ひとくちあじみ


証拠として見せられたのは牙だった
上の歯の犬歯の生えている位置に鋭く、人じゃありない大きさのそれは確かに牙だった





『作り物にしてはよくできて…』





「本物です。パーティーグッズの牙と一緒にしないでもらえますか」





近づいてみても他の歯との違和感はなく、ちょんっとつついてみてもシリコンなどで作られている偽物じゃない





『……本物だ』





「やっとわかってくれましたか」





『…骸が、吸血鬼………』





「ドッキリとか幻覚とかからかってるつもりは一切ありません。本当に僕は吸血鬼なんですよ、この世に生を受けてからずっと、ね」





‘ずっと’
そう言った骸は自嘲的な笑みを浮かべ、その表情を見ただけで今までどれだけ苦労してきたのかが窺える様だった





「最初は△△にも餌として近づきました。でも君といるのは楽しくて…。
今まで僕がしてきたことを知ったとしても、ボンゴレを利用するためにマフィアになっても、君は僕から離れていかなかった。それどころか、何も知らなかった頃と変わらずに僕らと共にいてくれる。同じ道をたどってくれている。
そんな△△に嫌われたくなかったんです。だから今まで…」




『吸血鬼だということは隠していた、ってことだな?』





「はい…。さすがの△△も、そんないつ自分に被害が出るかわからない化け物は嫌いになると思って…」





『……なら今は』





「君に、嫌われる覚悟で」





先程までの自嘲の笑みはもう浮かんでいない
覚悟を決めた顔をしている
ただ向けられるまっすぐな視線には少しだけ、寂しそうな感情が混じっているような気がする





『骸って案外バカだな』





そう言いながら深いため息をつく
眠気なんてこの突拍子もない話で吹っ飛んだ





「ばっ…!?バカって何ですか、こっちは真剣に…!」





『真剣に考えて今の考えになってるからバカなんだ』





「…じゃあどこが間違ってるって言うんです?
嫌でしょう。気持ち悪いでしょう。吸血鬼なんて物語の中でさえ嫌われ者ですよ」





『俺は吸血鬼だろうとお前を嫌ったりしない。骸は骸だ、バカが。
世界征服より吸血鬼のが現実味あるだろ』




「いやないでしょう、△△の考えが可笑しい」





『バカに言われたくない』






重苦しかった話は何処へやら
いつも通りにやり取りの中、骸の表情が柔和になっているのに気づく。指摘はしないが





『骸が吸血鬼なのは分かった。だけど極上品っていうのはよくわかんないんだけど』




「さっき説明した通りですよ?」





『そうじゃなくて…。今まで俺が怪我して血が出たとしてもお前普通だっただろ』





学生時代に体育や不注意で怪我をしても、裏社会に身を投じるようになって怪我をしても、骸の対応はいたって普通の、ましてや吸血鬼に思えるような反応はなかった
だからこそ今回の事には今だかつて無いほどに驚いている
その疑問をぶつければふるふると骸が震えだした





『む、骸、サン…?』





「クフフ、クフ、クハハハッ
僕が普通?毎回毎回君の血を見るだけでも理性が飛びそうだったと言うのに?
△△は随分と面白いことを言いますねぇ」





どうやらこの疑問は地雷だったようで、クフクフと笑い続けている
まるで黒曜で会ったときの再来だ





「そんなにアレなのか…?」





『ええもうかなり。最初にも言ったでしょう。何なら試してみます?』





スッとどこからともなくナイフが現れこちらに差し出してくる
三叉槍じゃないところに骸の配慮が見て取れる




『吸血鬼って首筋噛んで飲むんじゃないのか』




「普通ならそうですけど今の僕は途中でやめることができそうにないので」





『そういえば禁断症状一歩手前だったか…』





ここにツナ辺りがいたら試す方向に進んでいることにツッコんでいただろう
けれどもここはボンゴレ本部でもなければツナもいない




『まぁ物は試しに』




なんの疑問も持たずに渡されたナイフで指先を少し切る
ピリッとした痛みが走り、ゆっくりと傷口に血が滲む





「ヤバいです、もうこの時点で理性が飛びそうだ」




『吸い殺されなきゃ問題ない。ほら味見』





「んぐっ」





骸の口に指を突っ込む
少し苦しかったのか睨まれたが気にしない
骸も効果がないと思ったのか睨むのをやめた




『、っ』




溢れ出た血を舐め取るように指を舌が這う
その感覚がくすぐったくてぴくりと肩が跳ねた
指を這っていた舌が傷口の部分に触れれば、静電気のような痛みがする
小さな痛みだが、何度か続けばじわりじわりとその痛みは大きくなる
耐えるように眉間にしわを寄せ視線を逸らす





「っん、ふ…ぅ…」





『いっ…つぅ………お、い、むく…』





ハッキリ言って見なきゃよかった
傷口から血を吸われる感覚に少しの痛みを感じて逸らしていた視線を戻して思ったことだった
骸の頬は上気し、指を舐めている舌は血のせいなのか色づいた赤
伏せている瞳には恍惚、といっても過言ではないほどの高ぶった感情が浮かんでいる





その色香に当てられたのか頭がクラクラしてくる
このまま見ていてはいけないと警鐘が響き、顔を逸らそうとしたが少し遅かった
視線が骸と合ってしまった
瞳には高ぶった色が浮かんだままの骸と





「これだけ少量なのに今までの渇きが嘘みたいで…って△△?!」





指から口を離された途端視界が真っ暗になる
最後に見たのは焦った骸の顔だった

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