38…ショーの始まりは絶望から

私達が出張所へとやって来ると多くの明蛇の人達や祓魔師が集まっていた。
シュラさんの話ではこの場所に【不浄王の右目】が封印されていたそうだ。

(どうりで…吐き気がするわけですね。)

地下へ進むにつれ、空気が重苦しく…禍々しい気を感じていた。
周りの反応から右目は奪われたのだと理解した私とシュラさんの顔は険しくなる。
そんな時に人だかりの中心にいた人物が怒鳴り始めた。
…声からして勝呂君のようだ。

「蝮が裏切ったんも、この有り様も……何もかんも全部アンタの所為やろうが!!」
「『!!』」

彼だと気づいた燐は向かおうとするが、シュラさんに肩を掴まれ止められた。
人々の間から見えた勝呂君の顔からは怒りと不安がみてとれる。
そんな彼が怒鳴っている相手は父である達磨さんだ。

息子から自分達を裏切っているのか…違うなら皆の前で本当の事を話してくれと言われた達磨さん。
彼は困った風に笑いながら話すことを拒否した。
…私には無理に笑っているように見える。

「本当の事…いやあ…それは【秘密】や。【秘密】は息子のお前にも話せへん。…出来れば一生話さずに済めばホンマ大助かりなんやけどなぁ。ナハハ!」
「この状況でアンタ何言うてんねん…」

不浄王の右目が仲間に裏切られ奪われた。
ただでさえ身内で疑心暗鬼になっているのに…一番に疑われている達磨さんは何も話さない。
彼の言葉に明蛇の人達は、面と向かって言われた勝呂君は愕然としている。
そんな状況でも達磨さんは困った風に笑みを作りその場を去ろうとした。

「とにかく!今はそれどこやない、蝮を追わんと…竜士、お前はお母や先生の言うことよう聞いて大人しぅしとるんやで。ええな?」
「っ!親父面すな!!!」

ついに勝呂君の怒りが爆発した。
彼は拳を強く握りしめ叫んだ。
しかし…

「このまま喋らんで行く言うんなら…アンタは金輪際 親父でも何でもないわ!」
「……ほな、私は行くな。」
「『!!』」
「……堪忍してや。」

最後の言葉は僅かに震えており、せめてもの本音なのかもしれない。
…いったい彼は何を抱えているのだろうか。

そんなことを思っていると燐が彼らの所へ進んで行くのに気づき、止めようとしたら体が動かず声も出せなくなった。

(なっ!?…ど、どうして…敵?……いや、私だけなのですか?)

目だけで確認をするが誰も不振なところはない。
それよりも燐が二人の所に行ってしまう。
一瞬、見えた燐の顔は怒りを見せていた為に一人で行かせるのはまずいのだ。
必死に体を動かそうと叫ぼうとするもうまくいかない。
焦りが増していく。

(待って!燐!…燐!!)


そして、燐は勝呂君に背を向け去ろうとする達磨さんの服を掴み止めた。
そこで ようやくシュラさんは燐が離れたことに気づく。
突然現れた燐に勝呂君達は驚きを見せている。
達磨さんの服を掴んだまま燐は彼に叫ぶように言った。

「何で行くんだよ!アンタ勝呂の父ちゃんだろ!!」
「燐くん…」
「それに、勝呂てめぇは!!」
「「!?」」

次に勝呂君の左頬を思いっきり殴り飛ばした。
その瞬間に僅ながら炎が出現してしまい、私は血の気が引いてしまった。
このままでは多くの人々の目に青い炎を見せてしまう。
まだ、騎士団の中でも上層部や関係した一部の者達しか燐の存在は知らされていないのだ。
明蛇の座主である達磨さんなら知っているかもしれないが、他の人達に知られたら…感情任せに炎を出したとヴァチカンに知られたら燐は…

(何故動かない!?誰がこんなことを!このままだと燐は…!!)

嫌な汗を流しながら必死に抗う私をよそに燐は勝呂君に怒鳴っている。
何が彼を怒らせたのだろうか。

「詳しい事情は知んねーけど、後でお前が絶対に後悔するから言っといてやる!いいか!父ちゃんに謝れ!!今のうちに!」
「関係ないやろうが!!黙っとけや!!」
「親父を簡単に切り捨てんじゃねえ!!」
「お前に言われたないわ!オヤジ倒す言うてる奴に…!!」

感情が高ぶっている時に、他人に事情も知らずに正論言われても腹が立つだけだ。
二人の間に入り仲直りを促す達磨さんには悪いが火に油であり、勝呂君の怒りは収まらない。

「…アンタはどこへでも好きに行ったらええやろ!二度と戻ってくるな!!」
「!」

勝呂君の最後の言葉は燐の何かを刺激したようだ。
体のあちこちから炎が漏れだし、彼の感情が爆発してしまった。

「…カッコいい奴だと思っていたのに…見損なったぞ…!!」
「「!?」」
「勝呂ォ!!」

ついに全身から青い炎が溢れだしてしまった。
子供の体から恐ろしい青い炎が現れたのだから周りの騒ぎは大きくなる。
シュラさんが向かっているが人混みが邪魔をしており間に合わない。

炎を溢れさせながら迫る燐を勝呂君は簡易防御結界で防ぐ。
私はもう、抗うことはせずに事の成り行きを見るしかなかった。

「俺だって……好きでサタンの息子じゃねーんだ!!」
「!!」

結界を破った燐は勝呂君の胸ぐらを掴み必死に訴える。

「でもお前は違うだろーが!!違うだろ!!」
「坊!!」
「わっ!?」

危険だと判断した志摩君のお兄さんである柔造さんが、二人の間に錫杖を降り下ろし燐を遠ざけた。
そして、燐の後ろからはシュラさんが禁固呪を唱えだす。
それにより、燐の尻尾の付け根に取り付けられた呪具は縮み彼を苦しめ始める。

「…ぎっ!!いぎゃああああっ!!」
「!?」
「オン ギャチギャチ ギャビチヤンジュヤンジュ…」

彼は倒れたのか私の視界から消え叫び声だけが聞こえてくる。
そして、何も聞こえなくなった。
私の手は軽く震え、呆然と立ち尽くしている。

『……燐…』

気づけば私の体は動き、声も出せている。
何が目的で誰が邪魔をしたのかは分からない。
考える余裕すらない私は、シュラさんに呼ばれるまでそのままだった。



























これは大きなショーの始まり。
今後の展開(シナリオ)の為にも奥村燐を追い詰める必要がある。
それ故に水野ソラの存在が邪魔をしてしまうことがあるのだ。

(…悪く思わないでくださいね♪)










〜続く〜


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