月が綺麗ですね。 | ナノ

熱。




「お姉さん、まだ治らないのかなぁ・・・」

「阿呆っ、そんな急に治るわけあるか!」

 薬を飲んだ蓮子が寝ている牛車の回りを、りんと邪見と、なぜか薬老毒仙とがぐるぐる回りながら中の様子を気にしている。

「苦しそう・・・お水とかのまなくてもいいの?」

「うむ。薬が身体をめぐるまでは、他のものは口にしない方がいい。」

「汗は拭いてもいい?」

「いや、汗は身体を冷やす効果があるからどんどんかかせた方がいい。むしろ布をもう少しのせてもいいくらいだな。」

「え?そうなの?」

「もっといい方法もあるぞ。」

「なになに?」

(嫌な予感・・・)

 薬老毒仙の言葉に純粋なりんは目を輝かせたが、邪見は訝しげに聞く。

 己を親指でぐっと指しながら、薬老毒仙がのたまった。

「おれが肌で熱を吸う。」





 ‡ 参拾弐 ‡





 みしり。と音をたてて、薬老毒仙の頭が地面に沈む。それを踏むのは殺生丸の足だ。

(やっぱり・・・)

 邪見は予想通り過ぎて驚かなかった。

「いやでも、ほんとに効果あるんだからな。手当てっていって昔から人肌は薬になるんだぜ。」

「じゃありんがする!」

 りんがはいっ、と挙手をする。

「お主じゃ小さすぎる。おれが一番適任じゃ・・・」

 するり、と着物の合わせを寛げようとする薬老毒仙に、殺生丸の拳が降り注いだ。

 しゅうしゅう、とたんこぶの山を作って沈黙した仙人を捨て置いて、殺生丸が牛車に上がる。

「え゛。」

「ここから先、何人たりとも入るな。」

「え゛。」

 まさか、主が動くとは思わず邪見はぎょっとする。

「よかったぁ〜殺生丸さまなら安心だね、邪見さま。」

「え〜。おれがやりたかったのに〜・・・」

「・・・言っておくが、覗いたものはその両目を抉られると思え。」

「は、はいっ。」

 殺生丸に冷たい視線を浴びせられ、一番抉られる可能性が高い薬老毒仙と、ついでに邪見がぴっと背筋を伸ばした。





***





(ん?なにこれ、冷たい・・・)

 蓮子は寝ぼけながら、頬に当たるひんやりとした感触に心地よさを感じていた。

(なんかに似てる・・・冷たくて、ツルツルして硬い・・・)

 体が燃えるように熱くて苦しかったので、蓮子はそれにぎゅっと抱き付く。

(あれだ、大黒柱だ・・・)

 蓮子の家は大きな日本家屋だ。そのため大きな大黒柱があったのだが、真夏の茹だるような暑さのときに、その大黒柱に抱き付くと、表面がひんやりとしてて気持ちよかったのだ。その感覚に似ている。

「あまり、すり寄るな・・・」

 ぐりぐりと額を押し付けていると急に額を押され、首を後ろにぐきっとやられて、気持ちいいひんやりが遠ざかり蓮子は少しムッとする。

 しかし、代わりに額に当てられたひんやりとしたものに頬を撫でられて、蓮子はそれも気に入り頬擦りする。と、また逃げるようにそれが頬から額に移動する。汗で張り付いた前髪を掻き上げるように鋤かれ、額を掻き撫ぜられる。それにも気持ちよくなってしまう。

「ん・・・も、っと・・・きもち、い・・・」

「うるさい。」

 なんかひどいことを言われ、蓮子は顔に何かを押し付けられる。

(こんどは、ふわふわあったかい・・・)

 体が燃えるように熱かったが、その温もりは嫌ではなかった。柔らかなそれに、顔を埋めて、ふーっと深く息を吐く。
 その温いなにかに包まれて、蓮子は雲の上にいるような夢心地だった。


(熱い。冷たい。―――温かい。)








殺生丸様視点もかこうと思ってたんですが無理でした。管理人には甘さが臨界点を突破しました。
薬老毒仙とりんちゃんの絡みをかくのが楽しすぎた。お年寄りと幼女って相性がいいよね。またかきたいです。
(20/08/08)


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