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○●○


 マンションに着くなり、雪矢は佐竹をソファーの上に押し倒し、その逞しい身体の上に跨った。

「まだクスリが残ってやがるな。水を持ってくるから大人しくしていろ」
「やです」

 身体が熱いのは飲まされた薬の効果かもしれないが、微かに煙草の香りが残るスーツの胸に飛び込んで思いきり甘やかされたいこの気持ちは、薬のせいではない。

「こら、雪矢」

 優しくたしなめるように、跨った腰の上から身体を下ろそうとする手を無視して。
 雪矢は佐竹の上に覆いかぶさり、男らしく引き締まった唇に自分の唇を重ねた。

「ん、ん……っ」

 既に熱を持っている身体は軽いキスだけで反応して、佐竹の腰に押し付けた雪矢のモノは硬くなり始めている。

 拙いキスを続けながらねだるように腰を揺らして下半身を擦りつけると、もう雪矢を止めることはできないと諦めたのか、佐竹は押し倒されたまま雪矢の身体を抱いて、甘いキスを返してくれた。

「やんちゃ坊主め」

 そう言って笑い、大きな手でそっと頬を撫でる男の精悍な顔を間近に見下ろして、もう一度唇についばむようなキスを落とす。

 密着した腰の間で佐竹のペニスも硬く勃ち上がりかけ、臨戦態勢をとりつつあるのが伝わってきた。

「佐竹さん」
「そんな潤んだ目で俺を煽るな。どうなっても知らねえぞ」

 百戦錬磨のはずのこの男が、まさか雪矢に押し倒されるとは思っていなかったのか、自分の上にピッタリと重なる細い身体の扱いに困っている様子が何とも愛おしい。

 硬く芯を持ち始めたお互いのモノをぐにぐにと押し付け合いながら、雪矢は甘えるように逞しい胸に顎を乗せて佐竹の顔をじっと見つめた。

「俺、さっきのヤクザみたいな人たちに身体を触られて“ヤられるかも”って思ったとき、本当に嫌だったんです」
「当たり前だ。お前の身に何かあったら、俺だってどうなっていたか分からねえ」

 包帯の巻かれた雪矢の右手を持ち上げて苦しそうに顔を歪めた佐竹が、指先にそっと唇を付けて低い声で囁く。

「でも、佐竹さんに触られたときは……ちょっと怖くて恥ずかしかったけど、嫌ではなかったんです。その、初めてのときも」
「雪矢……」
「佐竹さん以外の男に触られるのは絶対嫌で、すっごく気持ち悪かったのに。今はすごく佐竹さんに触って欲しくて、俺も佐竹さんに触りたくて……ええと、だから」

 薬の効果なのか少し頼りなくなってきた口調で一生懸命に紡ぎ出される言葉を、佐竹は急かすことなく辛抱強く聞いてくれているが、密着した身体からは少しずつペースを速めつつある鼓動がしっかりと伝わっていた。

「気付くのが遅くなってごめんなさい。俺、佐竹さんのことが好きです」
「――!」

 この感情がいつから芽生えていたのかは分からない。

 自分の淹れるコーヒーを飲んで“美味かった”とチップを置いて帰るトイチの金貸しの優しい顔に少しずつ惹かれていったのかもしれないし、もしかしたら初めて出会ったときから、この危険な野獣が放つ雄の魅力に捕らえられていたのかもしれない。

 気づいた時にはもう、好きになっていたのだ。

「佐竹さん?」

 何の反応も返ってこないことに不安になり、黙って硬直している男の顔を覗き込むと、佐竹は雪矢の腰に腕を回してそっと身体を抱きしめてきた。

「……お前には、敵わねえな」

 そのまま体勢を入れ替えようとする佐竹を制して、雪矢は発情した野獣の顎先にキスを落とす。
 そして、にっこり笑ってその男前の顔を見下ろしたのだった。

「駄目ですよ、今夜は俺が佐竹さんを襲うんですから」



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