4…獅朗さんの死

小雨が降り続いているなか私は傘も持たずにある人の墓の前に立っている。
……獅朗さんのお墓だ。
あの約束をした日に獅朗さんは事故に遭い亡くなったらしい。
詳しいことは何故か誰も話さず葬儀も身内だけで行われた。
……正直…納得がいかない。

「……ソラ、風邪を引いてしまうから傘はさしなさい」
『……はい』

傘を持ってきてくれたのはお父さんだ。
仕事を抜け出して葬儀に来てくれたのですぐに戻らなければならない。
しかし お墓の前で立ち尽くす私が心配で戻れないでいたのだが、そこへ喪服姿の八郎さんがやって来て父に声をかけた。

「先生。ソラちゃんなら俺がそばにいますんで安心してください……落ち着いたら家まで送ります」
「八郎さん……すみません。娘の事をお願いします」

気遣ってくれた八郎さんに頭を下げ、最後に私の頭を優しく撫でてから父は仕事へと戻っていった。
八郎さんは私の隣に立ち同じくお墓を見つめる。
彼の目を見れば悲しみ、涙を流していたのだと分かる……私も同じ目をしているのだろう。

『………八郎さん。獅朗さんは事故で亡くなったと思いますか?』

私は気になっていたことを友人で獅朗さんの事をよく知る八郎さんに聞いてみた。
彼は眉間にシワを寄せ、傘を握る手に力を入れ口を開く。

「……思わねぇな。どんな事故かは教えてくれねーから分からんが……アイツの強さを俺は知ってる。ソラちゃんもよく相手して貰ってたから分かるよな」
『はい……運動能力も反射神経も警戒心も……強さも…あの人はただの神父などではありませんでした』

昔、修行をしているところを見られたことをきっかけに何度も手合わせをして貰っていた。
……あの人の本当の姿を知りたいとも思ったが、探りを入れても誤魔化されるだけで何も知る事ができていない。

「……アイツとは昔からの仲だが……秘密が多くてな………せめてなんで死んだのかぐらいは知りたかったよ」

傘に隠れているが声だけでも分かるぐらい八郎さんは悲しげに呟いた。
私も同じ気持ちだ。
燐や雪は知っているのだろうか。

(……そういえば二人とろくに話していませんね。……一番辛いのは彼ら…ですね)

話しかけても燐は反応があまりなく、雪は当たり障りなく返答するだけだった。
思い出していたら修道院の方から八郎さんを呼ぶ声が聞こえてくる。
しかし、私の事が心配でどうするか迷っているようだったので笑顔で八郎さんに言った。

『私なら大丈夫ですよ。もう少ししたらそちらに向かいますから』
「……分かった」

八郎さんも私の頭を優しく撫でてから呼ばれた方へ歩いていく。
父に続き八郎さんまで……その行為は獅郎さんとの思い出を浮かばせた。

(……そういえば…獅朗さんもよく頭を撫でてくれましたね………歳を取ると頭を撫でたくなるのでしょうか?)

私がそんなことを考えていると、いつの間にか隣に燐が傘も持たずに立っていた。
当たり前だが元気がない。

『……風邪を引いてしまいますよ』
「……………」

傘を燐にもさして声をかけたが返答はなかった。
やはり一番辛いのは家族である彼らなのだ。
しばらくの間、無言で立ち尽くしていると燐がポケットから携帯を取り出し誰かに電話をかけはじめる。

(燐……携帯持ってなかったはず……獅朗さんのでしょうか?)

鳴り響く着信音は何故か近くで聞こえる。
そして、私達の周りに現れた黒のロングコートに黒布で顔を隠す人達。
警戒されても文句は言えない彼らの次に現れたのは、いろんな意味で目立つ男だった。

「はじめまして。奥村燐くん。私は【メフィスト・フェレス】……藤本神父の友人です。この度はお悔やみ申し上げる」

白を基調としたアリスの国の住人とも言える服装でパンプキン型の……これまたファンシーな傘を片手に立っている男を私は知っている。
だからこそ余計に驚いた。
……今の私は目が見開き口元は引きつっているのだろう。

(……【理事長】ってあんな人でしたっけ!?)
「おや?貴女は確か……特進科に進めるのに普通科を選んだ見事な白髪が特徴の水野ソラさんではありませんか!」
『HAHAHAHA!説明ありがとうございます』
「えっ!?……ソラ、居たのか」

理事長が私の事を覚えている事に驚いたが、燐が私に気付いていないことにも驚いた。
……それだけショックが大きかったのだろう。
そして何故か私がいることに焦りだす。

「えっと……あ…あれだ!そろそろ雨も強くなってきたし戻った方がいいんじゃないカナ?風邪をひいたらいけねーしさ!」

燐は嘘をつけないタイプだと改めて思った瞬間だった。
私抜きで大事な話がしたいようなので傘を燐に渡し、理事長に軽く会釈をしてから私は修道院に戻る。

その時、理事長は私の後ろ姿を何か考えるそぶりをしながら見ていたのだが……もちろん、私が気づくことはない。





明日は入学式。
燐とは今までのように会えなくなる……とこの時の私は思っていた。






〜続く〜



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