出会い


「んもー! ななしさん、僕が忍術学園に通ってるって気付いてたんなら言ってくださいよー! バレてないつもりだったのにこっ恥ずかしい!」
「あ、乱太郎達から聞いたの?」
「そうです! タダうどん食ったことまで、この耳でしっかりと!」
きり丸には内緒って言ったのに…。あの様子じゃしんべヱあたりがまたポロッとこぼしちゃったのかな?
「怒るな怒るな。今日のバイト終わったらきり丸にも作ったげるからさ」
「そーゆーことを言いたいんじゃなくて!」
「よし、豆腐サラダもつけてあげよう」
「ななしさん愛してます!」
「よろしい」
今日は大口の出前注文の日。私が料理を作る横で、きり丸が手際良く器に盛り付けていく。
「あっ、そうだ」
作業しながらきり丸が呟いた。
「ななしさん、近々またバイトの依頼くれたりします?」
「んーと…あ、あるかも。なんで?」
「僕、あさってから配達の長期バイト出ちゃうんで」
「あれまっ」
「長期だとバイト料いーんすよ〜。夏休みじゃないと長期は引き受けらんなくて…」
「そっかぁ。しゃーないよね」
「でも代わりに土井先生がここに来ますから」
「土井先生?」
「僕の担任です」
「なんで担任の先生がきり丸の代わりにバイトすんの?」
「いや、まぁ…保護者みたいなもんで」
「ふーん」





後日。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませー」
背の高い男性が店へ入ってきたかと思うと、私の前まで歩いてきて一礼した。
「初めまして。きり丸の紹介で来ました、土井です」
んまあ! なんて爽やかな好青年。
「今日はよろしくお願いします」
ちょっとちょっとイケメンじゃんかよ、きり丸! 私、全く聞いてない!
「・・・」
「? どうかしました?」
「あ、いえ!」
どうかしたよ!と叫びたい。
「思ってたよりずいぶん若いから驚いてしまって…きり丸の先生と聞いていたものですから…」
「先生?」
私の言葉にぴくりと反応する土井先生。あ、やべっ、私いま余分なこと言った。
「きり丸と私の関係をご存じで…?」
「はい。普段は忍術学園にいらっしゃると」
「…あいつ…」
目の前でこっそり握り拳を作ってる。こりゃいかん、あとできり丸を怒る気だ。
「きり丸を責めないでください。私が勝手に勘付いたので」
「え? なぞのさんが?」
「そう。私、もとくノ一なんで」
あっさりバラしちったけどまぁいいや。イケメンだから許す。私の秘密の防御壁なんてせいぜいこんなもんだ。
「こちらこそ、今日はよろしくお願いします、土井先生」





先生はきり丸に負けず劣らず、仕事が早かった。
若い男性が手際良く炊事するなんてちょっと意外。イケメンなんて見掛け倒しが多いから、正直あんまり期待はしてなかったんだけど…ってそれはいくらなんでも失礼か。
あっという間に一日が終了する。

「今日はお疲れ様でした」
閉店後、席に座って今日初めての休憩をとる先生にお冷やを出した。
「ありがとうございます」
笑顔で礼を言われる。顔色はちょっと疲れてるけど。
「御飯、食べて行って下さい。きり丸の分も持ち帰り用で作りますから」
「えっ、そんな、悪いですよ」
「遠慮しないでください。きり丸にもたまに何かしらあげてますんで」
きり丸が次のバイトが無いとき限定だけど。
「そうなんですか! きり丸がいつも世話になってます」
ここで、きり丸とは親戚か何かなんですか、という質問が出かけたけど呑み込んだ。
それを訊くのはちょっと野暮かな。二人の私情だし。
「いいえ、とんでもない。何か食べたいものあります?」
「なんでも。簡単なものでいいです」
「わかりました」
「…あ」
「はい?」
「私、練り物が苦手で…できればその…」
言い辛そうに、立ったままの私を見上げてくる。
なんだこの大人。イケメンのくせして、かわいいいい!
「練り物は無しですね! 了解でーす」





ここで面倒臭がりを発揮。そうめんにした。なんか作ると自分から言った割には本当に簡単だ。もうべつにいいよね夏だから。
席の真ん中にそうめんを入れた大笊を置いて、先生の向かいに座る。私も一緒に御飯済ましてしまおう。
二人で真ん中にあるそうめんをつつき始める。
「先生、今日はどこかでバイトされて来たんですか?」
「いえ、今日はここだけですよ?」
「そうですか…」
「何か?」
「いえ、何も」
私の視線の先に気付いた先生が苦笑する。
「私の着物、ですか?」
うわっ、私ってば相当失礼だ。確かにちょっときったねーなと思ったけど、初対面でこれはないよね!
「忙しくてなかなか洗う間がないんです。いや、お恥ずかしい…」
ばつが悪そうに先生はうつむいた。
「・・・」
「じゃあ、次に先生がいらっしゃるときは、着替えを用意してお待ちしてますね」
「…えっ?」
悪いけどイケメン相手ならななしさんはいくらでもこういう冗談言えんのよ。だてに長生きしてません。
「洗ってあげますから」
先生は目をぱちくりさせて私を見る。おっ、さすがにこれは調子に乗りすぎたかな? 変な女と思われたくさい。
まいっか。色気より食い気、そうめんのつゆ少なくなってきたからつぎ足そう。
「…だったら」
「え?」

「またすぐ、ここに来なければいけませんね」

ふわっ、と。
土井先生は、とても綺麗に微笑んだ。



やばい

「着物が汚いなんて、ヒンシュク買ったかと思いましたよーははは」

たとえ社交辞令だとしても
これはいけない

「きり丸のバイト先がなぞのさんのところで安心しました。…そうめん美味しいですねぇ」





人間、恋に落ちる瞬間って

本当にあるもんだ


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