飴玉ボーダーライン | ナノ

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どんな話をすればいいか分からないまま、初めて麻衣子っちと出会った場所の近くまで来てしまった。そんな俺の様子を汲んでか、彼女も何も言わなかった。

もうすぐ別れなきゃって時、それでも俺は上手い言葉を見つけられなくて、先に沈黙を破ったのは麻衣子っちの方だった。



「皆さんが言っていたんですけど…、涼太さんって、皆のアイドルなんですね」

「え?」

「今日の女の子達、皆さん涼太さんのファンだそうです!涼太さん格好いいですもん、あり得ないことじゃないですよね」

「それは…」


にっこりしながら言う麻衣子っちは、たぶん、いや絶対まだ知らない。
そろそろ潮時、かな…。


「実は俺、こう見えてモデルとかやってて…」

「モデル…?」

「だから結構目立っちゃって…ファンの女の子の中にはちょっと過激な子とかもいるんスよ」


俯きがちに小さい声で言った。麻衣子っちの顔を見られなかった。



「俺達、もう会わない方がいいかもしれないっス…」

「…どういうことですか?」

「俺と一緒にいたら、また今日みたいな目にあうと思うんス。俺のせいで麻衣子っちが怖い思いをするのは…耐えられない」


俺のせい。口に出して言ったら余計にズンときた。
彼女がどんな表情をしているのか全く分からない。もう二度と見れないかも。彼女と会うことも、話すこともなくなって。
そうなったら、俺は、



「そんなこと言わないでください」


麻衣子っちが俯く俺の正面に立ち、手を伸ばして俺の頬を包んだ。小さくて柔らかい手は、少しの迷いもない。

必然的に見ることになった彼女の顔は初めて見る少し怒ったような表情で、でもほんのり赤く染まっている。



「私は涼太さんのファンじゃありません」

「っ、じゃあ…」

「涼太さんが言ってくれたんですよ。…友達、って。だから涼太さんがモデルだとしても、たくさんファンの方がいても、関係ないです」

「でも俺といたらまた…」

「私なら大丈夫です。森山さんもああ言ってくれましたし。それとも涼太さんは、私といるの、嫌ですか…?」

「そんなことないっス!俺だって、できることならずっと麻衣子っちと一緒に…!」


自分が吐いた言葉を理解した時、麻衣子っちはにっこり笑った。


「では、何の問題もありません」


す、と彼女の手が離れる。


「それに私、嬉しかったんですよ。…涼太さんが走ってきてくれて」



その笑顔を見てひとつ思いついた。
守ればいいだけなんだ、俺が。死ぬほど簡単な話じゃんか。逆に女の子ひとり守れないなんて男じゃない。
森山先輩とか他の男じゃなくて、俺が麻衣子っちを守りたい。




「もうすぐ、紫陽花が咲きます」

「え?」


別れ際、麻衣子っちは俺を見上げながら笑う。


「夏もすぐそこですよ」

「…そっスね」


つられて俺も笑う。



彼女と別れて家に帰りつく頃には、今日の俺自身がしたことと言ったこととが頭の中で鮮明に思い出されて、羞恥でいっぱいになっていた。

めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ったし、汗だくだったのに…だ、抱き締めちゃったし…!ああああ穴があったら入りたい…!






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