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「うわ、父ちゃんだけずるい!」
「俺らだって雪矢兄ちゃんに会いたかったのに」
「兄ちゃん、俺もハグ、ハグ!」

 ひしと抱き合って再会の喜びを噛み締める雪矢と父の横で、そっくり同じ顔を並べた坊主頭コンビが不満げに口を尖らせる。

 “兄ちゃん”と呼ばれて、雪矢は触り心地のよさそうな二人の坊主頭を見比べ、首を傾げた。

「あの、この方達は?」

 母が再婚して雪矢に年の離れた妹が生まれた後、父もまた再婚し、再婚相手との間に双子の男の子が生まれたと聞いたことがある。

 聞いたことはあるが、まさか……と思い父の顔を見上げると、昔と変わらない優しい笑顔と共に、予想していた通りの答えが返ってきた。

「右が友矢で左が卓矢。お前の弟だよ、雪矢」
「お、弟……!?」
「ちわっす、友矢っす」
「卓矢です」

 タイミングを揃えて頭を下げる坊主頭コンビに、雪矢の大きな目は更に大きく見開かれた。

 父が新しい家庭を持って双子の弟たちと過ごしていること自体は前から知っていたので、今さら驚いたりはしない。
 ただ、目の前に並ぶ二人が自分の弟だと聞かされたことに、雪矢はただならぬ衝撃を受けていた。

「そんな……だって、俺よりずっと背が高いのに……?」
「えっ、そこ!?」
「背の高さ!?」

 父も母もそれほど背が高くないせいか、雪矢は学生時代からどちらかといえば小柄な方で、成人した今でも身長はギリギリ平均と言える程度である。
 それなのに、まだ中学校を卒業していないはずの弟たちがこんなに恵まれた体格で自分を見下ろしているのは納得できない。
 それより何より、雪矢よりずっと大人びて見える男らしい顔つきと体格が羨まし過ぎる。

「いやー、昔の写真とあまり変わらないって思ってたけど、雪矢兄ちゃんって話しても可愛いんだな」
「ある意味、想像してた通りだな」

 呆然と立ち尽くして自分達を見上げる雪矢の反応にひとしきり笑った後で、坊主頭の双子は顔を険しくして、雪矢を庇うように壁となって佐竹の前に立った。

「つか、アンタは誰すか」
「うちの店、入れ墨関係とかはお断りなんですけど」

 雪矢と父親の感動の再会を黙って見守っていた佐竹は、双子の兄弟から突然敵意を向けられたことにも動じず、腕を組んで立ったまま片方の眉をピクリと跳ね上げた。

 向かい合う佐竹と双子は完全に、地上げにきたヤクザとそれを追い払おうとする地域住民の構図だ。
 ただ、中学生とは思えない体格と大人びた顔つきの二人も、佐竹の鍛え上げられた身体と成熟した雄の風格を前にするとまだまだ未熟な若さが目立ってしまう。

「警察呼ばれたくなかったら帰った方がいいんじゃないの」

 何やら物騒な流れに、雪矢は慌てて佐竹のもとに駆け寄り二人の前に立った。

「待って、この人はそういう人じゃないんだ」

 慌てて佐竹の横に並んだものの、“そういう人じゃない”に続くフォローの言葉は、なかなか思い浮かばなかった。

 佐竹は決して悪い人間ではないし、雪矢にとって誰よりも大切な存在だが、本職の極道の組長を兄に持つトイチの金貸しを“そういう人”と言わずして何と呼ぶのだろう。

「ええと、佐竹さんはこういう感じの見た目だけどすごく善良な一般市民……っていう訳でもなくて、でも、入れ墨とかはしてないし」
「やっぱり善良な一般市民じゃないんじゃん」
「入れ墨入れてないだけのヤクザじゃん」
「いや、とりあえずヤクザではないから大丈夫!」
「全然大丈夫じゃないって、見るからにヤクザじゃん! カタギの顔じゃないし」
「ヤクザじゃなかったら何なんだよ」
「何って聞かれると……」

 必死になってボロボロのフォローを入れようとする雪矢の隣では佐竹が微かに肩を震わせて笑っている。

 苦しい状況を救ったのは、おっとりとした父のひと言だった。

「とにかく、雪矢もヤクザさんも中に入って。コーヒーを飲みながら話そう」
「入って、いいの?」
「当然だよ。――お帰り、雪矢」

 ずっと遠い記憶の中にあった、父の淹れるコーヒーが飲める。

 喜びに浸りつつ、父にまでヤクザ扱いされてしまった佐竹が気の毒で申し訳なくて、精悍な顔をそっと見上げると。

 トイチの金貸しは優しく雪矢を見つめ、口元に微かな笑みを浮かべて頷いた。



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