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○●○


 ――確かに俺は、鬼原課長が本当に褌を締めているのか確認したい気持ちと、アニキに俺以外のターゲットを見つけてもらおうという魂胆から、仮面褌パーティーとやらへの参加を了承したけど。

「……何この格好」
「わー、いちろー、すっごくいいよ! 可愛い感じになってる!」

 アニキに案内されてたどり着いた謎の褌バー『CLUB F』のロッカールームで褌姿になり、さっき手渡された仮面を装着した俺は、鏡に映った自分のあまりに間抜けな姿に、呆然と立ち尽くしてしまった。

 これはもう、訳の分からない魔法でスーツを褌に変えられてしまったとき以上の“何とも言えない感”だ。

「仮面って……こういうことじゃないだろ」

 アニキが通販で買ったという仮面褌パーティー用の仮面は、仮面でも何でもなく。
 もはや被り物とでも言った方がしっくりくるような愛くるしいハムスターの覆面なのだった。

 頭からすっぽり被るタイプのハムスターは、ピョコッと飛び出した小さな耳が何とも愛らしく、貧弱な身体に褌一丁という首から下の状態には恐ろしいまでに似合っていない。

「どこからどう見ても怪し過ぎるっつーの。大体何でハムスターなんだ」
「いちろー知らないの? 『とっとこハム野郎』って、ちょっと前にはやってたアニメなんだよ」
「全然知らないし、そもそも何のキャラクターかは聞いてないし」
「そんなことはどうでもいいから、早く中に入ろうよー」
「どうでもよくない! こら、アニキ! ちょっと待て!」

 こんな格好で店の中に入れなんて、ハードルが高すぎる。
 褌を締めた屈強な兄貴たちしかいないであろう店内で、浮くこと間違いなしだ。

「だってもう、かちょーさん来てるもん。かちょーさんの格好いい褌、早く見せたい!」
「いや、マジで待っ……うわ!」

 褌バーという場所がパワースポット的な働きをしているのか、柔らかそうな薄桃色のケツをいつも以上にぷりぷりと輝かせたちびっこ妖精は、俺が制止するのも聞かずに廊下をふよふよと飛んで行き、その小さな身体で、重厚感のあるホールの扉を開いてしまった。

「すごーい! 褌のエネルギーがいっぱい!」
「……」

 腹に響く重低音のBGMと共に、男臭い熱気がホールから溢れ出してくる。

 分かってはいたことだけど、店の中には褌を締めた屈強な男しかいないという、何とも言えない別世界だ。

 色とりどりの褌を締めた兄貴たちは、目元だけを隠す黒い仮面を付けていて、これも当たり前の話だけどハムスターの被り物なんて被っている人間は一人もいなかった。

 酒の入ったグラスを片手にそれぞれに盛り上がっている褌兄貴たちは、人の出入りはそれほど気にしていないらしく、ドアの前で呆然と立ち尽くすハムスターの覆面男に露骨な視線を向けることもなく楽しげに会話を続けている。

「ねえねえ、いちろー、見て! かちょーさんだよ!」

 興奮に鼻息をふんふんさせながらアニキが指差した方向を見て、俺の心臓は思い切り跳ね上がった。

 左手の薬指から伸びた真っ白な布が、カウンターの手前に立つ男の方へと伸びている。

「あれが……オニハラ課長!?」
「ね、かっこいいでしょ? ドキドキするでしょ?」

 そこには、隙なくスーツを着こなす厳しいエリートビジネスマンの姿はなかった。

 見事に盛り上がった胸筋と、太い腕。
 引き締まった腹筋と尻を最高に男らしく演出する、真っ白な六尺褌。
 布越しにも存在感を放つ、股間の膨らみ……。
 まさに、男が惚れる男といった感じで、堂々とした風格に圧倒されてしまう。

「会社で見るときと、全然ちがう……」
「ね! スーツのかちょーさんもかっこいいけど、褌もいいでしょ」

 仮面で目元を隠していても十分にその男前っぷりが分かってしまう俺の鬼上司は、黒い六尺褌の男前兄貴と談笑しながら、強烈な雄のフェロモンを漂わせて周りの視線を引き付けていた。



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