35…任務一日目終了

ソラと燐が恐る恐る部屋の中を覗くと、キリクと呼ばれる錫杖が二人の目の前を通り過ぎて行った。
驚き飛んで行った先を見ると白い蛇が避けては威嚇をしている。
周りの祓魔師や患者達からは悲鳴が上がり、騒がしさは増していく。

「おいッ!君たちやめろ!!魔障者じゃないのか!?」
「きゃあああ!」
「蛇(ナーガ)を止めろ!!…ひっ!」

騒ぎの犯人と思われるのは黒髪と金髪の男性…床に座っている独特の髪をした女性達のようだ。
言い合っている事からソラはすぐにただの喧嘩だと理解した。
燐は怪訝そうに中を覗いている。

「なにこれ…どういう状況?」
『内輪もめですかね……とりあえず他の患者の方にとっては迷惑ですし止めに入りましょう。』
「そだな。んじゃ、俺はあの棒を止めに行くよ。」
『了解。』

それぞれがスイカを置き、同時にキリクと蛇に向かって走る。
燐は勢い良く飛んできたキリクを真正面から握り止め、ソラは蛇の顔を両手で挟み込んだ。

「「!?」」

突然に現れ止めた二人をその場の全員が驚き、患者達は助かったと安堵している。
それにより、蛇の主である女性とキリクの持ち主である男性の口喧嘩はおさまった。

「な、なんや…あんたら…」
「ボウズ大丈夫か!?怪我は…しとらんようやな。良かったわ…」
「いや、これくらいなんともないッスよ。」

その直後に勝呂・志摩・三輪の3名が到着し、勝呂が皆に注意をする。
ちなみにソラはまだ蛇の顔を挟んで見つめ合ったままだ。

「味方同士で何やっとるんや!敵に狙われとるって時に内輪もめ起こしとる場合か!!」
「や!!あのヘビ共が…」
「フン…」

金髪の男性が蛇の主である女性を睨み言おうとするが、女性は悪びれることなく冷たい態度をとる。

「…いくら座主血統とはいえ、竜士さまにそう頭の上から言われても…そういう事は竜士さまのお父上に直接言うていただかんとなぁ。」
「【蝮マムシ】テメェ!坊に何やその口のきき方ァ!!」
「…いや、蝮の言う通りや。」
「坊!?」

勝呂は彼女の言葉と態度に顔色を変えることなく背を向け、その場を去ろうとする。
三輪や志摩は複雑な状況を知っているために何も言い返す事ができないでいた。

「とにかく、もうやめ。病人に障る。」
「「………坊…」」

皆がその背中を見つめるなか、勝呂の足は途中で止まり何かを見ている。
その視線の先には…未だに蛇の顔を挟んで見つめるソラがいた。
蛇もまた彼女をジーッと見つめており、その場の全員が頭に?が浮かんだ。

「おい、水野…何してるんや?そいつやったらもう暴れへんから放しても大丈夫やぞ。」
『……可愛いと思いませんか?』
「は?」
『美しいとは思いませんか!?』
「「!?」」

勢い良く振り向いた彼女の目は輝いており、蛇の質感や鱗の美しさ…キュートな目等を褒め始めた。
その勢いに負けそうな勝呂は落ち着かせようとするが上手くいかずに困っている。
すると、見かねた燐が傍まで来て叫ぶようにしてある事を言う。

「ソラ!しえみと出雲が怪我したってよ!助けに行くぞ!」
『なんですと!?』

行くぞと言いながらも燐はその場を歩き進んでいくのに対し、ソラは鬼気迫る顔で凄まじい速さで走り去っていく。
その様子を皆が唖然と見つめ、何故か蛇までもがソラの肩に乗りその場を去るので蝮は驚きを隠せないでいる。

「ちょっ!何であんたまで行くんや!?戻って来ぃ!!」
「……なんちゅー切り替えの早さや!」
「…………な、何やったんやろ。あの子…」













それから数時間後には京都組3人と燐・ソラが再び増えたゴミの処理を担当していた。
日も落ち始めるなか、志摩は仕事に嫌気が出始め愚痴り始める。

「はぁ…暗なってきたし〜…一日中力仕事でもうしんどいわ〜…」
「もう少しふんばりや志摩さん。」

三輪の励ましもあったが、勝呂母から手伝いを頼まれた志摩の目にはひとつぶの涙が流れる。
案内された厨房には山積みにされた仕出し…弁当があり皆は察し、お腹の減っていた燐とクロは嬉しそうだ。

「うおお!うっまそおおー!!」
「ここにある仕出し…みんなで出張所の詰め所まで運んでくれへん?ぎょうさんあっててんてこまいなんや。」
『お任せください!』
「力仕事はまかしてください!」
「ほんま…みんなよう働いてくれて大助かりやわ!ありがとう。」

燐は高く積み重ねられ包まれた弁当と飲み物の入った袋を2つずつ持ち運んでいく。
ソラも同じ量を運ぼうとするが女将さんに止められ、飲み物を2袋分だけ持って行く事になった。

「女の子なんやから無理して持たんでええんよ。ホレ竜士!アンタも働かんかい!!女の子に重いもん持たせるんやない!」
『い、いえ!私なら平気ですから…』
「せやかて傷は治りきってないんやろ?…コレは俺らが持っていくから水野は飲み物を頼む。」
『…はい。』

そして、出張所まで運び終えた5人はシュラから労いの言葉と本日の任務終了を告げられる。
喜ぶ者やご飯を要求する者と様々な反応をするが、勝呂だけはいまだに険しい顔つきのままシュラにある頼みをした。

「…先生。俺…今から少し外出してもええですか?」
「どこに?」
「…洛北金剛深山。」
「山ぁ!?…何しに?」
「親父に会いに…」
「『!』」

燐は腹の減りが限界まで来ており気にしていないが…ソラは昼間に会った達磨の事が思い浮かんでいた。
シュラは明蛇宗の複雑な内部関係を知っているため行かせてやりたいが、任務中である事や保護者として許すわけにはいかないと話す。

「ホレ。そこの弁当、夕飯に持ってけ…ジュースもつけとくから。」
「やったぁ!メジ!!」
「………すみませんでした。お先に失礼します。」
『…………。』

燐が肩にぶつかっても怒ることもなく勝呂はその場を去っていった。
燐が人数分の弁当類を運んでいき、ソラも後を追いかけるがシュラに呼び止められる。
彼らには先に行ってもらいシュラの傍まで来ると…

「傷の具合はどうだ?」
『!…痛みはそれ程ありませんから戦うのに問題はありませんよ。』
「そっか。…なら、ちょっと頼みたい事があるんだけどいいか?」
『?』

シュラは燐の修行を手伝って欲しいと頼みはじめる。
燐は力(炎)のコントロールが上手くいっていない為、オーラを操る術を持つソラにコツ等を教えてやって欲しいと言うのだ。

『分かりました。燐の為に…何よりシュラさんからの頼みとあらば喜んで!』
「お!可愛いこと言ってくれるねぇ…お礼にジュースをもう一本あげちゃおっかにゃ〜♪」
『!』

和やかな雰囲気だったが、シュラが袋の中身を見てあることに気づき焦りだす。
まさかと思い残りの袋を確認すると彼女の顔色は悪くなる。

「あちゃー……ジュースとチューハイ…間違えちった…」
『え?…まさか燐達に渡したやつですか!?』
「うん……まぁいっか?……いや、ダメか。」
『当たり前です!』

急いで出張所を出たソラは皆を探す。
出てすぐに見つけたのは顔が真っ赤の燐と異常が見当たらない志摩だ。
すぐに燐が手に持っている酒を取り上げるソラ。

「あ!なにすんだよ!俺のジュースだぞ!」
『食事にはお茶が1番です。ほら、凄く冷えてますよ!』
「おお!なら飲む飲む!」

グビグビと飲む燐の近くに座っていた志摩は飲んでいないようなので、事情を説明した。
するとさすがの志摩も呆れ顔だ。

「うわぁ…ジュースとチューハイ間違えるって……ん?アカン!確か坊も持って行かはったんや!」
『なら、私が探しに行きますので燐の事をお願いします。』
「任しといて!」

残りの三輪は何も受け取らずに帰ったおかげで助かったようだ。
【円】を使い探してまわるとすぐに勝呂を発見するが…既に飲み終えて爆睡していた。
座ったまま眠る彼の顔は赤くなっている。

(お、遅かった…全部飲んじゃってますね。)

起こすわけにもいかず、かといってこのまま放置するわけにはいかない。
風を引いてしまうので部屋へと移動させるためにソラは彼に近づく。
すると、勝呂は寝言を呟いた。

「……ォレは……逃げへん。」
『!』

そう呟いた後、彼はソラの方に倒れ再び寝息を立て始める。
彼女には先程の言葉がただの寝言とは思えないようだ。

(逃げない…ですか。勝呂君が夢を諦めずに前へ進もうと足掻くのは…それだけの想いが…あるからですよね。)

勝呂を背中に背負い歩き始めるソラは、以前に話してもらった青い夜の話を思い出していた。
三輪や志摩の家族を含めた多くの仲間が殺された事を聞いていたにも関わらず、彼女は秘密を打ち明けることなく共に過ごしている。
事が重要なだけに仕方がない…しかし、ソラは勝呂の優しさや真面目すぎる性格を知れば知るほど申し訳なさが増していくようだ。

『(私は…勝呂君達からの信頼を裏切り……傷つけたのだと…こういう時は思い知りますね。)………ごめんなさい。』

彼女は小さく謝罪の言葉を口にし勝呂を部屋へと送り届けたのだった。








続く。


[ 36/53 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]


top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -