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 龍崎と伍代兄弟が去って再び静かになった部屋で、雪矢は佐竹の腕に甘やかされながら、ポツリと呟いた。

「ヤクザの組長さんって聞いていたから、もっと厳つくて怖い人を想像していたんですけど……優しそうなお兄さんですね」

 佐竹よりよっぽど若く見える外見については言わない方が利口だと思い敢えて口にはしなかったが、それでも佐竹は不機嫌そうに鼻を鳴らして雪矢の柔らかい髪に鼻先を埋めてきた。

「あれは猫を被ってるだけだ、騙されるな」
「そうなんですか?」
「当代最強の武闘派と言われる伍代の兄がついているとはいえ、くせ者揃いの反対派を制圧して現組長の座についた男だぞ。必要とあれば顔色一つ変えずにえげつないこともやってのける筋金入りの極道に決まっているだろう」
「ふうん……」
「見た目からは本性が分からねえ分、俺よりよっぽどタチが悪い」

 そう言いながらも、その口調からは佐竹と龍崎の関係が決して悪いものではないことが伝わってくる。

「すっかり気に入られちまったみたいだが、俺のいないところで声をかけられてもついて行くなよ」
「行きませんよ、子供じゃないんだから」

 今の佐竹には血の繋がった兄である龍崎がいて、敏腕秘書として佐竹を支える伍代がいて……佐竹を先輩として慕う高田や、親友の古森がいる。
 雪矢にも、優しい家族と『KARES』のスタッフ達がいるのだ。

 長い間、ずっと一人で迷子になっていたような気がしていただけで、本当は自分がたくさんの温かさに包まれていたと気付くことができたのは、やはり佐竹と出会えたお陰だろう。
 同じように帰る場所を探していた佐竹に会って、惹かれたことで、お互いに何よりも大切な存在を見つけることができた。

「――佐竹さん」

 鍛え上げられた逞しい身体をそっと抱き返して、雪矢は優しい野獣の耳元でもう一度、囁いた。

「好きです」
「……」
「この先何があっても後悔しないし、佐竹さんから離れないから……俺の帰る場所でいて下さいね」

 密着した肌から伝わる熱が心地好くて、自然に瞼が重くなってくる。

 龍崎の前では“もう一戦”などと言っていたが、突然ならず者集団に拉致されて媚薬を飲まされた雪矢の身体を気遣ってか、佐竹は何度も甘噛みするように雪矢の白い肌にキスを落とし、腕に抱えた細い身体をそっと横たえた。

「ああ」

 甘いバリトンが鼓膜をくすぐり、雪矢を穏やかな眠りの底に誘っていく。

「俺を飼い馴らすことができるのは、お前だけだ」

 深い闇を纏って夜の街を生きる獣が、鋭い牙の下に優しさを隠していることを、雪矢は知っている。

 腕の中に雪矢を抱えたまま、再び熱を持ちつつある下半身の暴走を何とか抑え、佐竹が自らに“おあずけ”を課していることに気付きながらも。

 押し寄せてきた射精後の疲労感に呑まれた雪矢は、そのまま深い眠りの底へと落ちていったのだった。




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