平穏な日常 燻る気持ち
『っ、』
ガバッと勢いよく起き上がり、周りを見渡す
見慣れたタンスや机、寝ているところも草原ではなくベッドの上
どうやら自分の部屋に戻ってこれたようだ
『……。』
唇に残る、ハッキリとした感覚に、あれは夢ではなかったのだと思い知らされる
『…どうすりゃいいんだろ』
もし朝から追いかけられなかったとしても、嫌でも骸には教室で会うことになる
いつもみたいに冗談半分みたいなノリだったらまだマシだった
あいつはいつでも本気だったのだろうけど
『あ゛ー…!わっかんねぇ…。』
考えても一向にいい案が浮かばず、頭をガシガシ掻く
とにかく学校に行く準備をしよう
スヌーズで煩く鳴り響くアラームをきって支度に取りかかった
――――――
追いかけられることもなく、無事に教室に辿り着いた
席についてクラスメイトを確認してもあの房は見当たらない
その事にホッとし、窓の外に視線を移す
登校してくる生徒の中にも房はいなかった
「HR始めるぞー、席つけー」
担任が出席確認し始めても、一つの空席がある
勿論その席の住人は俺のところにいるわけでもない
「六道は休み…?この中で誰か…○○、何か聞いてないか?」
『俺が知るわけないじゃないっすか』
「んー…後で連絡してみるか。じゃあ今日の予定だが…」
なんで俺に聞くんだと、心の中で苛つきながら担任の話を聞き流していく
――――――
放課後になり、課題はあれだった、夕飯は何にするかなどを頭に浮かべながら帰路に就く
今日一日はとても平穏だった
朝もゆっくり登校できたし、昼休みに弁当を食べる暇もなく…なんてこともなかった
『あいつもあの事気にしてたりして……って、んな訳ねぇか』
ただのサボりだろう、体調が悪い訳じゃないはずだとそこまで考えて、はた、と当惑する
何故気が付くと骸のことを考えているのか
そりゃあ突然キスされたら考えるだろう
けれど、考えを止めた△△の中に残っている気持ちは、苛つきの類いではない
“心配”
ただ純粋なそれだった
ストーカー行為であんなに嫌悪していたのに
何故心配する必要があるのか
悩んでいるうちに自宅に着き、着替え等を後回しにしてソファーへ倒れ込む
無意識に唇を触っていた手に気がつき、余計に困惑する
『ほんと、意味わかんねぇ…』
溜め息とともに溢れた一人言は、△△の心情を表すかのようだった
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