蓋が開く



思ってもみなかったことに狼狽えていた骸も何とか落ち着きを取り戻したようだ
それでも俺の方を窺うようにしているところを見ると、まだどうしてそうなったのか戸惑ったままなようだ





「理性って…え、△△はその…」






恐る恐るといった感じで投げかけてきた骸の疑問に、もう後には引けないなと実感する
まだ骸の気持ちが確定していないというのに、この10年間隠し通してきたこの想いを本当に話すべきなのか
少しの葛藤の末、誤魔化す方が骸を傷つけるかもしれないという考えに至った
誤魔化し、嘘をつくことは、こうして自分のことを包み隠さず話してくれている骸に失礼だ、と






『好きだよ、ずっと。お前のことが』






目を逸らさず、真っ直ぐに骸を見つめる
今まで蓋をしていたこの想いを伝えるために






数分の間が空く
もしかしたら1分も経っていないのかもしれない
でも俺の体感時間はそれくらいあった
その合間にも骸から目を逸らすことはしない
じわじわと顔を赤くする骸につられて照れそうになるが、それでは格好がつかないと思い耐える





「…じゃ、じゃあ僕とキスしたいとかそれ以上のこととか」
『できるならな。けど、骸は俺のこと好きじゃないと思ってたから隠し通すつもりだった』




まさか俺から告白されるなんて思っていなかった骸は、しどろもどろになりながら質問を重ねる
そんな骸を心の底から可愛いと思う
さすがに口には出さないが骸の頬を撫でる
赤みのさした頬は熱いけれど、その熱が自分によって引き出されていると思うと優越感が広がる





「全く気が付きませんでした…」
『だろうな、俺も結構必死で隠してたし。…骸はどうなんだよ』
「え?」




まだ気持ちの確定していない骸には聞くべきじゃないとは思うけれど、どうしても聞きたかった
同じように自分のことを‘そういう’対象で見ているのかどうか





『俺とそういうことしたいって、思うか?』





頬を撫でていた手はそのままに、骸の顔を覗き込むように顔を近づける





「あの、えっと…………思います、よ?」
『…嘘、つかなくていい。目ぇ逸らしてるし』
「ちがっ、僕はただ△△に申し訳なくて…!」
『申し訳ない?』




思わずっといった感じで口を手で押さえる骸に首を傾げる
申し訳ないといったそれが俺の想いに気づかなかったからというのなら気にする必要なんてないのに
どういうことなのかと見つめていれば先ほどまで泳いでいた瞳が気まずげに伏せられる





「……その、ですね……………」
『早く』
「うぅ…引かないで下さいよ?」
『わかったから』





引くかどうかを確認するようなことなのかとさらに首を傾げながら先を促す






「……………△△で、抜いたことが、すでに…」
『…………………』





絶句
ただその一言に尽きる
固まった俺に対し、骸は本当に申し訳なさそうに眉を下げている





「すみません…さすがに気持ち悪いですよね…」
『いや……それで俺のことが本当に好きなのかわからないってなるのがなんでなんだ…』
「?△△くらい格好良かったら男でも普通でしょう?」






さらなる爆弾が投下された気分だ
男が男で抜くのは普通じゃない
吸血鬼と人間じゃ感覚が違うのか?いやいや、そこら辺の感覚は一緒だろう





『普通じゃないだろ、吸血鬼がどうなのかはわからないけど少なくとも人間じゃ普通じゃない。微塵も』
「そういった感性は吸血鬼も人間も大差ないと思いますよ。……え、じゃあ僕は…」





え、ぇえ?と戸惑いの声を上げている骸に、なんだかこっちまで混乱してきた
吸血鬼も感性に大差はないということはもう骸の気持ちも確定でいいのではないかとつい投げやりになりかけた時に、一つ疑問が浮かぶ
もしかしたら俺が極上品と呼ばれるものだからなのか、という疑問が





『……骸って俺が極上品じゃなくなったとしたらどうする』
「え?△△が極上品じゃなくなる…。うーん…今までと変わらないんじゃないんですかね…?あ、でも」
『?』





今までと変わらないと言ってくれたことにまずホッとする
けれど途中で切れた言葉に不安を覚える
やはり極上品じゃなくなれば‘そういう’対象からは外れるのか






「△△が極上品じゃなくなっても今までよりも一緒に居たいです」






そうはにかみながら照れたように肩をすくめる骸に、頭の中でブチッとギリギリで繋いでいた理性の糸が切れた音がした

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