7…ファンタジーの世界へ

「ビギャーーッ!ビギャァーーッ!」

愛用の目覚ましが鳴り、目を覚ました私は支度をし台所に向かった。
朝食作りの手伝いをするためである。
途中で眠たそうに目を擦る燐に会った。

「……おはよう」
『おはようございます。今日から私もご飯作りに参加しますのでよろしく、燐』
「おう!」

この寮には私達の他には誰もいないため、全てを自分達でしなくてはならない。
燐が炊事全般を担当していると聞き、私にも手伝わせて欲しいと言ったのは昨日の晩だ。
先程までの眠気はどこへやら……テキパキと調理を始める燐の隣で私も一緒に作る。

『相変わらず料理の腕も手際の良さもプロ級ですね……参考になります』
「そ、そうか?俺はソラの料理も好きだけどな」
『いやいや、燐先生程ではありませんよ。これから助手兼生徒として宜しくお願いします!』
「おう!任せとけ!」

朝から賑やかな二人が作り終えた頃に雪が食堂に降りてきた。
雪は既に祓魔師として働き、塾の先生もしている。夜遅くまで仕事をしている雪のために燐は毎日の食事に気を遣っているようだ。
雪は賑やかな私達を見て苦笑しながら声をかけた。

「おはよう。相変わらず、二人揃うと賑やかだね」
『おはようございます。賑やかなのは良いことです』
「そうそう!」

その後、三人で朝食を済ませ寮を出た。
もちろん新しい制服(男子用)に着替えて……
私の姿を見た二人の反応はというと、雪は眼鏡の位置を直しながら……

「良く似合ってるよ……似合いすぎて怖いくらいに」

燐は表情を変えることなく……

「男子の制服が似合うってお前……もう男で良くね?」

とりあえず燐の頬を強くつまんどいた。
女子力を上げるつもりはないが男になるつもりもない。
頬を擦りながら睨む燐や悪びれる素振りのない私に雪は呆れ顔を向けている。

「て、てめー……覚えてろよ」
『嫌です』
「んだと!?」
「……二人とも遅刻するよ」

雪が私達に向ける呆れ顔は昔に比べて増えた気がする。
それと同時にため息の数も増えていると思う。

(……教室で質問攻めされる前に理由を考えとかないと)

女子から男子の制服に変わった私は案の定、クラス中から質問攻めにあった。
ちなみに理由は【理事長との勝負に負けて罰ゲームの最中】と話したのだが……それで皆納得するのだから驚きだ。
そして放課後になり雪に案内してもらい、広い廊下を歩いている。

『雪さんや私にも先程の鍵をくれないかい?プリーズ!』
「何そのしゃべり方……」

ここ正十字学園は複雑な作りになっており、敷地も広大なため祓魔師は特殊な鍵を使いドアから別の場所のドアへと移動しているそうだ。
正に【鍵つきどこでもドア】である。

「ただし鍵1つに付き一ヶ所にしか移動はできない。ソラはまだ訓練生(ペイジ)だから塾へ通じる鍵だけ支給される筈だよ」
『分かりました……まさかこの世に魔法が存在するなんて思いませんでしたから正直……学校の屋上から叫びたい気分ですよ!』
「絶対にしないでよ!?」

雪は私ならやりかねないと何度も注意してきた。
……なんでやねん。
教室の前に到着し、雪の後に続いて教室に入った。

第一印象は【汚い】。
長机が並べられた部屋は上も周りもボロくて表の学園とは正反対だ。

(………視線が……視線がめっさ飛んできますね)

入った瞬間からクラス全員の視線を浴びていた。
聞いていた通り見た目からして個性豊かなメンバーが揃っている。
鶏のような頭やピンク頭、可愛らしい坊主にマロ眉の和風美人と癒し系少女など見ていて飽きない。
ちなみに燐としえみは中央の一番前の席に仲良く座っていた。

「皆さん、こちらは新しい塾生の水野ソラさんです」
『途中からではありますが宜しくお願いします。ちなみに私は戦闘スタイルの関係で男子の制服を着用していますが女です』

やはり気になっていたようで説明したら「それでかぁ」「なるほど……」と納得してくれていた。

「では水野さん。好きな席に座ってください」
『はい』

席を何処にしようかと思った直後、燐としえみが同時に自分の隣の席を指差した。
皆の視線が二人に注がれている。

「「ここ空いてるよ!/空いてるぜ!」」

嬉しそうに二人は私を見て言ってくれた……凄く嬉しくて自然と笑みが浮かぶ。
どうせなら二人の近くが良いので燐達の1つ後ろの席……その中央に座ることにした。

『この席なら二人と一緒ですね』
「おお。確かに……」
「ソラちゃん、一緒に頑張ろうね!」
『はい!』

その後、始まった授業についていけなかった私だが貰った教材などで単語等を調べたらそれなりに理解はできた。
一般の勉学とは違う内容に私は興奮してその日の夜は一度も眠ることなく勉強をし続けてしまう。

『前世も今回も漫画の世界みたいで………こういうのはやっぱりワクワクしますね!』


私が時間に気づいたのはお気に入りの目覚ましが鳴り響いた時だった。





〜続く〜

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