8


 デカい図体の割に脇が甘いというか、イイ年の大人にしてはちょっと頼りない感じはしていたけど、まさか……中学生だったとは。

「きのこメガネの方がいちろよりコドモなのに、色々なトコロがいちろよりおっきくて立派なんだね」
「……」

 まだ直立不動の体制で人形ぶりっこを続けているアニキが、俺の股間とおかっぱ眼鏡少年謙太君の股間をチラッチラッと見比べて感心したように小さく呟いた声を聞き逃さず、俺はアニキの小さな身体を包む手に少しだけ力をこめてやった。

 思わず「やんっ!」と声を漏らしてしまったちびっこ妖精に鬼原課長が視線を向けたものの、慌てて固まり必死に“おにんぎょうさんです!”アピールをするアニキにそれほど興味がないのか、男前の上司はすぐに視線を俺に戻し、熱い大きな手を頬に当ててきた。

「当て馬役を引き受けて可愛い甥っ子と不器用な家庭教師を応援してやろうと思ったんだが……今は自分のことで精一杯だ」
「課長、俺、課長に言わなきゃいけないことがたくさんあるんです」
「後からゆっくり聞かせてくれ。俺も、お前に言うことがある」
「ちょっと! 目の前でいちゃつかないでってさっきから言ってるのに! しかも、未成年が見てる!」

 もう、このままここでえっちなことでも始めちゃうんじゃないかというくらい甘く危険な雰囲気を漂わせる鬼原課長に常連の兄貴達はもうさりげなさを装うことすらせずに俺たちをガン見している。
 俺のせいで中途半端に告白が流されてしまった謙太君は、クリスさんの言葉に「またガキ扱いする」とデカい身体をしょんぼりと縮めていた。

「クリス、悪いが謙太を家まで送ってくれないか」
「何で俺が!?」
「お前が家で勉強を見ていてやったことにすれば兄貴もうるさいことは言わんだろう」
「やだよ! ていうか、ケンタ! 何こんな時間までうろついてんの? 来週期末テストじゃん!」
「だって、太三郎が……謙二叔父さんと会うの、楽しみにしてたみたいだったから」
「奢りで美味い酒飲めたら楽しみに決まってるでしょ。さっき電話したとき勉強中だって言ってたの、嘘だったのかっ!」

 延々と続くクリスさんと謙太君の小劇場を鬼原課長の膝の上から抜け出せないまま見続けているうちに、ようやく俺にも色々な状況が分かり始めてきた。

 どうやら、橘課長に呼び出された鬼原課長が今夜この店を訪れることは、謙太君を通してクリスさんに伝わっていたらしい。
 年上の小悪魔家庭教師に密かな想いを抱き続けながら、恋敵ともいえる自分の叔父とこまめに連絡を取り合ってその動向をクリスさんに教えてあげていたのだというから、謙太君の健気さに涙が出そうになる。

 今夜だって、課長が『CLUB F』に行くことをクリスさんに伝えた後で、もしかしたら本物のはむケツである俺が店に現れるかもしれないと思い、わざわざクリスさんのためにデートが終わるまで足止め役を務めるつもりだったなんて。

 未成年が繁華街をうろついて、しかもゲイ御用達の褌バーにまで入って来てしまったことを叱りながらも、クリスさんの色白の肌がほんのり赤く染まっていて、きっと謙太君のさっきの告白はしっかり届いているのだろうなと、俺はじんわり温かい気持ちになった。

「マスター、フロアにいる人数分、デカマラソーセージの盛り合わせと雄汁を頼む」

 まだ終わる気配のないクリスさんと謙太君の小劇場をBGMに、鬼原課長がマスターに声をかけて、自分のジョッキに入っていたビールを飲み干す。

「ケンジさんの奢りでか?」
「ああ、騒がせた詫びだ」
「おお……太っ腹だな」
「どれだけ金を払っても手に入らないと思っていたモノが手に入ったからな。夢じゃないことを今すぐ確かめたい」

 空になったジョッキをカウンターテーブルに置くと、鬼原課長は俺のケツに手を回し、身体を抱え上げるようにしてそのまま立ち上がった。

「うえぇっ!? 鬼原課長!? ちょっと!」
「すごい! いちろ、お姫さまみたい!」
「課長! 下ろしてください、課長!」

 俺の手の中でアニキは大喜びしているが、現実は全然そんなロマンチックな状況ではない。
 多分、こんな運ばれ方をするお姫さまはいないはずだ。

 フロア中の兄貴さん達が興奮して盛り上がり、何故か拍手が沸き上がる中で。

 俺は、まるで米俵のように鬼原課長の肩に担ぎあげられ、抵抗もできないままロッカールームに連れ去られ、手際よく服を着せられてあっという間に鬼原課長の家へとお持ち帰りされてしまったのであった。




(*)prev next(#)
back(0)


(69/89)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -