3…最期の約束

燐達と出会って数年…私達は中学を卒業した。
雪と私は【正十字学園】に入学が決まり、燐は就活の最中だ。
……ちなみに【雪男君】の事を今は【雪】と呼んでいる。
短くて呼びやすいと私にのみ好評だ。

「ソラちゃんも高校生かぁ……時の流れは早いねぇ〜」
『確かに……ここに通いはじめて…8年と少しですね』

私は水野家から歩いて十分程の所にある定食屋【はっちん】に来ている。
安くて量も多い……そのうえとても旨い。
今、一緒に話をしているのが店主の【八郎さん】でスキンヘッドとねじり鉢巻がトレードマークの強面のおじさんだ。
獅朗さんとは友人らしく燐と雪を連れて良く食べに来ている。

「そーいや燐と雪男はどうした?最近見ねーけど」
『雪は高校の準備が忙しいみたいで……燐は就活中です』
「なに?」

燐が就活中であることを伝えた瞬間、八郎さんの目が鋭く光った。
そして口元に笑みを浮かべとても喜ばしい事を言いはじめる。

「職が決まってねーなら、是非ともウチに来て貰いたいね!アイツの料理の腕は俺も認めてんだ。ソラちゃん、アイツに俺のとこに来るよう伝えてくれ!」
『了解です!八郎さんの所なら燐も喜びますよ!』

なんともありがたいお言葉!
早くに伝えたくて私は走って修道院へ……もちろん【普通に】走った。
修行の成果もあり私の身体能力は信じられないくらいに上がり、今ではどこぞの戦闘キャラである。
修道院の前に着いて最初に会ったのは獅朗さんだ。走ってくる私に気づいて声をかけてくれた。

「ソラちゃん、どうしたんだ?そんなに急いで……しかも嬉しそうに」
『獅朗さん!ビッグニュースですよ!八郎さんが燐を雇いたいって、是非とも来て欲しいって言ってくれたんです!』
「なにーっ!?」

獅朗さんも驚き喜んでいたが、タイミングが悪く燐は知り合いの料亭の面接に向かったそうだ。
もっと早くに知らせに来ればと落ち込む私に獅朗さんは……

「ははは。大丈夫だって。決まったとしてもどちらかをアイツが選べば良いんだから……それにしても八郎といいソラちゃんといい……ありがとうな。燐を想ってくれて」
『……何かありましたか?』

最後の台詞の時の獅朗さんの顔は子を心配する父親の顔だった。
少し気になったので聞いてみたのだが……

「いいや。何でもないよ。俺は仕事で出掛けるから……またな」
『はい』

見事に誤魔化された。
しかし、数歩進んで獅朗さんは立ち止まりこちらを真剣な表情で振り返る。

「ソラちゃんは燐の事は好きか?」
『!』

何を言われるかと思えば燐の事だった。
もちろん返事は……

『勿論です!私にとって大切な友人です!』
「……燐がどんな存在でもか?危険な存在だったらどうする」

やはりいつもの獅朗さんらしくない。
でも真剣に聞いているのは分かっているから私も慎重に答える。

『……私は燐がどんな人か知っています。後でなんと言われようともそれは変わりません……私の好きな言葉の一つを紹介しますね。【姿形は関係ない。問題なのは大切なのは魂だ!】』
「!」

目を見開く獅朗さん……でもすぐにいつもの明るい人に戻った。

「……ククク…姿形は関係ない…か。誰の言葉だい?」
『HAHAHA!……漫画の主人公のセリフですよ。でも気に入ってます』

私が胸を張って言うと彼は大袈裟なくらいに笑い出す。
笑っている目の前の中年親父にジト目を向けていると相手の方がこちらに歩いてきた。

「すまないな。でもおかげで安心したよ……一つ約束してくれるか?」
『良いですよ』

小指を差し出されたので私も小指をだし、指切りをした。
彼の優しくも力強い瞳が私に向けられる。

「燐や雪男が困ったり悩んでいる時は助けてやって欲しい。何処に居ても、どんな存在でも友人でいてやってくれ」
『はい!約束します』
「……ありがとう」

その後、再び仕事に向かった獅朗さんの後ろ姿を見えなくなるまで私は眺めていた。
何度も見つめてきた背中は……私が憧れた人はいつもと変わらず前へと進んでいく。





それが私が見た獅朗さんの最後の姿となった。






〜続く〜

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