9…正論の勝呂君vs健気な抵抗の燐

現在、【グリモア学】の授業中なのだが左斜め前に座っている燐は上下に頭を降り始めている。

(なんとかして燐のやる気スイッチを押せないものか……)

昔から勉強は苦手の燐だが興味を持ったり、目標がしっかりとしていると別人のように取り組むのだ。
そのきっかけが何か無いかと考えている。

「それでは本日の授業はこれまで。しっかりと復習をしておくように!」

授業は終わり休憩時間となった瞬間、燐は腕を枕に眠りだした。
その様子に私やしえみは苦笑しながら見ている。

「燐、寝ちゃったね」
『ですね……しえみ、ちょっと出掛けてきますね。すぐに戻りますから』
「うん。気を付けてね!」

部屋を出た私は走り自販機に飲み物を買いに向かった。
教室に戻ると燐はまだ寝ており、授業まであと五分あるが体を揺さぶり起こす。

「……ん〜?もう朝か?」
『寝ぼけている場合ではありませんよ。次は奥村先生の授業ですから』

そう告げると燐はすぐさま体を起こした。
その行動に苦笑しながら燐に缶コーヒーを渡すと喜んでいる。

『ほら。これでも飲んで目を冷ましてください。しえみはこれ』
「え?あ、ありがとうソラちゃん!」
「サンキューな!」

しえみは基本、お茶を飲むらしいので新作のお茶にし私は燐と同じくコーヒーだ。
お茶を飲んで、しえみは次の授業が楽しみだと話してくれた。

「なんでだよ?なんかあったっけ?」
『小テストが返される日ですよ。しえみの得意分野ですよね?』
「うん!自信あるから楽しみなんだ」

コーヒーを飲み終えた後に授業が始まりテストが返され、三人の中では私が最初に呼ばれた。

「この短期間でよく遅れを取り戻しましたね。この調子で頑張ってください」
『ありがとうございます。先生の教え方が良いからですよ』

私達の話で気になったのか、燐が何点か聞いてきたので答えようとしたら先に雪が笑顔で答えた。
……なんで?

「90点ですよ。奥村君は是非とも見習って欲しいですね」

点数を聞いた他の塾生達はこの短期間で?……と、少しざわついていた。
そして、発言の内容からして燐の点数は酷いようだ。
……また雪の胃が痛むかもしれない。

次に呼ばれたのはしえみで元気に返事をしたが、まさかの41点。
植物にオリジナルの名前をつけているしえみは回答用紙にもその名を書いていたんだとか。

『でも正式な名で回答していたら満点だったんでしょう?凄いじゃないですか!』
「!……そうだね。次はちゃんと回答してもっと良い点を取るよ!」

そして次に呼ばれたのは燐だ。
他の生徒とは違い雪は眉間にシワを寄せ一言。

「胃が痛いよ……」
「……スンマセン」
(既に雪の胃は痛んでいましたか)

いったい何点だったのか気になる。
落ち込みながら戻ってきた燐の次に呼ばれた勝呂君は通りすがりに……

「2点とか狙ってもようとれんわ。女とチャラチャラしとるからや。ムナクソ悪い……!」
「は!?」

そう告げると答案を取りに向かった勝呂君。
何故かは分からないが彼は燐に対して快く思っていないようで、今日も後ろから彼の視線や挑発的な発言が聞こえていた。
個人的には仲良くなって欲しいのでどうしたものかと考えていたら、その真逆の出来事が起きてしまう。

「なんやと!?おれはな祓魔師の資格得る為に本気で塾に勉強しに来たんや!!」

勝呂君が98点をとったことに燐が見た目てきにあり得ないと言ったのをきっかけに彼の不満が溢れた。
……それでは【正論の勝呂君vs健気な抵抗の燐】の口喧嘩をお楽しみください。

「塾におんのはみんな真面目に祓魔師目指してはる人だけや!お前みたいな意識の低い奴、目障りやから早よ出ていけ!!」
「な…何の権限でいってんだ、このトサカ!俺だってこれでも一応目指してんだよ!」
「お前が授業をまともに受けとるとこ見たことないし!いっっつも寝とるやんか!!」

ここで三輪くん、志摩君が勝呂君を押さえに参上し燐の所には雪が参上した。

「お、俺は実戦派なんだ!体動かさないで覚えんの苦手なんだよ!」
「うんうん。正論だ……どんどん言ってやって下さいね」

燐にとってはまさかの雪の裏切りに涙目で怒った丁度その時に授業終了のチャイムが鳴り響く。
雪とまだ言い合っている燐をしえみは心配そうに見ていたので声をかけた。

『大丈夫ですよ。男の子達はすぐに喧嘩をしますが仲直りも早かったりしなかったりですから』
「そ、そっか。良かっ……あれ?」

頭にクエスチョンマークが浮かんでいるしえみが可愛くて頭を撫でたら更にクエスチョンが増えていた。
その後、雪の提案で外で頭を冷やすことになり燐・雪・しえみの三人は外へと向かい、私は用事があるので後から向かう。

(……うむ。メフィさんに頼んで正解でしたね)

私はメフィさんからの可愛らしい便箋を手に理事長室に走って向かっている。
制服の時と同じく頼んでいたものがその日の内に用意して貰えるのはありがたい。
お礼にメフィさんからのリクエストでもある桜餅を作ってきたのだ。

立派な扉をノックし入ると理事長が目の前にいた。いきなり理事長の顔が目の前にあるのだから勿論のこと私はフリーズ。
そんな私の反応が面白くなかったようで理事長は面白くなさそうに離れていく。

「全く何ですかそのリアクションは!せっかくスタンバっていたのに……貴女はもう少し芸人としての基礎を学ぶ必要がありますね」
『拒否します』

明らかにボケをかましているメフィさんに対し私は真顔で言い返す。
しかし、そのせいでメフィさんのボケとツッコミのなんたるかを聞かされるはめになってしまった。
……会議に出席するようにと呼ばれなければ延々と続いていただろう。

(……近道しますか)

時間がないので建物の上を走り飛び燐達が居るであろう噴水の所へと向かった。
上空から下を見て、そこにいたのは燐としえみ……あと勝呂君達もいる。
そのまましえみの少し離れた場所に着地すると彼女は目を見開き驚いていた。

「!?……え?ソラちゃん!!な、何で空から!?」

突然、上から人がやって来たのでしえみだけではなく塾生は皆驚いている。
私はしえみに説明しながら例のものを渡した。

『いや〜時間が迫っていたので建物の上を走り飛んで来たんです。近道になりますし……それよりもはい。理事長がすぐに用意してくれましたよ』
「え?……あ!これって運動するときに皆が着てる…」
『はい。体操着ですよ』

しえみは着物しか持っておらず、実技の際も着物で参加していた。
生徒でもないしえみだが理事長にお願いしたらすぐに用意してくれたのだ。
メフィさんにはお世話になってばかりだな。

「わあ!ありがとうソラちゃん!理事長さんにもお礼を言わなきゃ!」

服を抱き抱えながら嬉しそうに礼を言うしえみは……やはり可愛いい!
着替えるために私としえみは更衣室に向かうことになったが燐はまだ動こうとしない。

「燐は着替えに行かないのですか?」

いまだに固まりこちらを見ている燐に声をかけるとようやく復活した。
小走りでやって来た彼も含めて三人で着替えに向かう。

「!……お、おう……なあ、お前って本当に人間か?かなりの高さがあるぞ!?」
『燐、人間死ぬ気になれば何でも出来たり出来なかったりするんですよ』
「どっちだよ!」

離れた場所では京都組が「本当に建物の上を飛んできおった」と驚いていた。
確かに普通ではないが私は修行をして良かったと思っている。

(……この世界で生きていくにはこの力が必要不可欠ですからね)

悪魔や祓魔師について学んで分かったことがある。
【念】と【錬金術】を使っても問題ない。
珍しい貴重な術だと思って貰えたらOKだ。
何よりも使わなければ死ぬ可能性が高い……と言うわけで私はオープンに生きていく。

『……自由って素晴らしいですねぇ』
「「え?」」








〜続く〜

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