月が綺麗ですね。 | ナノ

縁は異なもの味なもの




「ねーねー、ワンちゃん。お腹すかないの?」

 殺生丸の蓮子への認識は『変わった女』だった。





 ‡ 弐 ‡





 犬夜叉にやられた傷により不覚にも気を失っていた間に女は殺生丸に治療を施していたらしい。それだけでも信じがたいことだが、彼女の身の丈ほどもある大亥の死骸を獲物だと言ったり、可笑しな女だった。
 服装も、女ものの着物ではなく、袴に似た下履きに異国の服を着ていた。殺生丸の記憶の中で近いのは西にある大陸の服装に似ており、動きやすそうではあるがまったく女らしくはない。

 何より驚いたのは、人間で女の身でありながら、妖怪を返り討ちにしたことだろう。
 血の臭いに釣られてか、獣や妖怪が頻繁に襲ってきたのだが、彼女はそれを全て返り討ちにした。
 むしろ逃げる獣を「まて〜! 今夜のメシ〜!」と追いかける様はどちらが妖怪かわからなかった。

 今も、自分で仕留め、血抜きし、自分で解体した熊の肉を囓っている。残りは干し肉にするようで、薄切りにして干してある。
 因みにそれらの際の行程を彼女は殆ど『素手』で行っていた。亥の首をもぐ武将は見たことがあるが、鼻唄混じりに、女が熊の首をもいだときは我が目を疑ったものだ。

 最初に目が覚めたとき、視覚で確認する前に匂いで人間だとはわかったため思わず食らいついた殺生丸の牙を紙一重で避けるあたり、ただの女ではないとはわかっていたが、それらの動きは洗練されており、武道の心得があるのは一目瞭然だった。
 女だてらに武の嗜みがあり、本人曰く(一人言)、村への帰路の途中だったということは世捨て人でもない。見目は実力のわりに美しく、目鼻立ちも整っているのでいき遅れではない、と思う。

「ねぇ、ワンコ。少しは食べたほうが傷の治りが早くなるんじゃない?」

 女の一見、手弱女たおやめにみえる色白な顔と黒目がちな大きな瞳をまじまじと見ていると、向こうのほうからギリギリ殺生丸の牙を避けられる距離まで接近し、きょとんと見上げてくる。殺生丸は女の言い分が最もなことと、その呼び方が癪で、ツンとそっぽを向いた。

「ワンコって人間だったら絶対ツンデレ属性っぽいよね! 『氷の王子様』みたいな!」

 あと、一番可笑しいのは言動の半分くらいが、意味不明な言葉だったことだろうか。

(へんな女だ・・・)

「そういやワンコって、オス? メス?」

「・・・・・・(イラッ)」





 獣は考えることをやめた―――。











解体作業の細かいところは一応刃物を使ってます。(とってもどうでもいい補足)
(20/07/08)


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