「「こんにちはー!」」
その日はきり丸が他のバイトで来られなかったため、代わりにきり丸の友達が二人で手伝いにやってきた。
「私、乱太郎っていいます!」
「僕はしんべヱです!」
「「よろしくお願いします!」」
…可愛いなぁこの子達。きり丸も同じ年だろうに、あの子だけやたらとスレちゃってるな。
「うん、よろしくね」








閉店する頃には二人ともへろへろだった。
「疲れたぁー…」
「おなかすいた…」
ここでは初めての手伝いだから、きり丸のようにうまくはいかなかったけど、二人とも子供ながらよく頑張ってくれたと思う。
「はい、これバイト料」
乱太郎としんべヱが突っ伏して座っている席の前に小銭の袋を置いた。
「え…? 袋みっつ?」
顔を上げた乱太郎が不思議そうに訊いてくる。
「うん。きり丸の分と、それから二人にも」
「えっ!」
飛び起きる乱太郎。
「い、いいですよそんな…! 私達はただきり丸の手伝いで来ただけで…!」
きり丸と大違い。謙虚な子だな。
「いんだよ、ただの気持ちだから。きり丸の取り分よりずっと少ないしさ。お駄賃お駄賃」
「あ、ありがとうございます」
顔を綻ばせて駄賃の袋を握りしめる。くうう可愛いな。私ってばショタコンだったっけ。
「あとゴハン食べてきなよ。なんか作るからさ。きり丸には内緒ね」
「いただきます!」
それまで乱太郎の横で机に突っ伏していたしんべヱが急に元気に返事をした。どうやらしんべヱは食いしん坊のようだ。
「はっはっは。素直なやつめー」
作りがいがあるから嬉しいんだけど、垂れ流しのヨダレをどうにかしてください。



「あっ、おいしー!」
「食堂のおばちゃんみたーい!」
簡単に冷うどんにした。
二人の向かいに座って、私も食事にする。
「口に合って良かった」
定食屋で三人で冷うどんて…なんだか変な光景。
「ななしさんは、いつもお店に一人なんですか?」
不意に乱太郎が訊ねてくる。
「そだよ。みんなはきり丸と昔から仲良いの?」
「僕達、忍術学園の同級生なんです」
「あっ!しんべヱ!」
しんべヱの口を慌てて塞ぐ乱太郎。口から啜りかけのうどんをはみ出させたまま、しんべヱはもにょもにょと苦しそうに暴れている。
乱太郎、それじゃしんべヱ窒息しちゃうよ。
「・・・」
聞いてないですよね?みたいな顔をしてちらりと横目で私の様子を窺う。ごめん乱太郎、残念ながらしっかり聞いちゃった。
「…知ってたよ?」
「えっ!?」
私の言葉に驚いて飛び退く乱太郎。そして解放されるしんべヱ。
良かったなしんべヱ、死なずに済んで。
「だってきり丸、雅さんのコト"大木先生"って呼ぶんだもん」
きり丸は隠してるつもりなんだろうけど…たぶん無意識だな、ありゃ。
「なーんだ、知ってたんだー」
のほほんとしんべヱがうどん啜りを再開する。見てて癒されるな、この子。
「ななしさんは、なんで大木先生が元忍術学園の教師って知ってるんですかー?」
「本人から聞いたもん」
「へぇー」

それは…えーと…なんの会話をしてるときに教えてくれたんだっけな。思い出せない。
実はくノ一に憧れた時期があって、私も昔は忍者になるために自主鍛錬してた。これはきり丸も知らない新事実。というか誰にも教えてない新事実。
誰にも言ってないけど、雅さんは私が素人じゃないことに気付いてんだと思う。だから私に元教師だったって教えてくれたんだと思う。何気ない会話の中でぽろっと出た一言だったけど。
結局、一度忍者になったら抜け忍になるのって難しいから、なる前にやめちゃったんだけどね。

「美味しかったー!」
「御馳走様でした!」
どんぶりをキレイに空にして洗い場へ持って行く二人。んまぁ礼儀正しいこと。
「また今度、食べに来たいね!」
乱太郎へにこにこ顔で話しかけるしんべヱ。嬉しいこと言ってくれるじゃないかっ。
「いつでもおいで。こんなんでよければ、ご馳走するから」
「本当ですか!?」
目をキラキラさせる二人。私ってば、子供に甘いかもしれない。
「もちろん」
「やったー!」
きっとここにきり丸がいたら『タダで食べさせるなんてもったいない!』って怒られてるだろうなぁ、私。


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