37…闇夜と共に狼煙は上がる

燐の修業も順調に進み日が暮れ始めた頃には、蝋燭を3本とも同時に点すことが出来ていた。
目隠しも外しており、燐の目はキラキラと輝いている。

「どーだシュラ!ソラ!もう完璧だろ!?今の俺なら5本だっていけるぜ!」
「へぇ…ならやってみるか?」
「おう!」

やる気満々の燐だが、やはり5本同時にはまだ灯せないようだ。
燐が修業をしている間、私は燐の炎(オーラ)を観察し続けている。
…が、新たな発見は何一つとしてない。

(…しいて言うなら、眼に炎が集中しているように見えますね。オーラを炎に変えてるなら燐は変化系ということになりますが…残念なことに別物ですし……こちらの世界では漫画通りじゃありませんし…)
「なあ、シュラ…ソラの奴、また考え事しながらこっち見てんだけど…なんか恐ぇよ。」
「気にするな。あれは置物だと思えばいい。」

日も暮れ始めた頃、燐と私は頭を冷やしに庭にある水道までやって来た。
夏真っ盛りのなか、ずっと屋根の上にいたのだから汗だくだ。

「あ"ぼぼぼべぶべぶばぼっぶぼ…!」
『鼻の中に水が入ってしまいますよ。』

顔を横にして水をぶっかけているので注意するが、燐は気にしないようだ。
さっぱりしたらしくタオルで顔を拭く彼の顔は満面の笑顔で、私も頭から水を浴びたくなった。

『ふむ…私も水を浴びるとしますか。』
「その方がいいぞ!すんげー気持ちいいからよ!」

燐の言うとおり頭から冷やされ、汗でベタベタだったのがスッキリしていくのでしばらくの間水を浴び続ける。
そして、タオルを取り拭いていると燐が居ないことに気づいた。

『……燐?』

燐のオーラを探ると近くのお墓に三輪君と二人でいた。
草むらから出て声をかけようとしたが、話の内容から私は居ない方が良いと判断し隠れている。
燐は興奮しているのか炎がチラホラと体から漏れ出ており、三輪君は見るからに怯えていた。

「坊の話なんかしてねー!今はお前と話してんだ!!」
「…ぼ、僕は……僕には…何もない…!」
「『!?』」
「このとおり……僕は両親もいないから身寄りもない。」

三輪君は拳を握りしめ、俯いていたが…次の言葉からは燐の目をしっかりととらえながら必死に話し出した。

「そんな僕を明蛇の人達はここまで育ててくれはって…僕はいつか恩返しがしたいんや!…将来は明蛇のために働きたい…!」
「『……………。』」
「明蛇が僕の唯一の居場所…それを壊す危険のある人は……僕にとっては敵や!!」

最後の言葉は叫ぶように言っていたが、今までの彼を思えばかなりの勇気が必要だったはず。
普通なら仲良くしていた相手から【危険人物であり敵だ】と言われれば、ショックを受けるか憤りを感じるのだが…

「……そうか。………わかった。」
「!」

燐は傷ついていても顔には出さずに三輪君と向き合っている。
彼は相手の言葉や気持ちを聞き逃さずに受け入れ、尚且つポジティブなのだ。
そんな燐は笑顔で…

「じゃあ、俺が危険じゃないって判ったら仲直りしてくれるか?」
「!!」

驚きを隠せないでいる三輪君に燐は己の手を見つめ、三輪君の気持ちを彼なりに理解したようだ。
コッソリと聞いている私は思わず笑みを浮かべていた。

「…お前の言うとおりだよ。俺…修業がなかなか先に進まなくてさ…あ!でも、炎のコントロールは前よりマシになってんだぜ。」
「…………。」
「……それでも完全にじゃない。こんなんじゃお前らも不安だよな!めっちゃ納得したわ。修業に戻るな…!」

その場を去ろうとする燐だったが、言い忘れたことがあったらしく三輪君の方へと振り向いた。
もう…三輪君の顔から不安や恐怖はなくなっている。

「お!そーだ気づいてないっぽいから言うけど…」
「!」
「お前、何もないって んな事ねーだろ。守りてーもんとか大事なもんいっぱい持ってんじゃねーか!」

その言葉を最後に彼は去っていく。
しばらくの間、三輪君は立ち尽くしていたが…目に涙を浮かべ「奥村くん…!」と口にしていた。
三輪君は家族や友人を思いやる優しい人だ。
だからこそ、燐の優しさをまっすぐな気持ちを見て見ぬふりなどできない…今の彼は複雑な心境だろう。

(………そろそろ、私も戻りますか。)













それから約3時間後には、燐は5本の蝋燭に火を灯せるようになっていた。
休憩中もイメージを繰り返しており、シュラさんは変な物でも食べたのではと心配している。

「俺が真面目に修業してんのがそんなに変なのか!?」
「ちげーよ。…お前が何時間も集中してるのが変なんだよ。」
『やはり、お昼に毒キノコを食べさせて正解でしたね。』
「「!?」」

冗談のつもりだったが二人とも大袈裟な位に驚いている。
燐など解毒剤を探しに行こうとするほど…
服を掴み止めながら笑顔で冗談だと言っても疑いの目を向けられた。

『私ってそんなに信用ないんですか?』
「いや、なんつーか…お前は面白がって そういうことをするイメージがあんだよ。」
「ああ…メフィストみたいな感じか…」
「そう!それだ!」
『…これはまた、嫌なイメージを持たれてますね。』

確かにメフィさんとは悪ふざけをしたりしているが…悪質なイタズラなどしていない筈。
二人して納得されたことに軽くショックを受けていると、ピカが遊びに来てくれた。
抱き抱えて頭を撫でると自ら頭を擦り寄せ喜んでいる。

『お疲れ様です。しえみ達は部屋で休んでいるんですか?』
「ピィ〜カ。」
『まだ、働いているんですか。』

ピカは首を横に振り否定した。
日も落ちているのにまだ働いているようだ。
本来なら休みの筈なのに…
燐も二人が休みなのは知っていたようで、話に入り聞いてきた。

『最初はしえみが休んでいられない、手伝いをすると言っていたのですが…何だかんだで面倒見の良い神木さんも一緒に働くと言ってくれたんですよ。』
「そうだったのか……みんな頑張ってんだな。」
『ええ。…貴方の言う【みんな】の中に、ちゃんと自分の事も入れといてくださいね。』
「!…お、おう。」

頬を軽く掻きながら燐は返事を返した。
それから約1時間後、すっかり暗くなり休憩もそこそこに修業を再開しようと蝋燭を並べている時だった。

地響きと共に何かが崩れるような大きな音が鳴り響いく。
突然の事に驚き、私達は音がする方向に視線をやる。
すると、離れた場所にある出張所から煙が上がっていた。

「煙だ!な、なんだコレ…!?揺れてるぞ?」
『ここからでも分かる程の地響きに煙…敵襲でしょうか?』
「分からん…が、出張所で何かあったのは確かだな。」


急ぎ確認をしに行かなければならない。
シュラさんの指示に従いながら、私と燐は今も煙が上がる出張所へと走る。






これが多くの人々の命を脅かす戦いの狼煙だと後で知る。







〜続く〜

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