36…変わらない想い

任務二日目の朝、ソラはしえみと神木の三人とピカとで朝食を頂き予定を確認している。
大広間の隅っこで焼き魚を口に運んでいる彼女の顔はムスッと不機嫌だ。

「私達は昨日と同じ仕事みたいだけど…あんたは?」
『……燐と雑用ですね。』
「そ、そっか…雑用でもちゃんとした仕事だし、女将さん達も仕事が速くて助かるって言ってたよ。」
『………。』

明らかに拗ねているソラにしえみは焦るが、神木は頬杖をつき軽くため息を吐いていた。
彼女はサタンの息子である燐の見張り役であり、万が一の際のストッパーなのだと神木は理解している。
そして、ソラの性格を知っているためなぜ拗ねているかも分かっているのだ。

『……せめて午前中だけでも二人と作業をしたいです。二人だけ仲良く…羨ましい。』
(やっぱり……奥村燐の見張り役がどれだけ重要か分かってるでしょうに…何がそんなに羨ましいのか全く理解できないわ。)ヤレヤレ

それから数分後にソラを除くピカと女の子二人は仕事に向かった。
一人となったソラは反対側の端でシュラに首根っこを掴まれている燐の所へと足を進める。

『おはようございます。今日も寝ぐせが凄いですね。やはり坊主に「しねぇよ!」…まだ最後まで言ってないのに。』

残念そうにしていたソラはシュラや近くに座っていた志摩と挨拶を交わしていく。
先日に内輪もめをしていた男性二人も同じ席に座っており、志摩の兄達であることが分かる。
軽く挨拶をしてからシュラと燐と共に外で修業をすることとなった。
燐はTシャツを頭の上に持ち上げられ乱れたのを直してくれたソラから、共に修業をする事を告げられ驚いている。

「えっ!?ソラもすんのか?」
「そうだよ。ソラは生命エネルギーを操ってるだろ?力(炎)のコントロールに関してはアタシより適任だと思ってさ。」
『お役に立てるよう頑張りますね。』

シュラが案内した修業場所は屋根の上…
二人は用意された大量の蝋燭を3つずつ並べていく。
燐は蝋燭から少し離れた場所で腰を下ろし両腕を前に向ける。
その横ではソラとシュラが座り見物中だ。

「よっしゃあー!今日こそは成功してみせるぞ!」
「だといいけどにゃ〜…」
(……ふむ。細かなコントロールとイメージが重要な修業ですね。)

力みながら蝋燭を凝視している燐をソラは【凝】でオーラや炎の流れを観察している。
彼女は最初の頃、生命エネルギーであるオーラが炎に変換されているのではと考えていたが違った。
オーラにはさほど変化はなく、肉体の内側から突如として現れていてそのメカニズムはまだ分かっていない。

「ふんっ!ギギッ…!」
(……目に集まり始めましたね。)

伸ばされた腕からではなく目に炎が集まっているようだ。
【凝】なしでは視認できない程の僅かな量だが、燐が踏ん張った一瞬の間に炎は蝋燭の前まで移動し爆発するかの様に一気に膨れ上がった。

「だあっ!また失敗かよ!」
「あらら…まーた蝋燭ごと燃やしちまって…」

蝋燭は3つ全て燃やされ、火事にならないようにと燐が消火器で消している。
今度は立って集中し始めた燐の隣までソラは来て蝋燭の位置を…正確には蝋燭の点火位置を目に焼き付けるように伝えた。

『ちゃんと見て覚えたらコレを巻きつけますよ。』
「…え?」

彼女が取り出したのは一枚のタオル。
それを燐の目を隠すように巻きつけていく。

「あのさ…真っ暗でなんも見えねぇんだけど…」
『それでいいんですよ。…目を閉じて先ほど覚えた蝋燭をイメージして下さい。どんなに時間をかけても構いません。』
「?…分かった。」

燐が唸りながらイメージしている間もソラは【凝】をし続けている。
すぐに燐からOKが出たので彼女は蝋燭の方に向き直させた。

『次に蝋燭の点火場所に火が灯るのをイメージして下さい。もちろん、炎を意識しながら…』
「おう!分かった!」
(…やけに素直だな燐のやつ…ソラに頼んで正解だったかな。)

再び力みだした燐の頬をソラはプニッと突いた。
やる気満々だった燐の動きは止まっている。

「え?……何してんのお前。」
『力み過ぎです。これが最初ですから失敗しても問題ありません。ですから、料理をする時と同じようにリラックスしながらお願いします。』
「な、なるほど…」
『私もシュラさんもあなたの傍にいますから安心して力を使って下さい。』
「!」

優しい口調でそう言って離れたソラは再び観察を開始。
不思議と落ち着いている燐は深く考えずにただ、蝋燭をイメージしていく。

(……蝋燭の一番上………アレに炎を送って………点火!)
「『!』」

3つの内の2つに炎が灯りシュラやソラは驚いた。
修業開始から1時間と経たずに今まで出来なかったことが成功したのだから当然だ。
ソラもまさか1発目から灯せるとは思っていなかった。
いまだに目隠しをしている燐は二人の様子に感づき結果を問う。

「まさか…いきなり2つの蝋燭に火がつくとはな。」
「え!?火ぃ点いたのか!?」
『目隠しを取って確認していいですよ。』

言われて目隠しを取った燐は目の前の蝋燭を見て凄く興奮しだした。
それをソラは笑みを浮かべ見ている。

「よっしゃあ!あと1つでクリアだ!お前すげーな!」
『私ではなく燐が凄いんですよ。あなたは既に炎を使い戦っていましたから…コントロールも大雑把ながらも出来ていました。』

この時に彼女が思い出したのは林間合宿で暴走した燐と戦った日のこと…
主に炎を放出したり、ソラに向かって放つだけだったが…あれだけのエネルギーを狙った相手に放つ事がどれ程難しいか彼女は知っている。

中学に上がった頃から、圧縮したオーラを放とうと試みたソラだったが未だに実戦向きには仕上がっていない。
その事を二人に話すと「マジで!?」と驚いている。

「じゃあ、俺ってソラより才能あんのか…なんか嬉しい。」
『……本能で操ってただけかもしれませんけどね。』
「ああ…野生動物の勘ってやつ?」
「おい!」

冗談は程々に次の蝋燭を用意していく。
先ほど成功した物は記念に残しておきたいと燐が言うのでそのままにしてある。
再び目隠しをして始める彼は嬉しくて仕方がないのか、ウキウキと楽しそうに肩の力を抜きイメージを繰り返した。

午前中の間だけで、3つ同時には出来ないが少しずつ進歩している事を燐は喜び汗を拭っている。
三人は屋根の上で昼食の弁当を食べながら過ごした。

「にしても…なんで急に出来るようになったんだろな?」
「あ〜そりゃ、お前がビビリだからだよ。」
「んだと!?」
『…燐は体に力を入れ過ぎなんです。細かなコントロールをする時に必要なのは集中力とイメージ……あとは…』
「?」

言葉を止めたソラは燐の顔をジッと見つめた。
これまで見て聞いて知っている彼の境遇を思い出し、酷だと分かっていても言わねばならないと彼女は口を開く。

『自分がサタンの息子で悪魔だと認めることです。』
「!!」
『その力を操れないのは貴方の中に戸惑いが…恐怖があるからです。その力を…自分自身を受け入れた時、必ず違いが現れるでしょう。』
「……んな事ねぇ……俺はもうとっくに認めてる。お前には分かんねぇよ。」

深く眉間にシワを寄せ苦虫を噛み潰したような顔をする燐は拳を強く握った。
シュラは二人の会話を黙って聞いており、場の空気が悪くなるようなら間に入ろうと考えている。

(まあ…ソラが言ったことは当たってるし、アタシも感じていた事だ。……燐には酷な話だけどな。)
「この話は終わり!ほら、早く食わねぇと俺が食っちまうぞ!」
『…そうですね。』

黙々と食べ終えた後、シュラが追加の酒などを取りに行き二人だけとなる。
気まずいと感じる燐は蝋燭を並べながら何か話題がないかと探していた。
考えている間にソラがタオルを巻きつける為に傍まで来て、再び燐の目には暗闇のみ…
縛り終えたソラは最初の頃と同じく優しい口調で言った。

『燐、私はあなたの炎が好きですよ。』
「え?…な、なんだよ急に…」
『誰かを守る為に必死なあなたの炎は…すごく綺麗で温かいんです。まるで燐の優しさそのもの…』

照れくさいのかオロオロとしていた燐は気づけば静かに聞いていた。
本人も気づかない心の奥底で言って欲しい…聞きたいという思いがあるからだ。

『姿や形は関係ない。問題なのは大事なのは魂です。』
「!」
『悪魔であろうとあなたの心までは変わらない…私の大切な友人、奥村燐のままです。』

目隠しをして立っている燐の頭にソラは手を置き、見えていないと分かっていても微笑んだ。

『…生きてください。そして、これからも友として一緒にバカをしていきましょう。』
「っ……………当たり前だろ。」
『はい。』

手を離した彼女はその場から離れていく。
燐は緩む頬を思いっきり挟むように叩き、気合いを入れなおして修業を再開させる。
そんな二人の会話を屋根の下で聞いていたシュラは笑みを浮かべ、直後に聞こえた失敗した燐の叫びに苦笑していた。










続く。




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