2…燐の家族

眩しい日差しが照らし続ける真夏日でも私は修行を欠かさない。
前世同様、何があるか分からないのでやれることはやっておく。
……あと趣味でもある。

《ビギャーーッ!ビギァーーッ!》
『!……もう時間ですか』

雄叫びに近い鳴き声を放っているのは、私の部屋にあるフクロウの姿をした目覚まし時計である。
……目が大きく見開き鳴く姿はホラーに近い。

『でも嫌いじゃない。……さて、出掛けますか』

ラフな部屋着から短パンにノースリーブのシャツ、麦わら帽子とサンダルに着替えて私は家を出た。
向かうは燐の家。

(案外近い場所に住んでたんですね)

燐が住んでいる修道院は【普通に】歩いても20分もあれば着く場所にあった。
古いが綺麗に掃除も手入れもされている。
近くで掃除をしていた中年のおじさんに燐を呼んで貰うために声をかけた。

『こんにちは。燐君居ますか?』
「へ?…………燐?くん?」

何故か不思議そうに固まり、これまた不思議そうに聞き返してくるおじさん。
耳が遠いのかと思いもう一度聞こうとした時だった。

「…お、お嬢ちゃん……もしかして…燐の友達かい?」
『はい。今日は燐君の家で遊ぶ約束をしていたので来ました』
「おぅふ……こーしちゃおれん!お嬢ちゃん!ちょっとだけ待っててくれ。すぐに戻るから!」

真剣な表情で質問をしてきたと思ったら、答えてすぐに修道院の中へと走って行った。
すると中から複数の人間の声が……外からでも分かるくらい大きな声が聞こえてくる。

「大変だ!り、燐の友達が…女の子がお宅訪問にやって来たー!!」
「なにーーっ!?」
「燐に友達が?しかも女の子だって!?」
「おい!片付けろ!あと燐を呼んで来い!」

なんとも賑やかな人達がここで働いているようだ。
掃除でもしているのかドタドタと音が響いたあと静まり返りドアが開いた。

「……い、いらっしゃい」
『………こんにちは。ツッコミしても良いですか?それともスルーしましょうか?』
「…スルーで頼むよ」

ドアの向こうには七五三のような服装に身を包み複雑な表情の燐がいた。
そして燐の後ろには同じく独特の修道服をきっちりと着た男性が数人満面の笑顔で立っている。

「こんにちは。私は燐の保護者でここの神父でもある【藤本獅朗】だ。よろしく!」

満面の笑顔で自己紹介してくれたのは私と同じ白髪で眼鏡をかけた四十代くらいの男性だ。
その笑顔はどこか……前世でお世話になったヒューズさんに似ていた。

『こんにちは。私は水野ソラといいます。よろしくお願いします』

頭を下げ挨拶をしたら大人たちは「なんてしっかりした子なんだ」「まともだ。本当に燐の友達なのか?」等、燐にしてみたら失礼なことを言って驚いていた。
散々な言われように堪えられなくなったのか燐は私の手を掴み歩きだす。

「もういいだろ!?さっさと仕事にもどれよ!ソラ!部屋で遊ぼうぜ。紹介したい奴がいるんだ!」
(…燐…耳まで真っ赤ですね。無理もないか)

首だけで振り向くと大人達はにやけながら私達を見送っていた。
二階の部屋に着いて燐は部屋のドアを明け一人の名を元気よく呼んだ。

「【雪男】!いるか!?」
「わあっ!?…に、兄さん驚かさないでよ」

部屋に居たのは大きめの眼鏡をかけた男の子で、勉強をしていたらしく机にノートなどが広がっている。
燐は両手を前に合わせ謝りながら部屋の中へと入って行く。

「わりーわりー。雪男に早く紹介したくてさ!」
「え?」

燐の視線の先には私がいて目があったので会釈をすると、つられて男の子も会釈をし燐に質問をした。

「えっと…もしかしてあの子がソラちゃん?」
「おっ!よくわかったな。さすが雪男だ」
「…兄さんから特徴とか聞いてたし、白髪の女の子なんて珍しいからね」
(…確かに)

私の髪は生まれた時から白く原因は分かっていない。
……だが、結構気に入っている。
話が終わったようなので挨拶をするために雪男君の前まで向かった。

『初めまして。私は水野ソラといいます。よろしくお願いします』
「ぼ、僕は【奥村雪男】です。こちらこそよろしくお願いします」

先程と同じく頭を下げ挨拶をしたら雪男君も同じく頭を下げ挨拶をしてくれた。
燐と雪男君の話によると二人は双子であり、燐が【兄】で雪男君が【弟】になるそうだ。
エドやアルと同じく真逆のタイプみたいで親近感が湧いてくる。

『双子を見るのは初めてです』
「そうなのか?」
「双子は珍しいみたいだからね」

暫くは部屋にいるつもりだったのだが…
三人で何気ない会話をしていたらドア向こうの気配が増えて気になるのでドアを明けた。

『…どうかしましたか?』
「……ちょっと掃除を」
「…たまたま通っただけだよ?」
「…散歩?」

目の前には先程の人達が冷や汗をかきながら作業をする振りをしている。
…分かりやすい人達だ。
それを見た燐は不思議そうに口を開く。

「何してんの?ここの掃除ならもう終わったって言ってたぞ」
「そ、そうなのか?なら別の所にしようかな。じゃあまた…」
「俺も手伝うよ」

次々に居なくなっていく大人たち。
燐は気づかなかったようでずっと不思議そうにしていた。

「変なの……暑さでやられたのかな?」
「今日も暑いもんね」
「……そうだ!あとで飲み物配ってやろーぜ!冷たいの飲めば元気がでるだろ?」
「…そうだね。うん。そうしよう!」
『…では私も手伝います。三人ですれば早いですからね』

燐と雪男君の子供らしい純真さは見ていて癒される。
その後、途中だった雪男君の宿題を手伝い(燐も自分の分を)終わってから麦茶を配って回った。
慣れないのか零しそうになるのを必死に耐え持ち運ぶ燐と雪男君はとても可愛らしい。
配り終わると二人は汗をかきながらも笑顔だ。

「みんな喜んでたな!」
「やっぱり暑かったんだね。良かった」
『そうですね。……泣いている人もいましたしね』

感動する人、感激のあまり涙を流す人と反応が面白く見ていて飽きなかった。
今は最後の藤本神父の所に貰った飴玉を味わいながら向かっている。
しかし、私は気づいている。
藤本神父が私達を影から見ていたことを……自分の番だと気づいて自分の部屋へダッシュしていたことを…

『二人は愛されてますね。HAHAHAHA…』
「何の話?」
「…お前も暑さにやられたのか?」

雪男君は不思議そうに聞き返し、燐は変なものでも見る表情でこちらを見た。
…とりあえず燐の頬をつまみ引っ張るとしよう。

「いって〜…覚えてろよ」
「まあ、まあ…」
『おや?着いたみたいですよ』
「無視かよ!」

ツッコミをする燐を無視し、ドアをノックすると中から藤本神父が間をおいてから返事を返した。
私が部屋のドアを明けると藤本神父は本を片手に立ち、自然に振る舞おうと笑顔でいる。

「お?どうしたんだ?」
「今日も暑いだろ?だから麦茶を配ってんだ!」
「父さんで最後だよ」
『熱中症対策にもなりますから。(……この暑いなか全力で走りましたね…お疲れさまです)』

明らかに汗を流している藤本神父だが幼い兄弟は気づく事なくお茶を渡しにいく。
嬉しそうに話し渡す子供たちを同じく嬉しそうに受けとる藤本神父。

「ゴクゴク……ぷは〜!うまい!生き返ったよ。ありがとうな!」
「「!」」

美味しそうに飲みほし満面の笑顔で礼を告げた藤本神父を見て燐も雪男君も嬉しかったのだろう。
おかわりを持ってくると言って出ていってしまった。

「行っちまいやがった。…すまないな。ちょっと待ってやってくれ」
『大丈夫ですよ。…二人ともお父さんの事が大好きなんですね』
「!…そう思うかい?」

藤本神父は若干照れながら聞いてきた。
私は先程の神父の行動を思い出し笑いそうなのを堪えながら答える。

『思いますよ。藤本神父が美味しそうに飲みほし礼を言った時の二人の顔……今までの中で一番の笑顔でしたから。それに貴方の話をしている時の二人は本当に嬉しそうに…見ていて分かるぐらい幸せそうでしたよ』
「…そうか」

その時の藤本神父は先程からの無邪気な笑顔ではなく、優しく慈愛に満ちた微笑みだった。
思わず私まで優しい気持ちになり笑みがこぼれる。

(……神父も二人を愛しているのが伝わってきますね)

二人が戻ってくるまでの間、私は藤本神父に燐との出会いを話していた。
神父もまた燐達の話を自慢気に話し楽しそうだ。






そして、時間はあっという間に過ぎていき帰る頃には夕日が綺麗に空を覆っている。
燐や雪男君だけでなく修道院の人達も見送りに来てくれたのでちょっと照れくさかった。

「じゃあまた明日。明日は神社に集合な」
『了解です。…でも宿題はしてから来てくださいね。せずに来たら……帰ります』
「お、おう。…雪男、手伝ってくれない?」
「いいよ。頑張ろう兄さん!」

二人とも素直で可愛い兄弟で私の心は癒される。
それは後ろの大人達も同じらしく暖かい目で見守っていた。

『そうです。二人とも明日は水筒を用意して来て下さい。明日も暑いので』
「そうだな。分かった!」
「え?……僕も?」

不思議そうに聞き返してくる雪男君に対して私も燐も何を言ってるんだとばかりに見る。
少し困惑気味の雪男君に燐は首を傾げながら答えた。

「当たり前だろ?嫌なのか?」
『…何か用事でもありましたか?』
「……ううん。僕も行く!」

徐々に頬が緩み嬉しそうに笑う雪男君につられて皆も笑顔だ。
たった数時間ではあるがこの人達は共に過ごしていて……とても温かい。
彼らとは長い付き合いでいたいと思った瞬間だった。










〜続く〜

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