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 血色のいい桃色のケツをぷりんっと振って褌の中から何かを取り出したアニキが何やら手際よくそれをセッティングすると、行為後の何とも言えない雄臭さが漂っていたベッドルームに、ふんわり優しい桃の香りが漂い始めた。

「何だよこの香り」
「うふふん、それはおたのしみです」
「……?」

 こいつが鼻息をふんふんさせてはりきり始めると、ロクなことがない。

 ちびっ子妖精が今度は何を始めたのかと、興味深そうにその様子を見守っていた鬼原課長は、突然「うおっ!?」と小さく叫んで身体を震わせ、何かから守るように俺の身体を腕の中に抱いた。

「鬼原課長?」
「これは……何だ!?」
「え? 何ですか?」
「突然目の前におかしなものが……」

 珍しく動揺した様子の鬼原課長の腕に抱かれたまま、ほぼ無理矢理のように胸に埋めさせられていた顔の向きをそっと変えて寝室を見渡し、言葉を失う。

 そこには、柔らかい薄桃色の光に包まれた真っ白な布がふわふわと漂い、俺と鬼原課長の周りをヴェールのように囲っていたのだった。

「あ……」

 この感覚は、久しぶりだ。

 いつも厳つい仏頂面で心の読みにくい上司の、本当の優しさに気付かせてくれた、白い布。
 恐る恐る視線を左手の薬指に移すと、そこにはしっかりそれが巻き付いている。

 消えてしまったと思って、一度は恋を諦めかけていたのに。
 『運命の六尺褌』は、今までに見たことがない美しい輝きを放ち、鬼原課長と俺をつないでいた。

「かちょうと……つながってる」

 こみ上げる感動に震える声で呟いて、鬼原課長の指にそっと触れた瞬間、指に巻きついた布は毛を逆立てた猫の尻尾のようにブワッと膨らみ、面白いくらい動揺した様子で揺れ動いて俺の身体に触れるか触れないかの位置で渦を作った。

 驚きのあまり完全に硬直してしまったらしい上司の顔を見上げても、その表情にあまり変化はなく、顔だけ見ても内心の動揺はなかなか読めないだけに、久々に見る運命の六尺褌の反応は新鮮だ。

「どういう……ことだ」

 かすれ声で低く唸った課長の前にふよふよと浮いたまま、ちびっ子妖精は渾身のドヤ顔を決めて胸を張った。

「ヨクミエールのアロマタイプをつかったおかげで、かちょーさんにも『運命の六尺褌』が見えるようになったのです!」

 ちなみにアロマタイプの効果は香りが続いている間だけ、という余計な説明は、今の課長の耳には届いていないに違いなかった。

 度が過ぎるほど真面目でストイックで、ファンタジーな世界とはおよそ縁のない仕事の鬼が、決裁書類に目を通すとき以上に険しい表情で寝室内に漂う褌を眺め、腕の中の俺に視線を落とす。
 目が合った瞬間、運命の六尺褌は分かりやすく膨らんで、心臓の動きに合わせるようにドクドクと脈打つような動きを見せた。

「俺の……心の動きに合わせて、動くのか」

 ぽつり、と落とされた呟きとともに、二人の間をつなぐ布がじわじわと赤く染まっていく。

「課長っ!? 大丈夫ですか、課長!」

 運命の六尺褌が見事な赤褌になる前に、鬼原課長は赤く染まった顔を隠すように俺の肩に埋めて突っ伏してきた。

「お前には、これが見えていたんだな」
「……は、はい」
「想像を絶する羞恥プレイだ」
「ごごごごめんなさい! 本当に申し訳ないです! 課長の心を覗き見るようなことをしちゃって……すみませんでした!」

 自分の考えていることが誰かにダダ漏れだったら、俺だって恥ずかしいに決まっている。
 今まで黙って課長の気持ちを覗いてしまっていたことを謝ると、課長はまだ耳先を赤くしたまま、片手で顔を隠して俯いてしまった。

 こんな時ですら、真っ赤に染まった運命の六尺褌がギューッと俺を包み込むように巻きついていて、課長が俺を嫌いになってしまった訳ではないと分かってしまうのが嬉しいやら申し訳ないやら。



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