月が綺麗ですね。 | ナノ

蓮子復活!!




 蓮子は目をパカッと開く。

「朝だーーー!って、いってぇ!」

 いつもの習慣で勢いよく起きると、横腹になんかすごい激痛が走る。

「ぬぉおおおお・・・!腹からスイカが生まれる・・・っ。」

「・・・バカかきさま。」

 横腹を押さえて呻いていると、その一部始終を横で見ていた殺生丸がボソリと呟く。





 ‡ 参拾参 ‡





「あれ?殺生丸?なんでいんの?」

「・・・・・・」

 痛みで涙目になりつつ、隣で横になっている殺生丸を蓮子はきょとんと見下ろす。

 その顔はとても不機嫌そうだった。

 よく見れば、殺生丸は上半身裸だった。ついでに自分も。そして同じ布団にいることを加味して考える。

 ぽく、ぽく、ぽく、

「え?わざわざ添い寝?」

 ちーん。

「・・・・・・覚えてないのか?」

 憮然とした顔で言われて、コテンと首を傾げながら記憶の糸を辿る。そういえば、犬夜叉の風の傷を受けて重症を負い、なにかの薬を呑んだところまでは覚えている。

「えーと、薬をのんだとこまでは覚えているんだけど・・・」

 蓮子がずいっと殺生丸に顔を近付ける。

「看病してくれたの?」

「・・・・・・・・・」

 目がキラキラしている。頬は赤らんでいて血色もよい。

 寝ている殺生丸の顔を上から覗き込んでいるので、蓮子は座っている体勢から両手を布団についてる状態だ。細い腕に挟まれた豊かな胸が押し出され、ぽよん。と上を向いている。

「・・・お前には恥じらいはないのか?」

 目の前に突き出された桜色を見ながら殺生丸が少し疲れたように言う。彼女に言っても無駄だと知っているからだ。

「うん?だってもう、今さらじゃない?」

「・・・・・・」

 確かに、なんだかんだお互いの肌は見慣れている。特に蓮子は傷を負ってからは全身に薬を塗りたくられたのだから、もはや隅から隅まで見られてしまっている。医療行為なので、それについては感謝こそすれ、嫌悪はない。
 しかし、殺生丸も彼女が悲鳴をあげたりはしないとは思っていたが、ここまで堂々とされるのもなんだか面白くなかった。

「それに殺生丸は人間は好きじゃないでしょ。」

「・・・傷はまだ治ってない。寝てろ。」

「いっ・・・!〜〜〜っつぅうう。」

 殺生丸が蓮子の肩を掴んで、コロンと布団に転がす。ずいぶんと優しい動作だったが、怪我にはだいぶ響いた。布団の上で、蓮子は痛みに呻く。

「ひっ・・・どい!今のは酷いよ!」

「うるさい。暴れるな、傷がひらくぞ。」

「誰のせいだ!」

「殺生丸さま!お姉さん、元気になったの?」

 どったん。ばったん。と牛車の中が賑やかになったことに逸早く気付いたりんが簾を持ち上げる。

「うん?」

 急に視界が明るくなって蓮子は簾の外を見る。そこには、見知らぬ幼女と、邪見と、見知らぬ老人がいた。

 彼らの視点から見ると、布団に押さえつけられ、痛みに涙目になっている蓮子と、暴れる蓮子を押さえるためか、彼女の上に覆い被さっている殺生丸。ちなみに二人とも上半身裸だ。辛うじて、蓮子の体は殺生丸の髪と体で見えないが。

「むっ。見てはならぬっ。」

 薬老毒仙がなにかを察したかのように、りんの視界をささっとふさぐ。

「車がかなり揺れておったが、朝からずいぶんと激しいのお二人さん。」

「え゛?」

「・・・・・・」

 りんの視界を塞いだまま薬老毒仙が二人を揶揄する。なにやらあらぬ誤解を招いたらしい。さすがに蓮子も冷や汗を流す。殺生丸もめいいっぱい嫌そうな顔をする。

「わっ。」

 バサリ、と蓮子の上に布団をかけると、腰で絡まっていた着物を羽織り、さっと鎧と靴を履いて殺生丸が牛車から出る。

「こりゃきさまっ。元気になったとたんに殺生丸さまのお手を煩わせるでない!早く着物をきんかはしたない!」

「はぁ〜い。」

 お母さん、もとい、邪見の小言に、蓮子はいそいそと着物を羽織る。

「えっと・・・」

 蓮子は回りをぐるりと見渡す。見れない人物が二人いる。

 りんがもじもじと恥じらいながら自己紹介をする。

「あの、あたし、りんっていいます・・・」

「りんちゃんかぁ、あたしは蓮子っていうの。よろしくね。」

「はいっ、蓮子さま!」

「え?さまはいらないよ。蓮子って呼んで、もしくは蓮ちゃんとか。敬語もいらないから。」

「蓮・・・ちゃん。蓮ちゃん!」

(か、かわえええええええ!)

 にこっと笑うりんに蓮子は抱き締めたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえその手を両手で握りしめる。

「ずっと、傷が痛いとき手を握ってくれてたよね?お陰でがんばれたよ。どうもありがとう、りん。」

「!」

 いつも村人からは食べ物を盗んでは折檻されるばかりだったりんは、言われ慣れてない御礼に嬉しさから笑みを溢した。

「えへっ。えへへへへへへ。」

「そっちのおじいちゃんも・・・」

「薬老毒仙じゃ。」

「うわ。」

 蓮子が振り返ると、聞く前に自ら名を名乗り、食い気味でその手を握りしめてきた。

「えっ・・・と、おじいちゃんの薬のお陰で元気になれたよ。どうもありがとう。」

 りん同様に、にこっと微笑むと、薬老毒仙は頬を赤らめた。

「ふむ。どれ、顔を見せてごらん。」

 そういって薬老毒仙は蓮子の額に手を当てる。
 診察かな?と思って、蓮子は抵抗しなかった。

「熱はもうないな。血色もよくなってる。体に痛みも残ってないな。」

 そういいながら、蓮子の胸をさわさわとまさぐった。

 みしっ。

「なにをする。」

「誤解じゃ。」

 流石の蓮子も足が出た。

 殺生丸がバキリと指を鳴らす音が聞こえるが、蓮子にそれを止めるつもりはない。薬老毒仙もそれを解したのか、慌てて弁明する。

「体に不調が残ってないか点検したんだってば。まだ次があるからな。」

「次?」

 蓮子とりんが揃って首を傾げた。







もうちっとだけ続くんじゃ。
(20/08/09)


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