5…理事長からの誘い
今日は昨日と違い綺麗な青空が広がっている。
私は新しい制服に着替え朝食の準備をしに台所に向かった。
正十字学園は全寮制で許可がなければ外出は出来ないので、この家には暫くの間は帰ることが出来ない。
(だからこそ、今日の朝食は気合いを入れて頑張ります!)
暫くしてお父さんも起きてきた。
いつもと変わらない朝の時間とも暫くはお別れだ。
朝食をとりながら何気ない会話をはじめる。
「制服似合ってるぞ。ネクタイじゃなくてリボンタイプにすれば女の子らしく見えるのになぁ……」
『だってリボンは大きいデザインだったから……正直邪魔だと思ったんです』
「……女子力を上げるには多少の我慢は必要ではないかね?」
真剣な表情で言ってきた父に私も真剣な表情で答える。
『私に女子力を求めるのは間違っていますよ』
「うん。でも父さんのささやかな願いなんだ。普段着もせめてスカートを…『善処します』……」
その後、ふてくされた父と朝食を済ませ家を出た。父は昨日抜け出したこともあり、仕事に行かなければならないので式には参加できない。
「すまないな……学園の前までは送れるから」
『それだけでも十分ですよ……それより、ネクタイをしっかり結べていないですよ』
しっかり者の父にしては珍しいと思いながら、ネクタイを結び直していると父は嬉しそうに笑っていた。
少し前までは背伸びをしなければ届かず結べなかったネクタイも今は余裕でできる。
車で学園に着くまでの間、会話が途切れることはなかった。
『ありがとうお父さん……行ってきます!』
「ああ……行ってらっしゃい。たまには連絡しろよ!」
『分かってますよ!』
去っていく娘の姿を見えなくなるまで見つめ続けた父は寂しいような嬉しいような複雑な表情で立っていた。
「……やれやれ。俺もいい加減に子離れしないといけないな」
苦笑しながら車に乗り仕事に向かう彼の隣にはソラの作ったお弁当が置かれていた。
入学式が終わり数日がたったある日、木の下で本を読んでいた私の隣に理事長がやって来た。
いつもと変わらない笑みを浮かべた彼はゆっくりと近づいてくる。
「こんにちは。隣に座ってもよろしいですか?」
『……どうぞ』
今日はただのスーツ姿だったので少し安心した。
もし、あの姿だったら拒否していたかもしれない。
理事長は私をじっと見ながら口を開く。
「………貴女の事は藤本神父から聞いた事があります。子供とは思えないほど落ち着いていて、強い女の子がいると」
『……獅朗さんが?』
獅朗さんが私の話をしている事よりも【強い】と言ってくれていたことに驚いた。
何度も手合わせをしたが一度も勝てず、その度に" まだまだ弱いなぁ。本気で来ないと勝てねーぞ "と言われ続けていたのだ。
「こうも言っていましたね。" いつの日か本気のあの子と手合わせしたいよ "……とね。【あの】藤本神父が惚れ込んだ貴女の強さ…生かしてみる気はありませんか?」
『……その前に何故その女の子が私だと?』
先程の話では誰のことか分からない筈なのに迷わず私の所に来たのが気になったので聞いてみた。
すると口角が上がり僅かに目を細め彼は答える。
「貴女からは一般人とは違う……【特殊な人間】の匂いがしたものですから。それに白髪の女の子なんて珍しいですからね」
(な、なんと……!?)
まさかの理由に私の心臓は悲鳴をあげている。
特徴として白髪を聞いていたので確信した……事にして最初の理由がただのおまけであって欲しい。
とりあえず表面上は冷静でいるよう心がけた。
『……何の勧誘ですか?』
「【祓魔師】。悪魔を退治する仕事です。藤本神父も祓魔師として働いていましたし、現在その意思を継ぎ奥村兄弟が奮闘中です」
『なんですと!?』
目を見開き驚く私を見て理事長は「ようやく反応してくれましたね!」と大人げなく笑いだした。
しかし、私はそれどころではなかった。
突っ込みたい所が多すぎてどうしたものかと頭をフル回転していたのだ。
「すぐに返事を下さらなくても良いですよ。決心がついたら私に連絡を……」
そう言って名刺を渡した理事長はその場を離れていく。
しかし、彼は途中で止まり振り向き爆弾発言をした。
「……言い忘れていましたが…祓魔師になれば貴女の知らない藤本神父の事も…彼の死の真相も知ることが出来ますよ」
『っ!』
それを聞いた私は考えるよりも先に理事長に向かってタックルをかましていた。
【知りたい】……あの人が何者なのか、なぜ亡くなってしまったのか、そんな私の想いを込めたタックルは理事長のお腹が受け止めてくれている。
「ぶほぉっ!?………な、何を…」
苦しむ理事長の横で私は先程の返事を伝えた。
あの人の笑顔が頭に浮かび言葉が迷わず出てくる。
『なります……祓魔師になります!』
まさかのタックルの後のなります発言に次は理事長が驚いている。
そんな理事長には悪いが、見た目からして胡散臭いので真顔でひとつ……
『ちなみに……先程の話が嘘だったら頭を坊主にして差し上げます』
「なんですと!?」
こうして私は祓魔師としての道を歩むことになったのだ。
この先に何があろうと……私がこの時の決断を後悔することはない。
〜続く〜
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