1…夏休みの出会い

"姉ちゃん!"

"ソラ"

"置いていくぞ!"

"約束だよ"



次々に現れては消えていく人達は人種も年齢も違うが全て大切な人達だ。

『……またこの夢ですか』

前世での友人や家族を懐かしむように見ていた私は最後に別れを告げる。
毎回、同じ言葉しか言えないけど…

『ありがとう……さようなら』


目を覚ました時には涙が一滴流れていた。
彼らのいない世界で私は3度目の人生を送っている。

『……夢なんて久々……今日は良いことがありそうですね』

眠い目を擦りながら私は起き上がり着替えを始めた。
皆の顔を見ることができた為に気分は凄く良い。
支度を終え朝食の準備に取り掛かる。

『朝食はやはり和食が一番ですね』

普通に調理しているが私はまだ6歳の子供で夏休みをエンジョイ中の小学一年生だったりする。

「おはようソラ。……いつもありがとうな」

目を擦りながらやって来たのは父の水野豊。
職業は人の命を預かり救う医者だ。

『おはようございます。お父さんこそ、いつもお仕事お疲れ様です』
「ああ。…今日も美味しそうだな」

いつものように二人で朝食をとり、父は仕事に出掛け私は残っている家事を終わらせ修行をするために自分の部屋に向かった。

(……【絶】)

部屋に立っているだけに見えるがちゃんとした修行だったりする。
前世での記憶を持って生まれた私にとって子供の間の時間は長く感じ、暇をもて余していた。
そんなある日、前々世の弟ととある漫画の話をしている夢をみたのだ。
そして暇で仕方なかった私は漫画に出てくる特殊能力の修行を開始した。

(………まさか本当に出来るなんて……前世の世界も驚きましたがこちらも何かとありそうですね)


昼過ぎまで修行をし、休憩後に散歩へ出掛けた私はまず神社に向かった。
そこは人が滅多に来ない穴場で私にとってはベストプレイス!

『この先の道を曲がれば…「あとちょっとだからな!」…?』

声がした方を見ると同年代と思われる男の子が木の枝に引っ掛かっている風船を取ろうと木登りをしていた。
下には更に幼い女の子が涙目で見上げていたので、あの風船の持ち主は彼女と思われる。
少年が手を伸ばし風船を掴んだ瞬間、枝に当り破裂した。

「あ"〜ん…わたしの風船がぁ〜!」

泣き出した女の子に男の子は焦りながらも謝っていたが泣き止むことは無かった。

「ご、ごめん。…ごめんな」
「ちょっと!うちの娘に何してるのよ!」
「えっ!?」

怒鳴りながらやって来たのは女の子の母親で……事情も聞かずに決めつけ男の子を責めた。

「あなた…藤本さんとこの問題児ね!うちの娘にまで怪我をさせるつもり!?」
「ち、違う!俺はただ…「言い訳しないで!」……っ!」

なんとも一方的で頭ごなしに怒鳴り散らす母親の姿は見ていて気分の良いものではない。
あまりに酷い対応が続いているので私は男の子の助っ人として割り込むことにした。

『彼はそんなことしてませんよ』
「…何?どこの子?」

訝しげにこちらを見る母親に対して、男の子は困惑気味に私と彼女を交互に見る。
少しでも安心して欲しくて笑顔で『こんにちは』と挨拶をすると小さく返してくれた。
そして、母親に顔を戻し話を再開。

『私は通りすがりの子供です。それよりも彼はただ、娘さんの風船が木の上に引っ掛かっていたのを取ってあげていただけで、乱暴をしたわけではありません。泣いているのは風船を取る際に誤って割ってしまったからです』
「…………」

いきなり現れた子供が冷静に淡々と説明した内容を信じられないのか母親は娘に確認をし始める。

「マユちゃん…本当なの?乱暴な事されてない?」
「え?…ヒック…らんぼう?なんのこと?マユは風船が割れちゃって……ウッ…悲しくて…」
「ごめんな。…俺がしっかり掴んでたら…」
「ううん。…お兄ちゃんは悪くないよ?お兄ちゃんはマユの風船取ってくれようとしてくれたもん!」


子供達の会話を聞いていた母親は見るからに焦りだし、軽く謝罪をして娘と共に帰っていった。
その後ろ姿を見送って軽く息を吐き男の子に振り向く。

『やれやれ。……災難でしたね。大丈夫ですか?』
「お、おう。……助けてくれてありがと」

戸惑いながらもきちんと礼を言った男の子だったが、何かを言いたげにこちらをチラチラ見ているので聞いてみた。

『どうしました?遠慮なく言ってください。…カモン!』
「へっ!?…カモンって……そ、その…俺は【奥村燐】!お前の名前は?」

緊張からか汗が一滴流れ照れくさいからか頬は赤くなり、でも元気よく自己紹介をしてくれた奥村君。
私も元気よく笑顔で答える。

『私は【水野ソラ】です。よろしく、奥村君!』
「!……こっちこそヨロシクなソラ!」

最初は驚き固まっていたが、次第に満面の笑顔へと変わった奥村君はとても可愛いかった。
よほど嬉しかったのか握手をしたまま話を続ける。

「俺のことは【燐】で良いよ!俺もソラのこと名前で呼ぶから。」
『了解です!』







【奥村燐】…彼との出会いが私の未来を大きく変え……そして大切な親友となるのだ。








〜続く〜

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