39…同じ過ちを繰り返さない為に。

青い炎を放出し騒ぎを起こした燐はシュラに気絶させられた。
彼を運ぶのにソラが呼ばれたが様子がおかしい。
青ざめている彼女の所にシュラが行くとようやく反応を示す。
目を合わせると小さくシュラの名を呟いた。

「ソラ…大丈夫か?」
『はい。…燐は?』
「気絶してる。…今から隔離しなきゃならんから手伝ってくれないか?無理なら他の奴に頼むけど…」
『いいえ。私が運びます。』

そう口にする彼女はいつもの元気がない。
無理もないが、シュラには気になることがあった。

(あいつが燐を止めに来ないなんておかしいな。…それに、あのショックの受けよう……何かあったか?)

燐の置かれている状況も彼自信の事も理解しているソラが何も気づかず行動に移さないのはおかしい。
シュラは共にその場を去り、牢屋へと向かう途中で話を聞き驚きを見せている。

「なんでお前だけ……そいつは何が目的だ?」
『…分かりません。………燐はやはり処刑されるのでしょうか?』
「……禁固呪を唱えた時点でヴァチカンには伝わってる。奴らのことだ、ナンクセつけてはすぐにでも処刑するだろうさ。」

ソラも分かってはいたが、シュラから聞いて更に現実味が湧いてくるのを感じていた。
背中におぶっている幼馴染は明日にでも殺されてしまう。
その事が彼女の顔を歪ませていく。

『燐はただ、友達に気づいて欲しかっただけ……分かって欲しかっただけなんです…!』
「ああ。…でも、だからといって炎を出したのは間違いだ。あの時、その友達を怪我させてたかもしれない。」
『…はい。』

悔しそうに口を閉じ、黙々と進むソラをシュラは誰かと重ね合わせ ため息を吐いた。

(あの様子だと…止められなかった自分を必要以上に責めてんな。)

それから数分後に湿っけのある薄暗い牢屋に到着した。
燐を牢屋へと寝かせた後、シュラは雪男が待つ広間へと向かって行く。
ソラは共に行く事はせずに牢屋前の壁を背に座り込んだ。

顔を上に向け、目を閉じた彼女は一度だけゆっくりと深呼吸をする。
僅かに風が通り過ぎる音がするだけで他は何も聞こえない空間のなか、その状態のまま動くことはない。

『……………………。』






数分ほど過ぎた頃には落ち着きを取り戻したのか、眉間からシワがなくなっている。
静かにまぶたを上げると目の前には横たわる燐の姿…
つい数時間前まで、炎を操れたと喜び笑顔だった彼を思い浮かべたソラ。
その直後に脳裏に浮かぶのは前世で殺された大切な人達の姿…その度にみっともなく涙を流し後悔する自分の姿を最後に、彼女の瞳は力強く光る。
拳を握りしめ彼女は想いを自分に言い聞かせるよう口にした。

『……諦めたらいけない。…何もせずに後悔するくらいなら…醜く抗うまで…!』






























その頃の勝呂達は、宝を除く全員が給仕場に集まっていた。
勝呂の左頬は腫れ上がり、今はしえみが用意した冷えたタオルを押さえつけている。
眉間にシワを寄せ、顔を強張らせている勝呂は先ほど起きた事を話していく。

「出張所から右目が奪われた。」
「まさか…嘘でしょ。」

神木は彼の様子から嘘を言っているわけではないと分かっていても自然とその言葉を口にした。
そして、次に勝呂の口から放たれた言葉は全員を動揺させる。

「それと…奥村が捕まった。」
「「!?」」
「炎出して出張所の連中に見られたんや。」
「し…したら奥村君どないなるんです?」

子猫丸の問いに勝呂は目線を外したまま淡々と返していく。
シュラが術で失神させ、出張所の監房に閉じ込めていると…
この時からしえみの顔色は徐々に悪くなっており、隣りにいた神木はその様子に気づいた。
声をかけることはなかったが、モヤモヤとしたものを胸に抱き小さく舌打ちをする。
そして、考えるのは常に傍にいたはずのソラだ。

(…あんたが傍にいながらっ…何してんのよ!)

本人は責めているわけではない。
ただ、そう思わざるを得ないのだ。
そして、燐の名を呟いた直後に しえみはソラの事を勝呂に尋ねた。

「ね、ねえ…ソラちゃんは?一緒じゃないの?」
「!……水野なら先生と一緒に奥村を監房へ連れてったきり…姿を見てへん。」
「…そっか。」

それを最後に勝呂は口を閉じ、先程の事を思い出し始める。
燐や父親の事もそうだが、しえみに問われソラの様子も頭に浮かぶ。

シュラが人混みから連れて来たのは顔色の悪いソラだった。
彼女は燐の上半身を抱き起こした時、失神した彼の顔を見て今にも泣きそうな程に顔を歪ませたのだ。
そして、小さく呟いた声は周りに指示を出していたシュラや祓魔師達ではなく…彼女を意識して見ていた勝呂にのみ届く。


゛っ!……ごめんなさい…゛


勝呂はその時の言葉が…顔が頭から離れない。
特に彼女が呟いた言葉が引っかかっているのだ。

(………なんか……前にも聞いたような…)











それから10分と経たずに牢屋には雪男とシュラが訪れる。
冷静を装う雪男の後ろではシュラがある人物からの手紙を手に向かっていた。

それは…今は亡き、藤本獅郎の過去も記されている。









〜続く〜

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