12…びっくりパートナー!!&杜山家

続いての授業は【魔法円・印章術】で担当の【ネイガウス先生】が巨大コンパスを器用に使いこなし、床に細かな魔法円を描いた。

「図を踏むな。魔法円が破綻すると効果は無効になる。そして召喚には己の血と適切な呼び掛けが必要だ」

説明し終えた先生は右手の包帯を緩め呼び掛けと共に魔法円に垂らす。
包帯は既に赤く染まっており、手の傷はとても痛々しかった。

「テュポエウスとエキドナの息子よ。求めに応じ、出でよ」

唱え終わると魔法円の中心から異臭を放ちながらゾンビのような悪魔が現れた。
勝呂君の発言によると【屍番犬(ナベリウス)】と言う悪魔らしい。

「悪魔を召喚し使い魔にする事ができる人間は非常に少ない。悪魔を飼い慣らす強靭な精神力もそうだが天性の才能が不可欠だからだ」

先生は私達にその才能があるかテストをするために小さい紙に魔法円の略図を施し皆に配った。
この紙に自分の血を垂らして【思いつく言葉】を唱えるよう言えばいいらしい。
生徒の中で真っ先に唱えたのは神木さんだ。

「稲荷神に恐み恐み白す。為す所の願いとして成就せずということなし!!」

迷うこと無く唱えた神木さんが召喚したのは二匹の白狐だ。
これには先生も驚いていた。

「白狐を二体も……見事だ神木出雲」

皆の視線を受ける彼女は胸を張り嬉しそうだ。
その二匹の狐に抱きつきモフモフしたい衝動を抑えていた私にしえみが興奮ぎみに話しかけてきた。

「す、凄いよね!同じ女の子なのに二体も召喚してるよ!」
『ええ。しかもモフモフの狐ですよ……モフモフしたい!』
「モフモフ!?」

他のメンバーは反応が無く後は私としえみだけになのだが……何も思いつかない。
隣に立つしえみは恥ずかしいのか遠慮がちに呼び掛けた。

「おいでいおで〜…なんちゃって……」

本人は冗談のつもりだったのだろうが魔法円からは小さなぬいぐるみのような悪魔が現れる。
二人目の成功者に場は盛り上がっていく。

「それは【緑男(グリーンマン)】の幼生だな。素晴らしいぞ。杜山しえみ」
『凄いですねしえみ。こちらも可愛らしくてモフモフしてますね』
「ソラちゃんそればっかりだね……えへへ」

嬉しそうに召還した子に名を与え話しかけているしえみを見ていると私もパートナーを召還したくなった。
しかし、これといった言葉が浮かばない私はあろうことか前々世で流行っていたゲームのキャラクターを思い出したのだ。

(……パートナーかぁ。どうせならあの子がいいですねぇ……はは。無理かな)

結局何も思いつかなかった私はそのキャラクターの名を呟いた。

『…【ピカチュウ】…なんて………アレ?』

名を呼んだら魔法円からは煙が上がり黄色いモフモフボディが現れた。
長い耳にギザギザの尻尾、短い手足に愛くるしい目と赤い丸ほっぺ……知らない人はいないだろう。
あの人気ゲームの【ピカチュウ】だ。
生で見るピカチュウの可愛らしさは画面越しとは比べ物にならない位で……周りを気にせずに叫び抱きつきたくなった。
燐達にはただ立っているように見えているだろうが私は必死に堪えているのだ!

「うおお!なんだコイツ!?」
「わあ!カワイイ!ソラちゃんも召喚できて良かったね!」

燐としえみが興味津々にピカチュウを見ていると先生が近くにやって来た。

「……こんな悪魔は見たことがない」

眉間にシワを寄せピカチュウを観察している先生の一言に皆が驚いていた。
当の本人は見られ続けるのが嫌らしく、私の後ろに隠れ先生をジト目で見ている。

「……ふむ。一応報告はした方が良いな。水野ソラよくやった。何かあれば必ず報告するように」
『はい』

先生が離れるとピカチュウは私の胸に飛び込み抱きついてきた。
落ちないように抱き抱えた私の顔を見上げ嬉しそうに鳴くのは……やはり、あのピカチュウだ!

「ピカ!ピカチュウ!……チャ〜♪」

最後は胸に顔を擦り寄せ幸せそうに鳴いていて、あまりの可愛さに私と生徒達はハートを射ぬかれダウン寸前。
本来ならば悪魔としてゲームのキャラクターが出てきたことに疑問を持たねばならないのだが……今の私にはどうでもよくなっていた。

(神よ!ありがとうございます!)

授業が終わるまでの間、ピカチュウは一度も私から離れずその可愛さで私の心を癒してくれた。
授業が終わり教室に戻ったら勝呂君達がピカチュウを見に集まってきて賑やかになる。

「かわええなぁ。触っても大丈夫ですかね?」
『ピカ。良いですか?』
「ピッカ!」

ピカチュウからOKがでたら三輪君は嬉しそうに抱っこをし話しかけている。
動物好きのようだ。
眺めていると燐としえみが同じ質問をした。

「【ピカ】ってコイツの名前か?」
「鳴き方からとったの?」
『はい。ピカチュウは長いので略してみました』

単純だなと燐に言われたが気にしない。
……というか、彼には言われたくない。
気がついたら三輪君の次に志摩君や勝呂君もピカと仲良くしていた。
人懐っこい子で良かったと安心したが、少し気になることが……

(……初対面の筈なのに何であんなに私のことを好いてくれるのでしょうか?)

思い出すのは私に抱きつき離れようとしないピカで、何度も私の顔を見上げては目を輝かしていた。

(言葉が分かれば良かったのですが……)

考え事をしているとしえみがソワソワしながらこちらを見ていた。
気づいて横を見ると頬を赤らめたしえみの顔が目に入る。

「あ、あのね。荷物を取りに帰るんだけど……ソラちゃんも来てくれる?」
『大丈夫ですよ。そんなに大荷物なんですか?』
「そうじゃなくて……その、お母さんに会って欲しいんだ。ソラちゃんの話をしたらお母さんが会いたいって言ってたから……」

しえみは顔を赤らめ遠慮がちに言っていたが問題など一切ないので素早く親指を立て返事を返した。
むしろ私の方からお願いしたい。

『もちろん行きます!是非ともお母様と燐と雪が絶賛する庭を拝見させてください!』
「ほんと!?良かったぁ」
「……いや、何でお母様なんだよ?」

喜んでいるしえみの代わりに燐がツッコミをしてくれたので缶コーヒーをあげたら不思議そうに受け取ってくれた。
暫くしてみんなは家路につき、私としえみは鍵を使い杜山家へ向かう。
ドアの先には長い橋のような通路があり杜山家は一番奥に建っていた。

『おお!高いですねぇ……眺めも最高じゃないですか!』
「そうなの!夕日とかも綺麗に見えるんだよ!」

寮からは離れているようだが私には問題がない距離なので遊びに来れると言ったら冗談だと思われた。
まあ、無理もない。

「だってここは罠とかあるし通路とか迷路みたいな造りになってるから鍵がないと大変なんだよ?」
『ご安心ください。建物の上や壁を渡ればすぐですよ』
「そっか!それなら……ええっ!?」

驚くしえみだが前に私が建物の上を渡り降りてきたのを思いだし納得してくれた様子。
そしてちょうど杜山家に到着し庭からお邪魔することになった。
店の方へは祓魔師しか入れないらしい。

「ソラちゃん!こっちだよ!」

早く見て欲しいらしく私の手を引っ張るしえみ。
そして、同じく早く噂の庭を見たい私とピカはワクワクしながら走り進む。

「……どうぞ!私とお祖母ちゃんの自慢の庭だよ!」

両腕を大きく広げ笑顔で紹介してくれた庭は良く手入れがされており、何より多種多様な植物が花が綺麗に咲いていた。
まるで絵本に出てきそうな所で私もピカも目を輝かせ庭を見てまわる。

「チャ〜!…ピッ!ピカッ!」
『おお!綺麗ですねぇ!……あ!ピカ、こっちも凄いですよ!』
「ふふふ。そこはお祖母ちゃんのお気に入りだったんだ」

燐達からしえみの家族や悪魔による事件などは聞いていたので、しえみのこの庭に対する想いを多少は分かっている。
だからこそ、この庭が余計に輝いて見えるのかもしれない。
庭が騒がしい事に気づいた店主でしえみのお母さんが様子を見にきていたので頭を下げたら相手も会釈をした。

「お母さん!?いつからいたの?居たなら声をかけてくれたら良いのに」
「ふふふ。お前が友達とはしゃいでるのを少しでも見ていたくてね」

しえみと同じく着物姿でポッチャリ系のお母さんは髪色や顔立ちがよく似ていて、しえみはお母さん似だと思った。
私は頭を下げ挨拶をする。

『初めまして。私はしえみさんと同じ塾生で友人の水野ソラといいます。遅くに騒がしくしてしまい申し訳ありません』
「構わないよ……貴女の事は毎日しえみから聞いてるから一目で誰か分かったよ。雪みたいに綺麗な髪色でつよ「わぁっ!?お母さん余計なことは言わなくていいから!」……おやおや」

恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にし母親に抗議するしえみ。
私はしえみが私の髪を【雪みたいに綺麗な髪色】と思っていてくれたことが嬉しくて母親に口止めをしている彼女の頭を撫で礼を言った。

私個人は気に入っているが前世も今世も世間では良く思われなかったのだ。
……特に前世は酷い扱いで嫌な思いを何度もしている。

そんな私の髪色を太陽のような温かい笑顔と共に褒めてくれたのが親友のウインリィだった。
そして、彼女もまた……【雪みたい】だと褒めてくれており、余計に嬉しくて仕方がない。

『ありがとうございます。昔からこの髪はいいように思われていなかったので、そんな風に思ってくれた事とても嬉しいです』
「そ、そんな大袈裟だよ」

その後、しえみは荷物を取りに自分の部屋に行き私とピカとおばさんだけとなった。
娘の後ろ姿を見つめながらおばさんは想いを口にしていく。

「……あの子が友達とはしゃいでるのを初めて見たよ。ましてや同い年の女の子となんて……死んだ母さんが生きてたら泣いて喜んでるだろうね」
『……彼女は人見知りで未だに話すとき遠慮がちですが、少しずつ変わってきてます。なにより最初に話しかけてくれたのはしえみなんですよ』
「そうなのかい?」

せっかくなので、しえみが戻るまでの間に私達の出会いや塾での様子などを話すことにした。
彼女の頑張りを聞いているときのおばさんは優しい母親の顔をしていて、しえみは愛されているのだと分かる。

「遅くなってごめんね」
『大丈夫ですよ。しえみの成長っぷりをネタにおばさんと楽しく話していましたから』
「ええっ!?な、何を言ったの!?」
『HAHAHAHA!』

笑ってごまかす私と余計なことを言ってないか焦る娘をおばさんは笑いながら見ていた。












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