『嫌なら止めるけど?』





少し意地悪くそう返すと迷っているように目が泳ぐ
催促するように頬に触れ撫ぜれば骸の左右非対称の瞳と視線が交差する
どちらともなく口付ける
俺の背に回った腕が、骸なりの了承の合図なのだろう
相変わらず素直じゃないなと唇以外にもキスを落としていく





「あとで△△の血、くださいよ」
『今飲むか?』
「…僕に余裕をくれないくせによく言いますね」
『骸に今までの分とこれからの分、愛情注がないとだから、な?』
「全く…それなら仕方ないですね」
『終わったらいくらでも飲んでいいから』
「いくらでも?」
『…倒れない程度で』





いくらでも、と言った時の骸のギラついた目に思わず訂正を入れればクフクフと笑われる
気まずげに目を逸らせば骸が俺の頬に口付ける






「△△の血を飲み干そうなんてことはしないので安心してください」
『それはよかった』





今度は深く口付けソファーに沈む

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