うわさ


目が覚めてからしばらく布団にいた。
頭がぼうっとする。
昨日はなかなか寝付けなかったから、寝不足だなぁきっと。
いろんなことがあったような気がするけど…全部夢だったのかもしれない。
とりあえず歯磨きしよう。
のそのそと布団から這い出て、歯ブラシと手拭いを持って表に出た。

「おはようございます、なぞの先輩」
井戸では後輩のトモミちゃんが歯磨きしてた。早起きで偉いなぁ。
「おはよう。今日もいい天気だね」
「そうですね。私達は今日、実習があるから、晴れてラッキーです」
にこにこしながら応えてくれる。可愛いなぁ。

後輩の子達はいつも私に優しく接してくれる。
アヤカちゃんの話によれば、後輩から見て一番話しやすい先輩は私なのだそうだ。他のくのたまのみんなはくノ一として完璧で隙が無いけれど、私はみんなよりどんくさいから親しみやすいのかもしれない。
クラスに馴染めない私としては、話しかけてもらえて嬉しかったりする。私もクラスのみんなより後輩のみんなの方が話しやすい。みんな良い子だし。

「そうなんだぁ。私達は、今日は座学ばっかりだよ」
歯を磨きながらたわいのない話をしていると
「なぞのせんぱあぁい!!」
向こうからユキちゃんが慌てた様子で走ってきた。
「ユキちゃん、どうしたの?」
私達の前で、荒くなった呼吸を落ち着かせるように深呼吸してから、一言。
「七松先輩と付き合うって本当ですか!?」
「…へ?」
えっ、何、
ええっ、どういうことだろ
「七松先輩となぞの先輩が!? ユキちゃん、それどこから聞いたの!?」
うまく質問できない私の代わりにトモミちゃんが質問する。さすがトモミちゃん、頭の回転が早い。
「忍たまのみんなが言ってる」
「…ええ!?」
なんでそんなことになっちゃってるんだろう!
「発信源はどこ!?」
聞いてくれてありがとうトモミちゃん!
「なんでも、七松先輩本人らしいよ?」
「ええええ!!?」
何がどうしてそうなったの!? そんなわけない、そんなわけないよ! だって七松先輩とは昨日初めて会ったのに!!
「七松先輩、恋でしゅね」
後ろから聞こえた声に振り返ると、そこにおシゲちゃんがいた。
「おシゲちゃん!」
「おシゲが思うに、昨日、食堂でなぞの先輩が七松先輩を拭いてあげたあの瞬間、きっと七松先輩はなぞの先輩に一目惚れしたんだと思いましゅ!」
そうか、あの時おシゲちゃんは食堂に居たもんね。でも、まさかそんな…
「一目惚れだなんて、それはないよ…。私、可愛いわけでもないし、むしろ七松先輩にはひどいことしちゃったんだし。きっと噂を流す理由が他に何かあるんだよ。…あっ、」
「「「"あっ"!?」」」
ズズイッ。三人の気迫に押されてしまう。
女の子は恋のお話、好きだもんね。気になるのかな。
「そういえば昨日、お風呂から帰ってきたら、部屋に七松先輩がいてね?」
三人に一部始終を話す。みんな、ポカンとした顔で話を聞いていた。
「七松先輩、何の用だったんだろう…」
「…なぞの先輩」
「うん?」
「こう言っちゃ失礼なんですが…」
「うん」
「ニブしゅぎましゅ」
「へっ?」
「「「思いっきり狙われてるじゃないですかああああ!!!」」」
「えええそうなの!?」
そんなの分かんないよ! だって私、男の子とろくに話したことないもん! …あっ、だから私はくノ一としてノロマなのか。
「し、知らなかった!どーしよう! 食堂に行きづらいよぅ!」
忍たまに会ったら恥ずかしい! 私、七松先輩とお付き合いするなんて言った覚え無いのに!
「私達も一緒について、」
「無理よユキちゃん。私達今日は実習だから、お弁当持って早出じゃない。お弁当はもうもらっちゃってるし…」
「あ、そっか!」
うわあああん!
「あなた達!もうすぐ実習に行くから早くなさい!」
一人で頭を抱えて悩んでいると、長屋の方から山本シナ先生の声がした。
「あっ、シナ先生に怒られるっ」
「早く行かなきゃ」
「お力になれなくてしゅみましぇんなぞの先輩!」
慌ただしく踵を返す三人。
「ううん、気を遣わないで。実習、頑張ってね」
「先輩も頑張って下さいね!」
「行ってきます!」
三人はそのまま姿を消した。

「・・・はぁ…」
誰かに頼る望みは絶たれた。
うう、いっそこのまま朝ご飯ぬきにして部屋にこもってようか。
「でも…」
昨日、ぺこぺこだったのに晩ご飯を食べそびれたからさすがに限界だ。
気が重い。けど、
「行くしかないかぁ…」


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