揺さぶられる



自分から質問してもいいかとは言ったものの、何を聞くかなかなかいいものが見つからない
吸血鬼云々の時は自分が疑問に思っているものを口に出しただけで今度の事とはだいぶ違う
何を聞けば骸の気持ちがどんなものなのか明確になるか…







『……何から聞くべきだと思う?』

「自分から聞いていいかとか言っておいてそれを僕に聞きますか、△△って馬鹿ですよね」

『仕方ないだろ、思いつかないんだから』

「はぁ……無難に肉体関係が持てるかとかそういうことじゃないんですか?」

『悪い、聞くべきだとは思うけどそれは無難か?』





一番最初に出てくるものが可笑しい
確かに男同士だから必要なことだろうけど無難な話題ではない
むしろ言いづらい部類のものだろう





『あー…じゃあ俺のことをどう思ってるんだ?』

「どう、といいますと?」

『こういう時に他のやつに持つ感情と違ったとか』

「そうですね…」





考え始めた骸にホッとする
最初に聞く質問としては間違ってないだろう
自分からこんなことを聞くのは少し照れたが顔には出てないはず




「ボンゴレ連中であったり僕以外に笑いかけていたり…楽しそうにしているところを見るともやもやすることはあります。昔は吸血鬼さえ近づかなければこんな風に思うことはなかったんですけどね。
あとは△△と一緒に居ると…」





始めの部分は独占欲に当てはまりそうだ
軽く頷きながら聞いていたが途中で話が途切れる
どうしたのかと思い骸の方を見れば、俯いていて確かな表情は窺えないが歯切れが悪くあ…とかうぅ…と言葉を詰まらせている




『骸?』

「な、何でもないです!」





不審に思って名前を呼べば明らかな嘘が返ってきた
反射的に顔を上げたんだろうけど目は泳いでいるし何故か顔が赤い
つい眉間にしわを寄せると思い切り目を逸らされた
掴みどころのない霧が形無しだ




『素直に、って言ったよな?』

「いや、でもですね…?」

『骸』




骸の頬を両手で包み、少し強引ではあるが目を合わせる
さっきよりも骸の顔の赤みが増したような気がする
追い打ちとばかりに食い気味に名前を呼ぶと観念したようで、目を伏せながらぼそぼそと続きを話し始める





「その…△△と一緒に居ると、気持ちが温かくなるというか…幸せだ、と思うんです。
△△に名前を呼ばれると、笑顔を向けられると、僕のカラカラなはずの心が満たされる気分になる。
心拍が上がるのに、心地よくて…」

『わかった、わかったからちょっとストップ』





こんな近い距離で聞くんじゃなかったと後悔した
せっかく素直に話しているのに中断されて不満そうな顔をされたが、今は気にしている余裕なんてない
目を合わせるために近づけた顔の距離も、目を伏せているせいで儚く見える骸も、いつの間にか頬に添えている手に重ねられている骸の手も…
なにより語られている骸の素直な感情が△△の理性を揺さぶる
せめてこの距離をどうにかしなければと体を引こうとすれば重ねられていた手に力がこもる





「なぜ逃げようとしているんですか?」

『いや、逃げるつもりはない。ないけど色々とダメなんだ』

「ダメって何がですか。僕に素直に話せと言っておきながら」





そう言いながら骸が睨んでくるが余計にダメだ
俺はソファーに座って話を聞いている
骸は俺の目の前に向き合うようにクッションに座っている
つまりこの体制で睨み付けられたところで上目遣いにしかならないのだ
ただでさえギリギリの理性の糸が切れかけているのを感じ天井を仰ぐ





別のことを考えようとしていると太腿に重さが掛かる
何事かと天井から視線を戻せば、何故か骸が△△の両足を跨いで向かい合っている
なぜこのタイミングでこの体制なのか
得意げな顔も今は憎らしく思う





「クフフ、これで逃げられませんよ。何がダメなのか、一から十まで話してもらいますよ」

『やっぱり骸は馬鹿だ…』

「失礼ですね、まだ引きずりますか。大体話を止めた上に訳のわからないことばかりする△△がわる………っえ、」





骸の馬鹿さ加減に呆れ、理性の糸は強さを取り戻してきた
だがそれも気を抜けば一気に切れるもので油断はできない
こんな無防備な骸が悪いんだ
落ちないように腰に腕を回し引き寄せる
ぽす、と骸の肩口に頭を預け深くため息をつく





「△△…?」

『お前が無防備すぎるから理性が切れそうなんだよ、バーカ』

「……………………へ、…えぇ?!!」





数秒間をおいて素っ頓狂な声が上がる
漸く俺の心情を理解してくれたようだ










開きかけていた蓋はもう閉じることができそうにない

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