10…二人の野望と青いオーラ

本日の実技は【リーパー】と呼ばれる巨大な蛙から逃げ、悪魔の動きに慣れる訓練。
もちろん安全の為にリーパーは鎖付きの首輪で繋がっている。

「うおォおおおお!!」
「ぬウぐ!おおおお!!!」

叫びながら走っているのは燐と勝呂君である。
先程の喧嘩の事もあり負けじと全力で走っている……口を動かしながら。

「おせーおせー。キヒヒ!アタマばっか良くても実戦じゃ役に立たねーんだよ!」
「くっ!」

安全な場所で見学している他の塾生からは呆れられたり感心されたりと様々だ。
しえみと一緒に見学中の私は別の事が気になった。

『キヒヒって笑う人初めてですよ』
「……気にするのそこなんだ」

そんなことを言っていると勝呂君の反撃が……

「実戦やったら勝ったもん勝ちやあああ!!!」
「でぇー!」

勝呂君の見事な飛び蹴りが燐の背中に直撃し倒れた。
しかし、止まった二人をリーパーが見逃すことはなく襲いかかっていく。
それを先生がレバーを引き、リーパーの鎖を引っ張った事で難を逃れ、もちろん注意を受ける二人。

「コラァーーッ!何やってんだキミタチはァ!!死ぬ気かネ!この訓練は徒競走じゃない!悪魔の動きに体を慣らす訓練だと言ったでショウ!」

しかし、再び喧嘩を始めた二人には聞こえておらず燐を先生が、勝呂君を三輪君と志摩君が引きずり離した。
その後、何故か勝呂君のみ呼ばれ先生と話をしている。

「なんで勝呂君だけ呼ばれたのかな?」
『……個別に指導するタイプとか?』

しかし、戻ってきても燐には何もなく何を言われたのか分からないが勝呂君の眉間のシワは更に寄っていた。
先生は携帯が鳴ったようで出ると休憩にすると言いだす。

「いいかネ!基本的にリーパーは大人しい悪魔だが人の心を読んで襲いかかる面倒な悪魔ナノダ!」

先生はリーパーの鎖の届く範囲には決して入らないようにと伝えて何処かへと行ってしまった。
これには生徒全員が驚き不満を抱いている。
……子猫ちゃんと聞こえたが深くは考えないことにしよう。

「なんやあれ!あれでも教師か!!正十字学園てもっと意識高い人らが集まる神聖な学舎や思とったのに!……生徒も生徒やしなあ!」

怒りと不満が収まらない勝呂君は又しても燐にあたり、言い合いになった。
見かねた三輪君と志摩君が間にはいるも意味がなく勝呂君は燐と勝負することを望んだ。

ルールは簡単……リーパーに襲われず触って帰ってきたら勝ち。
相手の目を見て感情を読み取る悪魔だから、平常心でいられれば問題はないと勝呂君は言うが燐の返事は意外なものだった。

「……へっ面白ェーじゃねーか!……まぁ、やんねーけど」
「なん!?」

鼻を小指でほじりながらの返事はNOで、燐には勝呂君と同じ野望がある為くだらない事で死ねないそうだ。
しかし、勝呂君は納得しない。

「何が野望や……お前のはビビっただけやろうが!!……何で戦わん…悔しくないんか!!!」

皆が心配するなか下に降りていった勝呂君はリーパーの前に立ち、自分の野望を大きな声で言葉にした。

「……俺は…俺は!サタンを倒す!!」

その想いが本物だと分かるほどに彼は声量を上げハッキリと口にした。
それを聞いた同じ塾生の【神木さん】が盛大に笑いだし状況は一変する。

「プッ!プハハハハハ!ちょ…サタン倒すとか!」

このままでは危険なのですぐに神木さんの口を手で押さえ注意した。

『止めなさい!彼を殺す気ですか!』
「!?」

驚く神木さんと他の塾生を無視し、下に急いで降りた私の横には燐もいた。


「ソラ急ぐぞ!」
『勿論です!』

心に隙を作ってしまった勝呂君をリーパーは大きく口を明け食べようとしたが、リーパーの口に挟まれたのは燐だ。


「おい!!」
「きゃああ!!」

勝呂君や他の塾生達の悲鳴が上がった瞬間、私はリーパーの横っ腹に蹴りを入れ遠くへ飛ばした。
飛ばされる前に口が開いたので燐は無事だ。
静まり返る空間に私と燐の声だけが響く。

『……ふぅ。大丈夫ですか二人とも』
「おう!サンキューな!」

笑顔で礼を言う燐に対し勝呂君は驚き固まっているので燐が真剣な表情で思っていることを口にし始める。

「…なにやってんだ…バカかてめーは!!いいか?よく聞け!サタンを倒すのはこの俺だ!!てめーはすっこんでろ!」
『「!?」』

まさかのサタン倒す宣言に私も他の塾生達も驚きを隠せない。
この時に私が思い出したのは……燐になぜ祓魔師になるのか聞いた時の事だ。


゛強くなりたいんだ……俺は… ゛


そのあとの言葉は口にしなかったが、その表情から強い想いがあるのは分かった。
サタンを倒す事とも関係しているのだろうが……教えて貰えるだろうか。

(……燐も雪も何かを隠しているのは気づいていますが……彼らが話してくれるのを待つべきか悩みますね)

考え事をしていると降りてきたしえみが声をかけてきた。
何故か目がキラキラと輝いている。

「ソラちゃん!大きな蛙を蹴り飛ばすなんて女の子なのに凄いね!私ビックリしちゃった」
『!……あ、ありがとうございます』

考え事をしていたので反応が遅れたがしえみは興奮していて気にしていないようだ。
勝呂君も復活しこちらに来て礼を言ってくれた。

「水野もありがとーな。おかげで助かったわ……迷惑かけてすまん!」

頭を下げる勝呂君は本当に現代っ子とは思えないほどにしっかりとした人だなと思った。
……すぐに怒るのが無ければなぁと思い、苦笑しながら私も勝呂君に伝える。

『そこまで気にしなくて良いですよ……でも、それだけの野望があるのなら自分の命を大事にしないと生き残り、叶えることなど出来ません。気を付けてください』

大きなお世話かもしれないが、友として夢を叶えて貰いたいし、生きていても欲しいので伝えた。
勝呂君は不思議そうに返事を返している。

「…お、おう……気ぃつけるわ……お前も笑わへんのやな」
『笑いどころなんてありましたか?』
「………すまん。何でもない」

彼の反応からして答えを間違えたかもしれない。
上に戻ると神木さんがこちらを見ていたが、私と目があった瞬間そらされた。
……嫌われたのかもしれない。
急ぎとはいえ言い方が悪く傷付けてしまったかもしれない。
私は神木さんの所に向かい謝ることにし、側に行ったら特徴的なマロ眉が中央に集まりだした。

「な、何よ。まだなんか言いたいわけ?」
『はい。先程は急ぎとはいえキツく言ってしまい、すみませんでした』
「……は?」

頭を下げる私に神木さんは訳が分からないといった感じで見ている。
そして、先生が戻り集合をかけたのでその場を後にした。

「………意味わかんない」

先程の自分の失言を注意されると思っていた彼女は、まさか謝罪されるとは思わず少々混乱していた。
そんな彼女に親友の【朴】は笑顔で声をかける。

「何言ってるの?キツい言い方だったって謝ってたじゃない。水野さん、出雲ちゃんが傷ついてるかも知れないって思ったんだよ。きっと」
「き、傷ついてなんかないわよ!……余計なお世話よ」

そっぽを向く親友を苦笑しながら腕を引っ張り集合場所に連れていく朴。



(にしても……先生はなんの為に居なくなったんでしょうか)

ちなみにリーパーには強く蹴りすぎた事もあり後日、見舞いの品と一緒に謝罪した。


その日の夜、私は部屋で念の修行をしながら過ごしていた。
応用もスムーズに出来るようになり、後は極めるだけなのだが気になることが一つ。

(…………何故…燐のオーラはあんなに青いのでしょうか?)

それは晩御飯の片付けをしているときに気付いたことだ。
片付けをしながら【凝】の練習をしていたら燐が手伝いに来てくれたのだが……彼のオーラは通常のとは違うオーラの色をしており力強かった。

(………綺麗な青色でしたねぇ)

思い出しているとドアをノックする音がした。【円】をし燐だと分かり、ドアを開けると困ったような顔をした燐が立っている。

『どうしました?……便秘ですか?』
「なんでだよ!?便秘でお前んとこに来たりしねーよ!」

ツッコミは健在のようで安心した私は部屋に招き入れようとしたが、大した事ではないからと断られた。

「………その、さっきお前…俺を見て驚いてたから何でかなと思ってさ」

遠慮がちに聞いてきたのは台所での事だった。
心配させるほどの反応を私はしていたのかと心のなかで反省をする。

『燐、ごめんなさい。大した事ではなくて………ただ燐のオーラは綺麗だなと…』
「オーラ?何だそれ?」

今後も共に戦うのであれば分かることなのと、彼らに隠す気はもう無いので簡単に説明をした。

『生命エネルギーの事ですよ。【気】とも言われてる。私はそれを操る事ができて、技の一つに相手のオーラを視認する事ができるのがあるんです』
「マジで!?そんなこと出来んの!?」
『通常のオーラは湯気のような蒸気のような感じなのですが、燐のオーラは綺麗な青色だったんですよ。それで驚いて………どうしました?』

燐のオーラを説明したら汗を一滴流し固まってしまった燐。
青色だと話した時など顔が強張っていたので気になる。
この様子からして隠している事と関係があるのかもしれないと勘が働いたので聞いてみた。

『…もしかして隠している事と関係があるのですか?』
「は!?……え?いや、隠し事なんてねーよ!気のせいじゃないか?ほらあれだ!お前がそんな技が使えるなんて知らなかったからビックリしたんだよ!」
(………なんて分かりやすい)

用事は済んだから戻ると言って歩き出した燐に私はあと1つだけ伝えたかった事を言うために呼び止めた。
私は何も知らない……頼りない幼馴染みにはなりたくない。

『燐!私は獅朗さんとの約束を守るために強くなります……燐や雪が何を悩み隠しているのかは分かりません。いつか二人が話してくれるのを待っています。それまでに役に立てるよう強くなりますから!』

燐が何かを言う前に私は『おやすみなさい!』と言ってドアを閉めた。
……つまり言い逃げである。
言いたいことを言った私は満足してベッドに倒れたがすぐにあることに気付いた。

『……明日の朝…どうしましょうか』

そう。私は毎朝毎晩、燐と一緒に食事の準備をしている。
気まずい空気が流れる可能性があるのだが、考えた末に私は……

(……開き直ればOK!)

現実逃避に近い方法をとることにし、そのまま眠りについた。




その日の夜、私は前世で共に戦い旅をした三人の友人(幼馴染み)の夢をみた。
並んで歩く私達……燐や雪ともいつかは共に支えあい歩いて行きたいものだ。




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