飴玉ボーダーライン | ナノ

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「えっと…」


目の前にずらりと並ぶ女の子達。何人か同じクラスの人もいる。全員のとても穏やかとは言えない形相に、冷や汗が止まらない。

バスケ部の練習はお世辞抜きで楽しかった。部員さんそれぞれのクオリティーの高さはもちろんだったけど、何より皆心から楽しそうにやっているのが見ていて凄く気持ちよかった。
時間を忘れて見入っていると、後ろから肩にポンと乗せられた女の子の手。皆さんも練習見にきたんですか?と訊く前に、ちょっと来てくれる?と拒否を許さないというような雰囲気で引っ張られて、今に至る。

もう授業は終わってるから、部活生以外で校舎にいる人はいない。壁を背に女の子達に囲まれて、どうするべきなのか検討もつかない。


「皆さんは見ていかないんですか?バスケ部…」

「水谷サン、知らないの?」


同じクラスの女の子がひとり、ぐいっと顔を近付けてくる。それはそれは恐ろしい迫力で、何か言わなきゃと思ったけど言葉が出てこない。


「勝手に応援なんて行っちゃダメなの。わかる?」

「どうして…ですか…?」

素直に、わからなかった。だから訊いてみたんだけれど、それは相手をイライラさせてしまったみたいで、小さな舌打ちが聴こえた。


「…邪魔になるのよ、練習の。試合ならまだしも、周りで騒がれたらバスケ部の皆だって気が散るでしょ」

「あ…なるほど…。すみません、気が付かなくて」

「わかればいいのよ。とにかく、もう行かないでよね」


「私、見に来てとお誘いを受けたので、てっきり問題ないものかと思って…」

「―――はぁ?」


一瞬穏やかになったと思った雰囲気が、また恐ろしいものになった。

(何かまずいことを言ってしまったんでしょうか…)

また頬を冷や汗がつたうのを感じた。



「誘われたって、誰に」

「りょ、涼太さん、…です」

「嘘吐かないで!なんでアンタが黄瀬くんに誘われるのよ!」

「なんでと言われましても…」

「どうせアンタも黄瀬くん狙いなんでしょ?別に想うなとは言わないわ。でも抜け駆けは許さない。黄瀬くんはみんなのものなの」


間違いなく私に向かって言われた言葉は、けれど私には理解できなかった。涼太さんがみんなのもの…って、どういう意味なんだろう。
まるでアイドルみたい……アイドル?



「涼太さんは、みんなのアイドルさんなんですか!?」

「は?」


涼太さんの格好良さは私にも充分わかる。端整な顔立ち、高い身長、バランスのいいプロポーション。確かに言われてみれば、学校のアイドル的存在と言われてしっくりくる。
(本なんかで読んだことはあるけれど、こういうこと本当にあるんですね!)


「つまり皆さんは、涼太さんのファンなんですね!」

「そうだけど……何この子、なんかズレてない?」

「それなら分かります。だからみんなのもの、ということですね!」

「なんかこの子、変じゃない?」

「ったく、うっざ!」


振り上げられた手。
…え?



「はい、そこまで」



手は空中で静止した。というより、一回り大きな手に握られて、動かせないんだと思う。
この声は、確かさっきお聴きした…


「森山さん!」

「―――ッ、」


森山さんは私と目が合うとにっこり笑いかけてくれた。


「今日麻衣子ちゃんが来てくれたのは、俺のためなんだ」


私を庇うように立って女の子達にそう言った森山さんは、私にだけ分かるようにし、と合図した。



汗だくの彼がここに来て私を抱き締めるのは、それから数分後のこと。






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