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 一瞬、頭上で息を詰めた気配を感じると同時に、体内の熱塊が大きく脈打つ。

「ん……っ、あぁッ!」
「――ッは」

 一際深く打ち込まれた肉棒に感じるポイントを責められ、目の前が真っ白になるような快感に全身を震わせると、獣の低い呻き声が漏れて、身体の中で大きな爆発が起こった。

「あ、ぁ……っ、あ」
「……」

 じわじわと、あり得ない場所を熱い液体が濡らしていく感覚に、身体がふるっと震えてしまう。
 涙に滲んだ瞳で見上げると、男前上司は自分でも何が起こったか分からないといった様子で呆然と俺を見下ろしていた。

「かちょ……」
「……」
「きはら、かちょー」
「……」

 もしかして。もしかしなくても。
 これは鬼原課長的にはかなり不本意な暴発事故が起きてしまったのかもしれない。

 俺の「チンコ気持ちイイ」発言に反応するように、張り詰めていたペニスを最奥へと打ち込んだ課長は、自分でも予期していなかったらしいタイミングで、限界まで耐えていた熱を解き放ってしまったらしかった。

 俺的には全然気にならないというか、今のこの状況では気にする余裕なんてほとんどないけど。
 もし俺が逆の立場だったらと思うと、同じ男として気まずい気持ちは何となく分かる気がする。

「あの……」

 こんな時にどう声をかけるのが正解なのか、経験値の低い俺に分かるはずもなく。
 呆然と固まる上司の腕をすがるようにキュッと掴むと、ビュクビュクと体内に熱液を吐き出して大人しくなっていた課長のモノが大きく脈打って再び力を取り戻し、太く硬く張り詰めて狭い肉壁を内部から圧迫してきた。

「えっ……、あッ、嘘!?……今イッたばかり……」
「今のはノーカウントだ」
「!?」
「お前はもう喋るな」
「って言われても……っ、あッ!? ひっ、ぁ……あっ、ダメっ、さっきより、奥……!」

 射精したばかりだというのに驚異的な回復力であっという間に硬度を取り戻した課長のペニスは、さっき以上に奥を突いて、喋る間も与えない勢いで激しく俺を責め立ててきた。

「や、あっ、そんなに、ソコ……っ、いやぁあっ」
「初心者マークかと思えば、とんでもない色気を振りまいて……。まったく、とんでもない奴だ」
「んんッ!」

 肉と肉がぶつかる音と同時に、深く埋め込まれた極太のペニスが、内部の敏感なポイントを突いてくる。
 激しい抽挿のペースを保ったまま、腹を撫で上げるようにして肌の上を滑ってきた手が、汗に濡れた胸の上で動きを止め、真っ赤に色付いた突起に触れてそれをつまみ上げてきた。

「う、あぁ、あンッ!」

 ビリビリと、もどかしいような甘い痺れが胸から全身に広がって、下半身を熱くする。
 何とも言えない力加減で乳首を弄られるだけで、俺のいやらしい穴がずっぽりと埋め込まれた課長のモノを締めつけて、健気に勃起して揺れる俺のペニスは先端から雄蜜を零していた。

「乳首も感じるのか」
「っ、言わないで……っ、ンンッ!」

 恥ずかしいけど、気持ちイイ。
 今の自分がどんなにいやらしい格好で喘いでいるか分かっているのに、その羞恥すら快感を増幅させてしまう。

「かちょ、……イキそ、出そう……っです」
「まだだ、もう少しだけ付き合え」
「んッ……は、ぁンッ!」

 股間で物欲しげに揺れるその部分に触れて欲しくて、恥ずかしいのを耐えておねだりしたのに、課長はこんな時に鬼上司っぷりを発揮させると、俺の片足を肩に担ぎ上げてそれまで以上のペースで腰を打ち付けてきた。

「あ、ぁ、あ……すご、……んッ」
「この方が、お前のイイところに届くだろう」
「い、ぁあッ!……だ、め……っ、おかしくなる……やぁあっ!」

 挿入の角度が変わったことで先端の当たるポイントが微妙に変化して、今までとはまた違う快感が生まれて全身を包み込んでいく。

 体内からの刺激は未知の気持ちよさを与えてくれるものの、それだけでは射精することができず、ギリギリまで追い込まれながら熱を解放できない強過ぎる快感に、俺は涙目になって鬼原課長にしがみついていた。

「かちょ……っ、もう、出る……から、いっしょに……っ」
「……また俺を瞬殺する気か」
「や、ぁんっ、んッ……かちょうと、いっしょが……いいです」
「もうワンラウンド付き合わされたくなかったら、少し黙っていろ」

 やや上擦った課長の声には余裕がなくて、腰の動きを徐々に早めていく男前上司の顔を見上げると、男らしく鋭い輪郭を描く顎先から滴り落ちた汗が胸に小さな水たまりを作った。

「……情けないな、クソ」

 小さく吐き捨てる声に不安になって、切れ長の瞳の奥を探ろうとすると、鬼原課長は「怒っている訳じゃない」と、困ったような顔で笑って身体を倒し、俺の唇に優しいキスを落としてくれた。

「お前の前では、俺はいつも余裕のない……情けない男だ」
「きはら課長……」

 俺の言葉に反応して忙しく表情を変えていた『運命の六尺褌』を思い出して、胸がキュッと苦しくなる。

 男同士だから。
 ずっと気持ちを伝えるつもりはなかったはずなのに、それでも鬼原課長は、ポーカーフェイスの下に自分の想いを押し殺して、俺を見守り続けてくれていたんだ。
 不器用かもしれないけど、そんな課長を、俺は決して情けないなんて思ったりしない。

「課長」

 伸びてきた手が俺のペニスを包み込み、腰を打ち付けるリズムに合わせて扱き上げる。

 射精寸前の快感の波に身体を震わせながら。俺はそっと、大好きな人の名前を呼んだ。

「けんじさん……」
「!」
「好きです、けんじさん」

 もちろん、今度は確信犯だ。

 パンパンと腰を打ち付けていた男前上司の動きが止まり、内股の筋肉が僅かに痙攣するような感触と同時に、身体の奥深くまで埋め込まれていた巨大な肉棒が再び膨れ上がってその身を弾けさせる。

「あっ、イクッ……あ、……あぁあ、んッ!」
「……っ」

 どんな時でも冷静で的確な判断を下す仕事の鬼は、今度は判断を誤らなかった。
 自らの射精直前に、ギリギリのところまで追いつめていた俺のモノを根元から先端まで搾り上げるように扱き、敏感な先端の割れ目を撫で回し、あっさりと俺をイカせてからその欲望を解き放ったのだった。



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