40…誰でも良かった

落ち込んでいたソラが復活してすぐに燐は目覚めた。
小さく呻き声を上げた後、ゆっくりと瞼を開き瞳だけで辺りを見回す。
まだ脳が正常に機能していないのか状況を理解していない。
そんな彼にソラはいつも通りに声をかける。

『おはようございます。燐』
「!……ソラ?……俺………ここは何処だ?」
『出張所にある監房…つまり、牢屋ですよ』
「牢屋……」

徐々に記憶がハッキリとしてきた燐は顔を歪めていく。
そして、仰向けになっていた彼は腕で顔を隠しながらソラに謝った。

「っ!………ごめん。俺……また、やっちまった…」
『……謝るなら私もです。止めに行く事すら出来ませんでした。ごめんなさい』
「そんなの!…お前が謝る必要なんてねぇよ」

勢い良く身体を起こした燐はソラは悪くないと言うが、彼女は首を横に振る。
そして、不安な顔をしている燐に手が届くようにと柵に近づく。

柵の隙間から伸ばされた手は燐の……頭を鷲掴みにし、まさかの事に彼は「へ?」と困惑顔だ。
掴んでいる当の本人はというと、ニコニコと笑みを浮かべている。

『私はですね。こう見えて負けず嫌いなんですよ。知ってますよね?』
「し、知ってる…」
『どこのアホか知りませんが…邪魔をされて…苦痛を与えられて……そんな輩の好きなように事が進むなんて耐えられません。』
「いでででっ!…なあ!さっきから何の話してんの!?」

思い出したら腹がたって仕方ないのか燐の頭を掴む力は強くなっていく。
痛みから涙目になり必死にソラの手を離そうとする燐だが、【念】も使用しているのかビクともしない。

『何よりも……大事な友人の命を脅かそうなどと…』
「!」
『許せるわけないでしょーがあああ!!』
「ぎゃあああ!!…ま、待ておい!その友人って俺の事だよな!?そうだよなぁ!?」

燐が必死に問うとソラは『イエス!』と答えるが…やっている事を考えると信じられない返事だ。

そんな騒ぎに歩いて向かっていた雪男とシュラは、何事かと思い走りやって来た。
現場を見た二人は驚きのあまり開いた口が塞がらない。

立ち尽くす二人に気づいた燐は助けを求めた。


「雪男!シュラ!た、助けてくれ!!こいつ念を使ってんのかビクともしねーんだよ!!」
『せめて姿くらい見せろやー!!』
「だから誰のこと言ってんだよ!?」
「「………………」」

その後、シュラと雪男の二人がかりで引き離されたソラ。
今は雪男に言われ深呼吸をしている。

「ほら、深く息を吸って……ゆっくりと吐くんだ。それを落ち着くまで続けて…」



その間、頭を抑えながら涙目の燐にシュラは事情を説明した。
燐を止めようとした彼女は何者かにより身体の自由を奪われ何も出来なかったと…
それを聞いて先程の言葉の意味は理解した燐だが、自分が襲われた事に関しては納得がいかない様子。

「まあ、あれだな…誰でも良かったんだよ。誰でも…」
「あいつは通り魔かよ…痛ぇ」







それから数分後に、落ち着いたソラと共に本題に入った。
シュラは燐にある人物からの手紙を手渡しその場にあぐらをかいて座り込んだ。

その人物は勝呂 達磨…彼から燐へと送られたその手紙を読むようにとシュラは言った。
だが…燐は読めないと口にする。
それを聞いたシュラは取り上げ自分が読むことにしたようだ。

「…ったく。字ぃ読めん奴だとは思ってたけど…のっけからかよ!ったく、最近のゆとり世代?ってヤツは…」

そう言って手紙を広げ、内容を目にしたシュラは目が飛び出す勢いで驚いてみせた。
後ろから覗いたソラは即座に読めないと判断している。

「でえええ!?ウッソ!あたいも読めん!!暗号!?」
「お前もじゃねーか!」
『安心してください。私も読めません!』
「何を安心すんの!?」

燐が二人にツッコミをし、見かねた雪男が手紙を読む事になった。
読み上げる前に雪男は小さくため息を吐き、兄に対して抱いた不満を少しだけ口にする。

「それにしても兄さん…僕を追いぬくだの何だの言っておいて…まさか獄中だとはね。アゴがはずれる位ビックリさせるって、そういう意味だったの?」
「……………」
『「!」』

いつもなら言い返す燐だが、今回は静かに下を見つめ何も口にしなかった。
その反応に少し戸惑いをみせた雪男にシュラは早く読むようにと急かす。
この状況で手渡された手紙の内容は重要なものに違いないからだ。

「……じゃあ読みます……前略…」







静かな監房に雪男の声だけが響き、その内容に皆が驚愕する。












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