34…雑用も立派な仕事!

京都に到着した私達を待っていたのは京都出張所の使いである土井さんだ。
彼はバスを用意してくれており、とりあえず逗留先に荷物を置きに行く事になった。

バスの前に並び一人ずつ乗り込んでいると、私の前にいる燐は振り返りある建物を嬉しそうに指し示す。

「お!京都タワーが見えるぞ! 」
『へぇ…結構大きいんですね。任務でなければ名所を見て回るんですけどねぇ。』
「そうなんだよなぁ。…落ち着いたら雪男も誘って遊びに来ようぜ!」
『お!いいですね!』

バスに乗り燐は神木さんと座り…というより私が無理やり座らせた。
彼らの反対側に私としえみが座って出発。
窓際に座るしえみは仕事をうまくやれるか心配のようで、ずっと緊張している。

『仕事内容は軽度の魔障者に薬草茶を給仕するのと点滴の交換が主になるそうですよ。』
「それなら私にもできそう。…あ。でもドジふんじゃったりしたら…」
「しないように努力しなさいよ。今からそんな調子じゃやっていけないわよ。」
「う、うん。…そうだよね。…私、頑張るよ!」

小さくガッツポーズをしやる気が出てきたようで緊張も少しは和らいだようだ。
私は神木さんに親指を立てて『ナイス!』と伝えると…親指を折られそうになった。

そして、あっという間に逗留先である【虎屋旅館】に到着した。
先輩方から降りて行き私達は一番最後に降りる。
静かに中へと入る先輩方を案内する旅館の皆さんだったが、ある人物がいることに気づき騒がしくなった。

「坊!」
「坊や!!」
「よう戻らはりましたなぁ!」
「お帰りなさいませ!!」

皆が笑顔で呼んだのは勝呂君だ。
三輪君や志摩君も歓迎されている。
何気に勝呂君を見るとバツの悪そうな顔をしていた。

「やー、こらめでたいわ!女将さん!女将さん呼んで来て!」
「やめぇ!!里帰りやないで!たまたま候補生の勤めで……「女将さん!」…聞け!!コラ!」
「竜士!!」

彼の名を呼びながら息を切らし現れたのは髪を結った和風美人の女将さんだ。
彼女は心配顔から一気に鬼の形相へと変わっていく。

「…アンタ………とうとう頭染めよったな!!将来ニワトリにでもなりたいんかい!」
『「!」』

勝呂君の前まで来た彼女は怒鳴るように叱り始める。
それに対して必死に言い返す息子。
彼らの事情を知らない私達は呆然と立ち尽くしている。

「アンタ二度とこの旅館の敷居またがん覚悟で勉強しに行ったんやなかったんか!?ええ!?」
「…せっ、せやし偶然候補生の手伝いで借り出されたゆうてるやろ。大体鶏て何や!!これは気合いや気合い!!」
「何が気合いや。私が何の為に男前に産んでやったと思てんの!許さへんで!」

その後、三輪君と志摩君が挨拶をする事で女将さんの笑顔が戻り、私達の事にも気づいてもらえた。

「始めまして。竜士の母です。いつもウチの息子(ボン)がお世話んなってます。」
燐「母!?…え?…この人 勝呂の母ちゃん?美人だ!!」
志「あー、ここ坊のご実家なんや。」

女将さんの話によると寺の方は立ちゆかなくなり彼女が実家の旅館を継ぎ働いているそうだ。
観光収入や檀家さんが少ない寺は副業をするのが殆どらしい。
話が終わると神木さんは笑いを抑えボソッと…

「坊坊って呼ばれてるから何かと思えば、本当に旅館のボンボン…そのままかよ。」プスッ
『お坊っちゃんの坊だったんですね。顔に似合わず…』
「聞こえとるぞお前ら!」

その後、京都三人組は女将さんと身内の人に挨拶をしに行き、私達は当初の予定通り仕事を始める。
しかし、燐と私は他の事をするように言われた。
ちなみにピカはしえみのお手伝いに、クロは燐の頭の上にいる。

「他の事って例えば何するんですか?」
「うーーん…そうね……え?何だろ…何か拾っといて。」
「…何を拾うんすか?」
「…ゴミとか?」

問題を起こさないように大人しくしていて欲しいようだ。
おそらく私は見張りの役割なのだろう。
とはいえ、ここまで来て何もしないわけにはいかないので裏方の仕事をする事にした。


『では、私達は裏にあるゴミ等の処理をしてきます。この様子だとかなりの量がありそうですし…』
「あ!それそれ。大変だろうけどよろしくね。」
「『はい。』」

近くにいた出張所の人に案内してもらいゴミを一時的に置かれている場所へとやって来た。
大量のゴミ袋にダンボールの山、分別できていない物もあり まとめるのに苦労したが力自慢の二人でやる事で早くに終わる。

「ふぅ。やっと終わったな。」
『以外と早くに終わりましたね。……後は何をしましょうか。』
「そこの君達…」
『「!」』

声のする方を振り向くと一人の坊さんが手招きをしていた。
暇をしているなら手伝って欲しいと言われ私達は喜んでついて行く。
すると外の水道から水を流し桶の中で冷やしているスイカがあった。

「うひょぉー!スイカだ!!うまそぉ!」
『しかも凄く大きいですよ!』
「お見舞いや!切ってみんなに出してやってくれるか?切ってくれたら君らも食べてええから。」
「切る切る!切りますよ!」ゲッヘッヘッ
『では、1玉ずつ切りましょうか。』

スイカを持ち上げると燐が坊さんの酒の匂いに気づいたようだ。
クロもクンクンと匂いを嗅いでいる。

「なまぐさ坊主だな。ウチの親父みてーだよ。」
「ハハハ!…君、面白い子やなあ。」
(……親父…ですか。雪の前でもそう呼べば良いのに…)

二人で切り分けていると制服から塾の学生だと気づいた彼は私達の名を聞いてきた。
私も燐も気にすることなく答える。

『私は水野ソラです。』
「俺は奥村 燐。」
「!…そうか!君が…」
『!』

この時の私はサタンの息子の存在が明らかになっている為、坊さんも燐の名を聞き反応したのかと思ったが…後に別の理由だった事が分かる。

「?…つーかおっさんこそ誰だよ。」
「おっ。私か…私は勝呂竜士の親父や。」
『なんと!?』
「…えっまじで!?」
「ガハハ!まじでや〜似てるやろ?」
「そーか?勝呂の方がかっけぇ。」
『体格は父親似。顔は母親似ですね。』
「……そーか。」

期待していた答えではなかったようだ。
あからさまに残念がる勝呂父はすぐに明るく笑い息子とも仲良くしてくれているか聞き、燐はケンカ中と話した。

「…色々あってギクシャクしてんだ。」
「君もか!実は私も今、竜士とケンカ中なんや!」
「あー…おっさんもかー……ソラは?」
『…微妙ですね。普通に挨拶も話もしてくれますが…それは彼の優しさであって、大事な事を黙っていた私を前みたいに友人としては思えないでしょうね。』
「なら、俺はもっと駄目だな。」

二人して落ち込んでいると勝呂父は自分が1番駄目だと笑っている。
私達を気遣ってなのかは分からないが、彼の雰囲気は獅郎さんに似ている所がある気がした。

「アイツ小難しいよな。」
「グハハ!せやな。」
『…でも、優しい人です。』
「…そうだな。だから俺 仲直りしたい。」
「……せやなぁ。」

その時の勝呂父は優しく微笑み返事を返していた。
でも、どこか寂しげで彼も本当は仲直りをしたいのかもしれない。
私は先に切り終わり縁側に勝呂父と座り庭を眺めている。
燐は追加のお皿を取りに行っておりいない。
セミの鳴き声と風鈴の音が良い感じに鳴り響き、目を閉じ耳を澄ましていると勝呂父が私の名を呼んだ。

『何ですか?勝呂君のお父さん…』
「達磨でええよ。……実はな、数日前から祓魔師を中心に話題になっとる話があるんや。」
『…………。』
「サタンの炎を浴びながら生き延びた子供がおるゆうてな……白髪の女の子らしいから…君の事やないか?」

ゆっくりと目を開けて顔を隣に向けると真面目な顔をした達磨さんが目に映る。

『そうですよ。』
「ほうか。…やはり君が……なら、その傷は青い炎によるものやな。」
『大丈夫ですよ。殆ど治りかけてますから…』
「……怖くはないんか?」
『!』

炎を浴びて生きている理由を聞かれるのかと思っていたが違った。
不安げな表情で聞かれた質問で真っ先に頭に浮かんだのは獅郎さんの最後の笑顔で…次に浮かんだのは2度の転生で死に別れた大切な人達の顔だ。

『……私が1番に恐れるのは大切な人を失う事です。…その次に怖いのは……その人達より先に早々と死ぬこと…』
「……!」
「おーい!持ってきたぞ!」

達磨さんが何か言おうとしていたが廊下の先から燐が笑顔で登場し、話は最後まで出来なかった。
一緒に皿に並べる為に立ち上がり進む私を彼は黙って見送り、それ以降は何も言わず時は過ぎる。











「おし!!…なぁ おっさん、このスイカ自分で持ってったら…あれ!?」
『ん?』

燐の声に反応して振り向くと壁をよじ登り去ろうとしている達磨さんの姿が…
意外と身軽だなと思いながら見送っていると、彼は去る前に振り返り笑顔で私達に声をかける。

「二人とも会えてよかったわ!またお喋りしよな。」
「えぇ?ちょっ…待てよ!おいっ!」
『…何か事情があるんでしょう。これは私達で配りますか。』
「……ああ。そうだな。」

その後、二人で軽度の患者を中心にスイカを配って行った。
起き上がれない人には食べやすく切り直し担当の方に頼み部屋を移動。
途中でしえみや神木さん・ピカが薬草畑にいるのを発見し、1つずつ手渡すと二人と一匹で仲良く座り食べている。

「…あんた達は食べないの?」
『最後に中級祓魔師の方々や勝呂君達にも配りたいので…』
「あいつら何処にいるか知んない?」
「…そこの部屋よ。」
「今は…行かないほうがいいと思うよ。」
『「………。」』

神木さんの指し示した部屋からは人々の悲鳴や怒鳴り声が響いていた。
私も燐も関わりたくなくて無視していたが残念…。
【円】を使うと勝呂君達も向かっているようなので二人して脚を進めて行く。
聞こえる怒鳴り声は男女によるもののようだ。

「…なあ、京都ってもっとこう…風流な感じじゃねーの?」
『祓魔師の集まりだからじゃないですか?…きっと一般の方々は物腰柔らか、おしとやかな和風美人の多い街のはずです。』
「どんなイメージだよ…」









〜続く〜



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